「自信に満ちた男性ほど、心が折れやすい」テストステロンの意外な影響(ナゾロジー)|dメニューニュース

Credit:ナゾロジー編集部,OpenAI

筋肉隆々で、自信に満ち溢れているのに、ちょっと否定的なことを言われると深く傷ついたり、急にふさぎ込んでしまう。

そんなお豆腐メンタルの筋肉キャラというのが、漫画などにはちょくちょく登場します。

これはギャップのある単なるキャラ付けの様に思えますが、実は現実においても筋肉質で堂々とした男性は、メンタルが弱く心が折れやすい可能性があるようです。

中国科学院心理研究所(IPCAS)らの研究で、テストステロン濃度が高くなると、男性は自分の社会的な評価に対して敏感になり、褒められれば自信が急上昇する一方で、けなされると過剰に落ち込みやすくなる傾向が示されました。

テストステロンは、筋肉質で男性的な体つきに影響するホルモンですが、実はその影響は体だけでなく、心の働きにも深く関係しています。

この研究の詳細は、2025年5月に科学雑誌『Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging』に掲載されています。

  • テストステロンは「心」にも影響するホルモン
  • 自信過剰なのに繊細、テストステロンの裏側

テストステロンは「心」にも影響するホルモン

テストステロンとは、いわゆる「男性らしさ」をつくるホルモンで、主に男性の精巣で分泌され、筋肉や骨の成長に関わっています。

声変わりや性欲の調節など、第二次性徴を促すのも、このホルモンの働きによるものです。

しかしこのホルモンは、単なる肉体的な変化だけでなく、心の動きや社会的なふるまいにも関与していることが明らかになってきています。

例えば、テストステロン値が高い男性は、競争心が強く、社会的地位や他人からの評価に敏感である傾向があるとされてきました。

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ただし、これまでの多くの研究はテストステロン値と性格傾向の相関を示した観察研究にとどまっており、因果関係ははっきりしていません。

たとえば、筋トレを日常的にしている人や、成果主義の職場で働く人、生活習慣が整っている人は、自然とテストステロン値が高くなりやすい傾向があります。つまり、自信に満ちて見えたり、社会的な評価に敏感な傾向はテストステロンのせいというより、そうした生活や環境が影響している可能性もあるのです。

そこで今回、研究チームはテストステロンの心理的影響をより直接的に検証するため、実験的にテストステロンを投与して因果効果を確かめることにしました。

研究は中国科学院心理研究所(Institute of Psychology, Chinese Academy of Sciences)を中心とした国際共同研究として行われ、スイスのチューリッヒ大学などからも研究者が参加しています。

被験者となったのは、18歳から35歳までの健康な成人男性176人です。

彼らはランダムに2つのグループに分けられ、一方にはテストステロンを経皮吸収で投与し、もう一方にはプラセボ(偽薬)を使用しました。

被験者には自分に関する社会的評価を受けてもらい、それをもとに自己評価を報告してもらっています。

評価の内容は「あなたは協力的です」「あなたは利己的です」といった、性格に関する他者のフィードバック形式で示されていて、テストステロンの投与によって、こうした「他人からの評価」が、どのように自己イメージを変動させるかが分析されました。

さらに、研究者たちはこの自己評価の変化を「状態的自己評価(state self-esteem)」としてモデル化し、反応の強さを数理的に測定するアルゴリズムを導入しました。

この点においても、この研究は単なる心理テストにとどまらず、神経認知科学的な手法と計算モデルを融合させた現代的なアプローチを取っています。

ではテストステロンは実際に、どのように男性の心理影響したのでしょうか?

自信過剰なのに繊細、テストステロンの裏側

実験の結果、テストステロンを投与された男性は、他人から肯定的なフィードバックを受けたとき、自己評価が大きく上昇する傾向が見られました。

反対に、否定的な評価を受けた場合には、プラセボ群の男性よりも著しく自己評価が低下することがわかりました。

つまり、テストステロンは「自信を押し上げるホルモン」であると同時に、「他人の評価に強く左右される感情的な揺れを増幅させるホルモン」であることが示唆されたのです。

研究者たちはこの結果を、「テストステロンが社会的な報酬や脅威に対する感受性を高め、自己イメージの可塑性を増す」と解釈しています。

ここで注目すべきは、テストステロンが精神的な強さそのものを高めているわけではない、という点です。

むしろ、社会的な評価がポジティブなときは高揚感をもたらし、ネガティブなときには深い落ち込みを招くという、いわば「感情の振れ幅」を拡大しているのです。

テストステロンは、若い男性ほど分泌量が多く、特に20代前半がピークとされています。また、筋トレを習慣にしている人や、競争の激しい仕事に就いている人、高タンパクの食事や良好な睡眠を意識している人も、テストステロン値が高くなる傾向があります。

つまり、活発でエネルギッシュな若年男性、体育会系の学生、営業職やリーダー職にある人などが該当しやすいと言えるでしょう。そうした人々は、自信にあふれ、行動力があり、積極的に物事に挑戦する姿勢を見せることが多くあります。

しかし、今回の研究は、そうしたテストステロンが高い人ほど、他人からの評価に対して心が大きく揺さぶられやすいことを示しました。褒められればぐっと自信が高まり一方、けなされると簡単に心が折れやすい可能性があるのです。

Credit:canva

そのためテストステロンは、これまで言われていたような単に自信を高めるホルモンというより、社会的な承認や拒否に対して感情の起伏を強めるホルモンだという新たな側面が明らかになったのです。

スポーツ選手などもテストステロンは高い傾向があるため、自信家で屈強なのに、妙に人の意見に影響されやすく、繊細でメンタルが弱かったりする場合、それはテストステロンの影響だと考えられます。

また、自分自身についても、「自分は打たれ弱い」「気にしすぎる」と感じている場合、それが性格だけでなく、ホルモンの影響かもしれないと知ることは、自責感を和らげ、心のケアにつながるかもしれません。

体内のホルモンは想像以上に、私達の様々な部分に影響しているようです。

参考文献

Testosterone heightens men’s sensitivity to social feedback and reshapes self-esteem

Testosterone heightens men’s sensitivity to social feedback and reshapes self-esteemhttps://www.psypost.org/testosterone-heightens-mens-sensitivity-to-social-feedback-and-reshapes-self-esteem/

元論文

Testosterone Administration Increases the Computational Impact of Social Evaluation on the Updating of State Self-Esteemhttps://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2451902225000655

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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