日焼け止めスプレーで化学性肺炎を発症
日本小児科学会は昨日(9月25日)、紫外線から肌を保護する日焼け止めスプレー(以下、UVスプレー)を過剰に吸入したことで化学性肺炎を発症したInjury Alert(傷害速報)を公表した。胸部X線写真で中葉から下葉にかけてすりガラス状陰影が認められ、翌日には呼吸症状は改善したものの、画像所見に変化がなかった。揮発性が高く、粘度が低い炭化水素を含む当該UVスプレーを半閉鎖空間で吸引した場合、気管支上皮障害やサーファクタントの破壊などを来す恐れがある。
UVスプレーを噴霧して10分ほど遊んだ後、呼吸困難が出現
症例は11歳9カ月の女児で、帰宅した父親が顔面蒼白で苦しそうにしている女児を発見し救急搬送した。
女児は、液体のりにUVスプレーを噴霧すると表面が固まって透明なフィルムができることに気付き、さまざまな物にUVスプレーを噴霧して10分ほど遊び、リビングルームに移動後に呼吸困難が出現した。父親によると部屋の換気はなされておらず、室内にはUVスプレーの臭気が充満していたという。
【経過】
UVスプレー曝露から1時間後、医療機関に到着時には呼吸困難が改善した。バイタルサイン、血液検査、身体所見に異常はなかったものの、胸部X線写真で中葉から下葉にかけてすりガラス状陰影を認めた(図)。曝露から2時間後、救急外来で経過観察中に呼吸困難が出現し下肺野で呼吸音の減弱があり、酸素飽和度(SpO₂)が92%(room air)に低下。経過からUVスプレー吸入による化学性肺炎と考えられた。
図. UVスプレー吸入から1時間後の胸部 X 線写真
(日本小児科学会公式サイトより)
酸素投与により呼吸困難とSpO₂の改善が見られたため投与を中断したが、その後SpO₂が87%に低下して鼻カニューラ酸素2L/分の持続的投与を開始し、救急科病棟に入院となった。曝露から6時間後に再び呼吸困難が出現し咳嗽も認められたことから、去痰薬吸入などを施行したところ、20分後には改善した。8時間ごとの去痰薬吸入を継続し、翌日(曝露から19時間後)には呼吸器リハビリテーションを開始した。胸部X線写真については搬送時から所見に変化がなかった。
曝露から24時間時点で呼吸困難は体動時にのみ見られた。曝露から36時間後、酸素投与を中止し48時間後には体動時の呼吸困難も改善して、60時間後に退院した。曝露から8日後の外来時胸部X線写真ではすりガラス状陰影が改善し、曝露後6カ月時点で無症状となり、X線写真に増悪は認められなかった。
使用後に呼吸困難、胸痛などが出現したら直ちに医療機関受診を
今回の事例は、半閉鎖空間での換気不十分な中で大量のスプレー成分への曝露により肺炎を来した可能性があり、特に炭化水素(Liquefied Petroleum Gas;LPGや水添ポリイソブテン)、揮発性物質が原因と考えられた。
また同学会こどもの生活環境改善委員会は、当該UVスプレーには揮発性が高く、粘度が低い炭化水素が含まれており、半閉鎖空間で吸引した場合は①気管支上皮障害、②サーファクタントの破壊、③油性成分が粒子となって肺深部に到達―を引き起こす可能性があると指摘。UVスプレー使用時の注意点として、屋外や換気のよい場所で使用すること、顔に直接スプレーしないこと、使用後に呼吸困難、咳嗽、胸痛などの症状が出現した場合は直ちに医療機関を受診することなどを呼びかけている。
(編集部・田上玲子)