成人向け漫画に厳しい対応 クレカ大手相次ぎ撤退、決済できず なぜかオタク婚活サイトも

クレジットカードの決済ができなくなり、一時サイト停止を余儀なくされた「マンガ図書館Z」(同サイトから)

成人向けの漫画配信や同人誌の販売サイトなどで、クレジットカード大手ブランドの決済が使えなくなるケースが相次いでいる。背景にはインターネット上の性的コンテンツに対する米国の厳しい判断があるとされる。ただ、判断主体や基準はあいまいで、無関係の事業者でも決済が停止される事態も起きている。「表現の規制だ」との声もあり、日本国内では波紋が広がっている。

「禁止語句」のリスト

絶版漫画などの電子書籍配信サービスを行うウェブサイト「マンガ図書館Z」では昨年、加盟店契約していた決済代行会社から一部の作品の削除要求を受け、従ったにも関わらず、契約を解除された。

運営会社の乙川庸之社長によると、昨年5月ごろ、決済代行会社から、アダルトコンテンツを3日以内に削除するようメールで要請された。

その際「禁止語句」のリストも送られ、「強姦」「凌辱」「強制わいせつ」といった性的語句を含む作品を対象とするよう伝えられた。

ただ、中には「拷問」「奴隷」「催眠」など必ずしも性的な文言とはいえないものや「暴行」「被害」「犯」「切断」など一般的な単語や漢字1字も含まれていた。

話し合いを重ねたが、結果的には承諾せざるを得ず、該当作品を削除。しかし、同年10月、突然「1週間以内に契約を解除する。決定事項だ」と通告された。

決済代行会社に停止理由や判断主体を聞いても明確な回答はなかった。現在は新たに別の決済代行会社と加盟店契約を結び、サービスを再開できたが、乙川さんは「1つの金融機関の判断で、作品のよい、悪いが決められてしまうことに危機感を持った」と話す。

成人向けコンテンツを扱う大手ウェブサイトでは昨年、同様の事態が相次いだ。同人作品などの販売サイト「DLsite」や、同人書籍販売「メロンブックス通販」も一時、決済停止を発表。動画投稿サイト「ニコニコ」でも同年5月、ビザ決済が一時、停止になる事態となった。

無関係の事業者も…

中には成人向けサイトとは無関係の事業者も停止連絡を受けた。昨年12月、米国のビザカードから突然決済を中止すると連絡を受けたのは婚活サイト「アエルネ」。「オタク」な趣味を持つ人同士をマッチングする婚活サイトで、千組を超える成婚実績がある。

運営会社「ちくちく」(東京)によると、昨年10~11月、決済代行会社から、ビザやマスターカードでの決済を継続するため、利用規約の禁止事項に「犯罪行為および詐欺行為、ならびにそれらを助長する行為」を追記するよう指示されたという。

同社は指示に従ったにもかかわらず、同12月、決済代行会社から、「ビザカード決済が近日中に停止する」と連絡を受けた。

同社は「突然の停止連絡で、何が問題だったのか説明がなく、判断基準がわからなかった」と困惑。停止連絡から2日後、「決済を継続する」と連絡があったが、なぜなのか説明はなかった。担当者は「有料コース会員の9割以上がカード決済のため、ビザ決済が止められた場合、大きな混乱があっただろう」とする。

米判断が影響?「金融的検閲」との声も

相次ぐ決済停止には米国側の厳しい司法判断があるとの指摘もある。米カリフォルニア州では、大手アダルトサイト「ポルノハブ」に動画を無断で投稿されたとする少女が運営元を提訴。決済をしたビザも被告に含めることを求めており、2022年、裁判所はビザも被告として責任が問われるとの判断を下した。

米国のビザ本社を訪れるなど決済停止問題を調査している自民党参院議員は「クレジットカードはインフラの一部であり、決済停止は表現の規制だ」と非難。停止は米国の厳しい判断基準によるものとみられるが、事業者側に理由説明がされることはなく、判断プロセスは不透明だとし、停止理由を通知するよう法整備を進めたい意向だ。

問題に詳しい山口貴士弁護士(東京弁護士会)は「日本では合法でも海外では違法とされるケースもあり、カード会社の社会的責任として決済停止措置を取ることは理解できる面はある」としつつも「その力は事業者にとって『金融的な検閲』というべきもので、ネット上での表現活動への影響は極めて大きいだろう」としている。

ビザは取材に対し「グローバル企業として、ビジネスを行うすべての国・地域において、適用法令に準拠して運営している」と回答した。

「重要インフラ」クレカ決済、制裁手段にも

決済手段が多様化していく中、クレジットカード決済はいまなお主流なツールだ。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は、クレジットカードを防護すべき「重要インフラ」として位置づけている。

経済産業省がまとめたデータによると、国内の民間最終消費支出に占めるキャッシュレス決済比率は年々上昇し、昨年は42・8%(決済額141兆円)を記録。うちクレジットカード決済は82・9%(同116・9兆円)を占め、次点のコード決済9・6%(同13・5兆円)を大きく引き離した。

クレジット大手JCBが昨年一般消費者3500人に行った調査によると、クレジットカードの保有率や利用率はともに80%を超える高水準だった。

こうした影響の大きさから、クレジット決済の停止措置は制裁の手段としても用いられる。ロシアがウクライナへ軍事侵略を開始した2022年には、ロシアに対する経済制裁として米ビザやマスターカードがロシア国内での業務を停止し、JCBやアメリカン・エキスプレスがこれに続いた。(藤木祥平)

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