ネタバレ解説『ほんとにあった怖い話』「右肩の女」ラストの意味は? 女の正体と嘘、時代背景を考察
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2012年放送の「右肩の女」
2012年の『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2012』で放送された「右肩の女」は、岡田将生が主演を務め、脚本を穂科エミ、演出を鶴田法男が手がけた作品だ。、2025年8月16日(土) 放送の『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2025』では“最恐選挙”で選ばれた6編の一つとして、デジタルリマスター版の放送が決定した。
今回は、『ほん怖』の人気作品である「右肩の女」について、ネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は「右肩の女」の結末までのネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
ネタバレ注意 以下の内容は、ドラマ「右肩の女」の内容に関するネタバレを含みます。
『ほんとにあった怖い話』の「右肩の女」の主人公・沢田利也は就職活動で苦労していた。冒頭で「このご時世なんだから」と諦めの声を漏らしているが、2012年というのは2008年のリーマンショックに2011年の東日本大震災が重なった新就職氷河期のど真ん中だった。
「右肩の女」で主演を務めた岡田将生は、2012年当時23歳。すでに様々なドラマや映画で活躍を見せていたが、この年のNHK大河ドラマ『平清盛』で源頼朝役を演じて大河初出演を果たしている。同年5月には主演作の映画『宇宙兄弟』が劇場公開されている。
利也の友人の山田健太を演じたのは窪田正孝で、当時24歳。岡田将生と同じく大河ドラマ『平清盛』に平重盛役で大河初出演を果たしている。余談だが窪田正孝の誕生日は広島に原爆が投下された8月6日で、岡田将生の誕生日は終戦の日である8月15日だ。
利也は、一緒にいると疲れるという理由で彼女の伊藤真美と別れたがっていた。だが、利也がいざ別れ話を切り出そうとすると、霊感があるという真美は右肩に「赤と青の服を着た髪の長いおばさん」が見えると言い出す。
カフェのシーンでは、利也の背後に髪の長い幽霊がいるように見えるが、後ろに座っている客が下を向いていただけだったという細かい演出も。真美の言う「右肩の女」が何者なのか、ということが本作「右肩の女」の主題になる。
真美はその日のうちに利也の家に行くと、大量のお札を貼って帰る。お祓いが効いたのか、利也の右肩は軽くなるが、それでも利也は真美と別れたい。だが、真美は夢の中でワンピースを着た女に追いかけられたと言ったり、友人しか見られないはずのブログの来訪者にワンピースの女がいると来訪者のリンク先の画像を見せたりと、不安を煽って利也を引き止める。
普通なら怖くなって恋人関係の話は二の次になりそうなものだが、それでも別れたいと思っている利也もなかなかのメンタルの持ち主だ。真美は、二人は狙われているからしばらく一緒にいようと提案するが、利也がこれを断ったところから「右肩の女」は存在感を発揮していく。
ワンピースの女の正体
利也は真美から聞いていた話の通りの体験をする。赤と青のワンピースを着た女が現れて追いかけられるのだが、これは夢だった。しかし、利也は目が覚めたベッドの上で金縛りにあうと、上に乗っていたワンピースを着た女に「邪魔するな!」と告げられる。これも真美が見たと言っていた夢と同じ展開である。ちなみに部屋に幽霊が現れたシーンでは、部屋の中にはまだお札が貼られている。
結局、利也は大学の講義中に目を覚まし、先程の出来事も夢であったことを悟る。しかし、講堂に赤と青のワンピースの女が現れると、窓ガラスが割れて利也は怪我をしてしまう。ついに実害が発生したのだ。
利也は紹介された霊媒師に、ワンピースの女が彼女の生き霊だと告げられる。霊感が強い彼女は、利也が別れようとしていることに気がつき、霊が憑いていると嘘をついていたが、そうしている内に生き霊になって利也に取り憑いてしまったという。夢の中でワンピースの女が2本の足でダッシュして追いかけてきたのは、死んだ霊ではなく生き霊だったからだろうか。
また、これも夢の中ではあるが、部屋のベッドの上に女が現れた時、部屋にお札が貼ってあったのに効果がなかった。ワンピースの女がお祓いをした張本人の生き霊であったため、結界を破ることができたのかもしれない。
ラストの意味は?
霊媒師からはっきりと別れを伝えるよう助言された利也は、真美と会うことに。利也は窓が割れて怪我をした日、真美が別の大学の学生なのに講義室にいたと指摘。あのシーンは夢の中ではなかったが私たちに赤と青のワンピースの女が見えた理由は、この女が真美の生き霊であり、真美があの場にいたから、ということなのだろう。
利也は「別れよう」とはっきり伝え、ついに真美の前から立ち去ったのだった。後日、真美からは子どもの頃に気に入って着ていた赤と青のワンピースを見つけたという連絡が来る。そして真美は、「あの女、私だったのかも」と、自分の生き霊であったことを認めたのだった。
『ほんとにあった怖い話』の「右肩の女」は、全体を通してコミカルな空気が漂う異色作だ。「ほん怖じゃあるまいし」とメタな発言をしたり、鏡を見て驚くと自分が映っているだけだったり、スマホと間違えて財布を取ったりと、芸が細かい。
「右肩の女」でポイントになるのは、どこまでが真美の嘘で、どこからが真美の生き霊だったのかという点だ。最初は真美は利也に憑いた霊なんて見えていなかったのに、別れを切り出す空気を察して嘘をついた。お祓いを口実に久しぶりに利也の部屋に行き、帰り際に頬にキスをするなど、なんとか挽回しようともがいていた。
最初に真美が右肩の女の服装として「赤と青のワンピース」を挙げたのは、子どもの頃に好きで着ていた服についての潜在的な記憶があったからだと考えられる。咄嗟の嘘であったが故に、自分が好きだった服を言ってしまったのだろう。
ブログの件が自作自演だったのかについては最も意見が分かれるところだろう。ブログの訪問者の画像は服の色が判別できないくらい粗いもので、真美が自作できるようなものではある。その後、真美は「しばらく一緒にいること≒同棲すること」を切り出すも断られ、そこから赤と青のワンピースを着た女がリアルな姿で描かれるようになる。
ここから真美の嘘は生き霊に切り替わったのだろう。夢の中で利也の前に現れた霊は真美の生き霊だったのだ。先の文で解説した通り、大学の講堂に現れたのも真美の生き霊で、窓が割れたのも生き霊の仕業だと考えられる。おそらく利也は大学の授業中にあの女が現れる二つの夢を見ていたが、それも真美が近くにいたからだ。
結局、何が「真美の嘘」だったのかというと、シンプルに「右肩の女」というのは存在しない嘘だったということである。「右肩の女」というタイトルはミスリードで、真美が最初に指摘した「右肩の女」は存在せず、途中から利也と別れたくない真美の生き霊が利也を襲ったという物語だったのである。
先に触れた通り、『ほんとにあった怖い話』で「右肩の女」が放送された2012年は、東日本大震災の翌年だ。年末には自民党政権が復活することになり、「絆」が掲げられながらも若い人たちは新就職氷河期に直面する苦しい時代だった。原発事故の影響で日本からの脱出を目指す人も少なくなかった。
そんな社会状況の中で、恋人を重荷に感じる人もいれば、恋人との別れに絶望を感じる人もいる。社会が苦しい状況にあるが故に、どちらの思いも、2倍にも3倍にも感じられたのかもしれない。「右肩の女」特有のコミカルさがなければ、本作はより重たくて救いのない作品に感じられただろう。「右肩の女」はユーモアともの哀しさが共存する傑作だった。
『ほんとにあった怖い話』はFODチャンネル for Prime Videoで配信中。
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