イヌとトコジラミは「家畜」でウマは「非家畜」 新たな論文が物議

科学者たちは家畜と人間の関係を定義しようとしている。新たに提案された定義では、イヌやトコジラミは「家畜」であり、ウマやブタは「家畜」ではない。(PHOTOGRAPH BY MARK STONE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

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 あなたのペットのパグは、間違いなく家畜化したイヌだ。牧場にいるウシも家畜に見える。では、家と外を行き来しながら暮らし、ありがた迷惑なプレゼントを家に持ち帰るネコはどうだろう? ネズミやトコジラミのように、家にすみ着いて私たちを困らせる動物は? 家畜化とはどのようなことで、動物はどうなったら「家畜」と言えるのか。5月12日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された、家畜化の新たな定義を提唱した論文が物議をかもしている。

「家畜化の定義について合意されていることは何もありません」と、論文の筆頭著者で、米マサチューセッツ大学チャン医学大学院の進化生物学者であるキャスリン・ロード氏は言う。「つまり、家畜化を研究していると言っても、私たちは実際には何も話し合っていないのです」

 ロード氏と共著者のエリナー・カールソン氏は、ロシアの科学者がキツネの家畜化を試みた有名な実験をふまえ、飼いならされたキツネの遺伝学に関する論文を発表したときに、この問題に直面した。キツネたちは人に慣れていたが、彼らは家畜化したのだろうか? どんな定義で?(参考記事:「従順か攻撃的かの遺伝子特定か、ペットのキツネで」

 そこでロード氏らは今回、科学界が納得できるような方法で家畜化を新たに定義しようと試みた。彼らが定義する「家畜」とは、人間の活動の影響を受けたニッチ(生態的地位)や役割に対応して進化した人間以外の生物の集団のうち、人間がいない状況では繁栄できないもののことだ。

 この論理に従えば、イヌ、トウモロコシ、ドブネズミ、トコジラミなどは「家畜」であり(訳注:日本語では、植物の場合は「栽培植物」と呼ぶ)、一般的に「家畜」と考えられているウマやミツバチなどは「家畜」に含まれないことになる。

 ロード氏らは、新しい定義によって、科学者たちが家畜化をより体系的に研究できるようになると期待している。しかし、他の研究者たちは、利点がある一方で欠点もあると考えている。また、そもそも新しい定義が本当に必要なのかと問いかける研究者もいる。

家畜化の定義をめぐる科学者の答え

 多くの科学者は家畜化をどう考えているのだろうか?

 動物が家畜化されている(植物が栽培化されている)ことを表す「domestic」という英語は、家や家庭を意味する「domus」というラテン語に由来しているので、その生物が生きている場所が重要になるのは明らかだ。

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