6億光年離れた銀河をさすらう“超巨大ブラックホール”が発見される(WIRED.jp)

ほぼすべての銀河の中心には、超巨大ブラックホール(超大質量ブラックホール)が潜んでいると考えられている。その質量は太陽質量の100万倍から数百億倍にもなるという。 もちろん、わたしたちが暮らす天の川銀河の中心にも超巨大ブラックホールが潜んでいる。「いて座A*(エー・スター)」と呼ばれるこの超巨大ブラックホールの質量は、太陽質量の400万倍ほどになるという。 このいて座A*が初めて撮影されたのは、2017年4月のこと。世界各地の8つの電波望遠鏡を地球サイズの電波望遠鏡として構成したイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によって、撮影に成功した。このEHTには、日本の国立天文台やヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するチリ北部のアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計=ALMA)も参加している。 このような超巨大ブラックホールは、通常は銀河の中心に潜んでいる。ところが、銀河内をさすらう超巨大ブラックホールが、このほど発見された。その質量は太陽質量の100万倍ほどで、地球から6億光年ほど離れた遠方の銀河内をさすらっているという。このカリフォルニア大学などの研究チームによる研究結果を、米航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡の画像などを交えながら解説していこう。

このような光(電磁波)を出さない超巨大ブラックホールを、研究チームはどのようにして発見したのだろうか。 恒星が超巨大ブラックホールに近づきすぎると、その強大な引力によってとらえられ、スパゲッティのように引き延ばされて破壊される。そして、その残骸は超巨大ブラックホールの周囲に円盤を形成し、その周りを公転しながら、超巨大ブラックホール内に落ちていく。このとき円盤は、残骸同士の摩擦によって数百万℃という超高温になり、X線や可視光線などさまざまな光(電磁波)で光り輝く。これが「潮汐破壊現象」と呼ばれる現象だ。 研究チームは、地球から6億光年ほど離れた遠方の銀河内をさすらう太陽質量のおよそ100万倍の質量をもつ超巨大ブラックホールがこのような潮汐破壊現象を引き起こしたことで、これを発見することができた。なお、この潮汐破壊現象は「AT2024tvd」と命名された。 AT2024tvdを最初に観測したのは、カリフォルニア工科大学のパロマー天文台にある「ツビッキー掃天観測施設(ZTF)」の口径1.2mの望遠鏡だった。 その後、この超新星爆発に匹敵する明るさの“閃光”を、いくつかの地上に設置された望遠鏡が観測した。しかし、この閃光は非常に高温であったこと、そして水素、ヘリウム、炭素、窒素、シリコンなどの広範な輝線(スペクトル上の明るい線)を示したことなどから、超新星爆発ではなく潮汐破壊現象であると考えられた。 その後、さらに、NASAのハッブル宇宙望遠鏡やチャンドラX線観測衛星などによる追加観測が実施され、AT2024tvdの詳細が明らかになっていった。 これらの追加観測によって、AT2024tvdは銀河の中心から離れたところで引き起こされていたことが確認された。これまで光学掃天観測によって確認された潮汐破壊現象は100個ほどになるが、いずれも銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールが引き起こしたものである。このため、銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールとは無関係に引き起こされた潮汐破壊現象が観測されたのは、これが初めてとなる。 AT2024tvdが観測された銀河の中心には、太陽質量の1億倍ほどの質量をもつ別の超巨大ブラックホールも潜んでいる。銀河の中心部に存在する丸い膨らみであるバルジをさすらいながらAT2024tvdを引き起こした超巨大ブラックホールとの距離は、僅か2,600光年ほどしかない。これはいて座A*から太陽までの距離の10分の1ほどだ。 AT2024tvdを引き起こした超巨大ブラックホールの起源については複数の可能性が指摘されているが、はっきりした答えは出ていない。例えば、銀河の中心に潜む3つの超巨大ブラックホールの相互作用によって最も軽い超巨大ブラックホールが弾き飛ばされた可能性や、10億年以上前に合体したより小さな銀河の残骸である可能性などが指摘されている。 AT2024tvdを引き起こした超巨大ブラックホールは、最終的に螺旋を描きながら銀河の中心部に落ちていき、そこでそこに潜む超巨大ブラックホールと合体する可能性があるとされている。しかし、現時点ではこれらのふたつは重力的に影響し合っていないという。 今回の研究では、潮汐破壊現象を用いれば銀河の中心以外に潜む超巨大ブラックホールを探索できることも判明した。このため研究チームを率いたカリフォルニア大学のヤオ・ユーハンは、「今回の発見は、光学掃天観測によって銀河の中心以外に潜む相当数の超巨大ブラックホールが明らかにされる可能性を開きました」と期待を膨らませている。

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