H2Aロケット最終号機、まもなく打ち上げ 発射地点へ移動、責任者「必ず有終の美を」
高い信頼性から〝名作〟と呼ばれてきた日本の主力大型ロケット「H2A」のラストフライトが間近に迫ってきた。世界一美しいロケット発射場と呼ばれる種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)で組み立てられた50号機の機体は28日午前10時半、大型ロケット整備組立棟から移動発射台でゆっくりと運ばれ、約30分かけて約480メートル離れた発射地点に到着。29日午前1時33分の打ち上げに向け、配管の接続や燃料の充塡、電気系統のチェックなど、詰めの作業に入った。
打ち上げ成功率97・96%
計画では、50号機は打ち上げから6分43秒後、高度284キロで第1段と第2段を分離。同16分6秒後、高度672キロで国の地球環境観測衛星「いぶきGW」を分離し、軌道に投入する。いぶきGWは、地球の温室効果ガスと水循環の両方を観測できるハイブリッド型観測衛星で、初期の機能チェックなどを経て、打ち上げから約1年後に本格運用を始めるとしている。
H2Aは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した全長約53メートル、直径約4メートルの2段式大型液体燃料ロケットで、安全保障を中心とした国の使命を担う基幹ロケットと位置付けられている。
2001(平成13)年から2024年までに計49機を打ち上げ、小惑星探査機「はやぶさ2」や、月面着陸に日本で初めて成功した小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」、国の情報収集衛星など、さまざまな人工衛星や探査機を宇宙へと送り出してきた。まもなく打ち上げる50号機で引退し、後継機の「H3」に基幹ロケットの座を譲る。
これまでに打ち上げられた49機のうち、開発初期の6号機(2003年)だけは機体の不具合で失敗したが、残る48機は全て成功。打ち上げ成功率は97・96%と世界最高水準だ。
オンタイム率は世界トップ
H2A全機の開発や打ち上げに関わってきたJAXAの宇宙輸送技術統括、藤田猛さん(65)は、「ロケットには、定刻通りに打ち上げられたかどうかを示す『オンタイム率』という基準がある。悪天候などによる遅延の場合は除いて、通常の天候で機体のトラブルによる遅延が生じることなく定刻打ち上げに成功した比率を示すもので、H2Aは現時点で83・67%を達成しており、世界のトップだ」と胸を張る。
JAXAの藤田猛・宇宙輸送技術統括(伊藤壽一郎撮影)H2Aが名作ロケットと呼ばれるのは、こういった高い信頼性ゆえだ。藤田さんは「世界的にもずば抜けた信頼性で、四半世紀にわたって日本の宇宙開発の大黒柱となっていた。日本の技術者の勤勉さ、ものづくりの巧みさが作り上げた品質の高さだ」と振り返る。
そう言いながら、「そんなH2Aが世代交代で引退するのは、必然とはいえ少しさびしいが、必ず有終の美を飾ってくれると信じている。私にとって、毎号毎号、何かしら新しいことに気づかせてくれる先生のような存在だった」と胸の内を明かし、これまで深く関わってきた人物ならではの感慨をにじませた。
責任者「絶対に成功させる」
一方、三菱重工のH2Aロケット打上執行責任者である鈴木啓司さん(59)は、「H2Aが成功を収めることができた背景には、いくつかの要因がある」と指摘する。
三菱重工業の鈴木啓司・H2Aロケット打上執行責任者(伊藤壽一郎撮影)具体的には①H2Aを信頼して衛星などの打ち上げを継続的に依頼した顧客の存在②地元・種子島をはじめ日本中の人たちからの応援③JAXAとの強力な連携関係によるたゆまぬ取り組み④部品や装置などを供給する約1000社に及ぶパートナー企業の高い技術力と品質-などだ。これらがH2Aチームのモチベーションや結束を高め、信頼性向上に大きく寄与したという。
そして、非常に重要だったのが「チームでさまざまな取り組みを行う際、『異常発見、まず止まれ』というスローガンを大切にしてきたことだ」と話す。些細(ささい)なことであっても、いつもとちょっと違うとか、何かおかしいと思うことがあれば、必ず作業を止めて周囲に伝え、協議の上で次の進め方を決めることを、上から下まで徹底してきた。
この慎重な姿勢は、50号機の打ち上げ準備でも徹底された。50号機は当初、6月24日に打ち上げられる予定だったが、直前に電気系統の不具合が見つかり、29日に延期された。
結局、その不具合は「そのまま打ち上げても問題は生じなかっただろう」と話す関係者がいるほど軽微なものだったが、きちんと部品を交換し解決した。鈴木さんは「スローガン通りに立ち止まり、わずかな不安要素でも解消することが大切だった」と語る。
そんな作業を経て、いよいよ50号機の打ち上げが間近に迫ってきた。鈴木さんは、「これまでずっと、打ち上げ成功のための仕組み作りを積み上げてきた。それをあと1回重ね、丁寧にきっちりと打ち上げる。絶対に成功させる」と、きっぱり言い切った。