事務所・ポスター・ビラなし へそくりで選挙に出た49歳主婦の夏

JR前橋駅前で政策を訴える辛嶋美紀氏(奥)=2025年7月8日午後5時10分、木村敦彦撮影

 人影もまばらな地方の駅前に、その女性は一人で立ち、支持を訴えていた。

 白を基調とするたすきには「無所属新人」の青い文字が入っている。

 女性はれっきとした参院選の立候補者だ。

 手にしているのは、1万3000円で買った小さな拡声器。政党の後ろ盾はなく、支援してくれる人もいない。

 専業主婦だという女性は、なぜ参院選に単身で臨んだのか。その戦いを追った。

地盤、看板、かばんなし

 日本の選挙では、しばしば地盤(支持者の組織)、看板(知名度)、かばん(選挙資金)の「三バン」が大切と言われる。

 それに縛られずに出馬する候補もいるが、当選の見込みが乏しく「泡沫(ほうまつ)候補」とからかわれることもある。

 こうした「無所属新人」の存在は、私(記者)にとって一つの謎だった。

 参院選公示日の翌日、新聞に掲載されている立候補者一覧を「無所属」に注意して眺めていると、群馬選挙区に出ている辛嶋美紀氏(49)の名前が目に留まった。

 選挙公報やホームページ(HP)を見る限り、政治団体や業界団体から支援を受けている様子もない。

 いわゆる「2馬力」選挙を展開している様子もなく、とっぴな主張をしているわけでもなさそうだ。

 家族は夫と子ども2人がいるらしい。

 4人家族の暮らしを支える主婦は、なぜ出馬を決意したのか。その動機が気になって連絡を取った。

 選挙戦序盤の平日、辛嶋氏は待ち合わせ場所に淡いブルーのワンピース姿で現れた。

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