日本に「排外主義」が広がった?否定した研究者が求める外国人政策 [参院選(参議院選挙)2025]:朝日新聞
参院選(20日投開票)で、外国人の受け入れ抑制などが争点になっている。排外的な考えが日本で広まっているのか。社会意識論や政治社会学が専門で、外国人に対する日本人の意識を調査する早稲田大学文学学術院の田辺俊介教授に聞いた。
日本全体に排外的傾向「あるとは言えない」
――日本人の意識を調査をしてこられました。外国人への否定的な感情は、日本に広がっているのでしょうか。
これまでの調査を見る限り、日本全体に「排外的」な傾向があるかというと、そうとは言えません。
2009年から4年ごとに、全国の選挙人名簿から無作為抽出した成人の男女に、郵送やインターネットで調査をしてきました。
最新の21年調査では8640人に依頼し、3082人の回答を得ました。外国人が増えると「日本経済が活性化する」かという質問については、「そう思う」「ややそう思う」と肯定的だった人が47%と多く、「どちらともいえない」(38%)、「そう思わない」「あまりそう思わない」(16%)は少数でした。
外国人が増えると「異文化の影響で日本文化が損なわれる」かを尋ねた質問でも、「そう思わない」「あまりそう思わない」(47%)が、「そう思う」「ややそう思う」(23%)を上回っています。
外国人の増加で「日本社会の治安・秩序が乱れる」か、という質問には56%が「そう思う」「ややそう思う」と答えましたが、その割合は、成人年齢の引き下げで単純比較はできませんが、09年調査の69%から低下。「働き口が奪われる」という懸念も減っています。
日本に住む外国人は近年急増しています。日本人の大多数が排外的な傾向を持つのであれば、外国人の急増を受けて悪影響があると考える人が増えそうなものですが、実際には人々の懸念は高まっていませんでした。
外国人の増加に対する意識のグラフ――その一方、日本にいる外国人については、デマや誤解もSNSなどで目立ちます。なぜでしょうか。
排外主義的な思想を持った人が悪意を伴ったデマを流し、それが尾ひれも付けながら誤解として広がっていくのだと考えています。
例えば、「留学生が日本人学生より優遇されている」といった批判がSNSなどではあります。多くの場合、留学生全体の3%ほどしかいない国費留学生などを対象に、生活費などが支給されている例を取り上げているようですが、まるですべての留学生が優遇されているかのような受け止めが少なくありません。
そのような受け止めが広まるのは、高い授業料や「奨学金」という名の学生ローンなど、日本人学生の苦境が背景にあると思います。
――生活保護についても、受給できる外国人は永住者や定住者に限られ、受給世帯に占める外国人の世帯は23年度は3%未満ですが、外国人が「乱用」しているとの言説が広まっています。
そもそも日本では、受給者がたとえ日本人であっても、生活保護を受けること自体をたたく風潮があります。「権利」というより「恩恵」と捉えられがちで、「なぜ外国人にまで」となりやすいのでしょう。
1982年まで在日外国人は国民年金に加入することが出来なかったため、在日コリアンの高齢者は低年金の人が多く、比較的高い割合で生活保護を受給していましたが、そうした「事実」の一部をとらえて、「特権」とのデマが生まれました。
悪い情報の方が「人の情動を刺激」
――誤った情報を信じる人が少なくないのは、なぜなのでしょうか。
三つの要因があると考えています。一つ目は、人々の情報空間が、新聞やテレビといった旧来のマスメディアから、「気をひいたもの勝ち」の傾向がより強いソーシャルメディアに移行していることです。
二つ目は、「人の気をひく」情報には一定の傾向があり、良い情報よりも、悪い情報や危険を感じさせる情報の方が人の情動を刺激しやすいことがあります。
三つ目は、日本に住む外国人やインバウンド旅行客の数が急増し、街で「見かける」程度の接触は増えた一方、個人的に親しくなるなど、偏見が少なくなるような接触は少ないことがあります。
こうした複合的な要因が影響して、外国人という「外集団」に対するネガティブな誤情報が流布されやすくなり、結果的に信じてしまう人も多くなるのだと考えています。
移民の恩恵「見えにくい」
――移民を多く受け入れてきた欧米でも反発は強まっているようです。移民は社会にとって負担になるのでしょうか。
移民は若い人が多いため、受け入れの初期段階では経済的にプラスの効果があります。移民も高齢化していくため、長期的にはプラスマイナスゼロか、わずかにプラス。移民に関する経済学では、そういった見方が主流です。特に日本のような少子高齢化が著しい社会では、働いて納税し、消費もする若い外国人たちの存在は、プラスが大きいということが推論できます。
欧州などでもそうですが、移民から受けている恩恵は見えにくいものです。それに対し、犯罪などはメディアにも取り上げられやすく、目につきやすい。
日本の製造や流通、販売の現場は、すでに多くの外国人労働者に支えられています。こうした人々がいなくなれば、さらなる物価上昇は必至で、日本人の生活はより厳しくなる。そんな現状を無視し、外国人を不満のはけ口にしても、日本の社会に悪い影響しかもたらしません。
――何が必要でしょうか。
少子高齢化が深刻な日本は、他国にも増して、外国人労働者に頼らざるをえない状況にあり、本来の意味での「移民政策」こそ選挙で語られるべきだと、私は考えています。
外国人の子どもが十分な教育を受けられず、一部であっても非行に走るようなことがあれば誰が得をするでしょうか。
教育などの負担を地方自治体だけに負わせるのでなく、外国人労働者の恩恵を受けている企業にも応分の負担をさせる制度が必要ではないか。そんな政策こそ議論されるべきです。
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この記事を書いた人
- 浅倉拓也
- 大阪社会部
- 専門・関心分野
- 移民、難民、外国人労働者
2025年7月3日(木)公示、7月20日(日)投開票の参議院選挙に関するニュースをお届けします。[もっと見る]