「NVIDIA RTX Spark」とArm版Windowsでゲーム、制作、ローカルAIが妥協なく動く新世代PCを実現――COMPUTEX外の特設会場で技術デモや展示を披露

中央がノートPCの基板に実装されたNVIDIA RTX Sparkのチップ

 COMPUTEX TAIPEI 2026の会期中、NVIDIAは会場外の特設デモスイートにて新プラットフォーム「NVIDIA RTX Spark」の技術デモと、各社の搭載予定モデルの展示を行っている。6月3日に取材に訪れたので、本稿ではその模様をレポートする。

 今回のデモでNVIDIAが強調していたのは、RTX Sparkが単なる“Arm版Windows搭載PC向けの新SoC”ではないという点だ。AIエージェント、クリエイティブ制作、ゲームの3領域を横断し、薄型ノートPCや小型デスクトップ上でローカルに高負荷処理を実行する。そのためのハードウェア、Windows側のメモリ管理、アプリ最適化、ゲーム互換性をまとめて整備している、というのがデモ全体の趣旨だ。

 RTX Sparkは、Blackwell世代で最大6,144基のGPUコア、最大20コアCPU、最大1PFLOPSのFP4 AI性能、最大128GBの統合メモリ搭載をうたう、超強力なWindows向けSoCだ。

会場で展示されていたRTX Sparkを搭載するASUS「ProArt」シリーズの基板

 最初に披露されたのは、ローカルAIエージェントのデモだ。NVIDIAはMicrosoftと協力し、Windows上でAIエージェントを安全に動かすための取り組みを進めている。説明では、Microsoft Execution Containersによるサンドボックス化に触れつつ、その上にNVIDIA OpenShellを組み合わせ、HermesやOpenClawといったエージェントをWindows上で展開していくという。

 デモでは、RTX Spark搭載機上でLLM、画像生成、動画生成をすべてローカル実行。Photoshopに用意したコンセプトアートをもとに、エージェントが公開ワークフローを探し、画像生成やGaussian Splattingを使った視点変更、さらに動画生成までを支援した。ユーザーが複雑なワークフローを理解しなくても、「こうしたい」と指示すれば、探索や設定、生成をエージェントが担うという流れだ。

RTX Spark搭載機ならコンセプトアートから画像生成し、そこからさらに動画生成まで支援できることを示した

 開発者向けデモでは、Slackやメール、バグ報告を監視するロングランニングエージェントが、問題の要約、コードベースの解析、修正案の作成、Web UIを操作したQAパスまで実行した。説明によれば、35Bクラスのモデル、音声認識モデル、テキスト読み上げモデルを同時に読み込んだ状態でも動作しており、最大128GBの統合メモリを持つRTX Sparkらしい使い方と言える。

 ローカル実行の意義を示す例として、健康情報や食事履歴などのセンシティブな個人情報を外部に出さず、Discord経由で撮影したメニュー画像から「何を注文すべきか」を提案するデモも行われた。単なる翻訳ではなく、ユーザー固有の履歴を踏まえて判断できる点がローカルAIエージェントの強みと言える。

 クリエイティブ制作のデモでは、Adobe Premiere、Unreal Engine、Blenderが使用されていた。Premiereのデモは同じRTX Spark搭載機を2台並べ、片方は通常のベータ版、もう片方はTensorRT/RTX最適化を加えた特別ビルドという構成。シーン編集検出やカラー補正、4:2:2 10bit 4K/60fps素材の再生などを見せながら、RTX SparkのBlackwell世代GPUとハードウェアデコーダー、TensorRT最適化の効果をアピールした。

RTX Sparkに最適化されたPremiere(右)はよりスムーズな操作が可能になる

 複数カメラで撮影した4:2:2 10bit 4K/60fps素材を、トランスコードせず直接Premiereに取り込み、スムーズにスクロールできる点も披露。バッテリー駆動時でも急激に性能が落ち込まないとして、外出先での編集作業を訴求していた。

 Unreal Engineのデモでは、レイトレーシングを有効にした大規模シーンを表示。ここで重要なのは、このUnreal Engine EditorがArmネイティブではなく、Windows on ArmのPrismエミュレーション上で動作していたことだ。NVIDIAはDLSSプラグインを導入した一般公開版のUnreal Engine Editorを使い、エミュレーションでも実用的なパフォーマンスを示すことで、「Windows on Armだから(性能には)妥協する」という印象を払拭した。

BlenderはDLSS RRを使うことでカメラ移動時の画質が向上(画面右)。明らかに陰影がはっきりしている

 BlenderではDLSS Ray Reconstruction(DLSS RR)を使ったビューポート表示を実施、従来のOptiXデノイザーと比較し、カメラ移動時のノイズや収束速度の差を示していた。NVIDIAは、Armネイティブ化や独自最適化を進めるアプリと、Prismエミュレーションで既存資産を動かすアプリの両方を支える方針だ。

 ゲームのデモでは、「NARAKA: BLADEPOINT」、「フォートナイト」、「Alan Wake 2」、「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」などが使われていた。RTX SparkはBlackwell世代のGPUを内蔵するため、レイトレーシング、DLSS Super Resolution(DLSS SR)、Ray Reconstruction、ReflexといったNVIDIAのゲーミング技術を利用できる。

 今回掘り下げて紹介されていたのが、DLSS Ray Reconstructionの進化だ。NVIDIAはCESでDLSS 4.5 Super ResolutionとFrame Generationを発表していたが、今回のデモの中でRay Reconstructionにも第2世代Transformerモデルを導入することを明らかにした。提供時期は8月後半の予定で、通常のRay Reconstructionに対応する27本以上のゲームに、無料アップデートとして提供されるという。RTX 20/30/40/50シリーズに加え、RTX Sparkを含む幅広いGPUが対象となる。

 Ray Reconstructionは、パストレーシングやレイトレーシングの映像で問題になりやすいノイズをAIで再構成する技術だ。従来のデノイザーでは、光源が動いたり、反射や間接光が変化したりしたときに、影や光の情報が一瞬残る“にじみ”や、細部のざらつきが発生しやすい。NVIDIAの説明では、第2世代Transformerモデルはパフォーマンスを維持しつつ計算量が35%増え、パラメータ数も20%増加。これにより、照明変化への応答性、エッジの精度、時間方向の安定性が向上したという。

Pragmataのデモ。従来のモデル(左)だと赤い残像が残るがDLSS RRによって残像が残らなくなる(右)

 デモでは、まず「Pragmata」のようなパストレーシングを利用したゲームで、レーザー光が奥へ伸びるシーンを比較。従来モデルでは赤いレーザーの残像が背景に残りやすかったが、第2世代Transformerモデルでは残像がすばやく消え、開発者が意図したライティングに近い表現を維持できると説明された。

インディ・ジョーンズ/大いなる円環のデモ。従来モデル(左)より、DLSS RRで地面の質感が増している(右)

 「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」では、DLSS 4.5のSuper Resolution、最大6倍のMulti Frame Generation、そして新しいRay Reconstructionを組み合わせた例が示された。砂地の描写では、従来の表現だと単色に近く平坦に見えがちな部分に、より細かなテクスチャが復元される。影の深さや岩肌の質感も増し、単にフレームレートを稼ぐだけでなく、低解像度レンダリングから失われがちな情報をAIで補い、画作りそのものを改善する方向に進んでいることがうかがえる。

フォートナイトが問題なく動作していた

 Windows on Armにおけるゲーム互換性も強調されていたポイントだ。フォートナイトはEpic GamesのEasy Anti-Cheat、NARAKA: BLADEPOINTはNetEaseのアンチチートを利用しており、カーネルレベルのアンチチート対応が課題になりやすいArm版Windowsで、実際に競技系タイトルを動かして見せた意味は大きい。説明では、RiotのVanguard、KRAFTONやBattlEyeなどとも協力し、発売初日から可能な限り広い互換性を確保したいという。

 ゲーム性能については、現時点では具体的なフレームレートや設定を詳細に公表する段階ではないとしていた。現地スタッフによると、平均および最大フレームレートだけでなく、1% Lowやスタッターの少なさを重視していると説明。Microsoft側の担当者も、Prismエミュレーションをゲーム向けに最適化し、NVIDIAとともに“Armであることを意識しないWindowsゲーミング”を目標にしていると話していた。

Alan Wake 2はArmネイティブ対応という

 ネイティブArm対応とエミュレーションのどちらか一方に絞るのではなく、両方を並行して進める。Prismで既存ゲームをまず快適に動かし、ハードウェアを開発者に届けたうえで、UnityやUnreal Engineなどのエンジン、ミドルウェア側のArm対応を進める。Prismはネイティブ化へ進むためのステップという位置付けだ。

 特設デモスイートではASUS、Dell、HP、Lenovo、Microsoft、MSIも搭載モデルを展示、それぞれ説明も行われた。詳細仕様は未定という製品も多かったが、それでもクリエイティブワークや高度なローカルAIが可能にしながら、効率のよい冷却システムによってスリムなデザインになっている点がアピールされていた。2026年の秋から順次発売される見込みだ。

ASUS「ProArt P16」(手前)と「ProArt P14」(奥)。クリエイター向けモデルでそれぞれ2色展開だ
ASUSは小型PC「ProArt Mini PC」も展示
Dellは16型の「XPS 16 Creator Edition」を展示。性能面の詳細や量産仕様は未発表という
HP「OmniBook Ultra 16」。16型でAI開発者、クリエイター、ゲーマー向けのプレミアムモデル
HP「OmniBook X14」は14型でローカルAIを持ち運ぶポータブルモデル
Lenovo「Yoga Pro 9n」。ディスプレイにPureSight Pro OLEDを採用する15型モデル
Microsoft「Surface Laptop Ultra」。15型でSurface史上最大級のファンを採用しているという
MSIは2in1の「Prestige N16 Flip AI」を展開。16型の4K OLEDを採用し、ペン操作もサポートする
MSIでは小型PC「EdgeMesa N AI+」も展示されていた。オフィス、学校、病院、店舗などでのローカルAI利用を想定しているという

 RTX Sparkのデモは、スペックそのものよりも「Arm版Windows PCで何ができるようになるのか」を具体的に見せる内容だった。ローカルAI、クリエイティブ、ゲームを1台で担う次世代Windows PCとして“PCの再発明”が現実のものになるのか。実際に検証できるようになるのが楽しみだ。

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