牧師や司祭など約30人の聖職者が研究室で高用量のマジックマッシュルームを摂取した結果「人生が変わる経験」をして本当に人生が変わってしまった実例
2015年、「シロシビン(マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分)と聖なる体験に関する研究調査に参加する聖職者を募集」といった広告に引かれて集まったバプテスト派の聖書学者、カトリックの司祭、ユダヤ教の宗教指導者、仏教の僧侶など約30人の聖職者が、高用量のシロシビンを摂取するという実験に参加しました。実験から10年を経て、論文がようやく公開されました。
Effects of Psilocybin on Religious and Spiritual Attitudes and Behaviors in Clergy from Various Major World Religions | Psychedelic Medicine
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/psymed.2023.0044This Is Your Priest on Drugs | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2025/05/26/this-is-your-priest-on-drugsWhat Happens When Clergy Take Psilocybin
https://nautil.us/clergy-blown-away-by-psilocybin-1217112/ ジョンズ・ホプキンス大学とニューヨーク大学の研究者らによって行われた実験は、聖職者を被験者とし、シロシビンを服用させ、聖職者がシロシビンの効果をどのように感じるのかに焦点を当てたものでした。被験者の平均年齢は49.8歳で、93%が大学院卒者であり、キリスト教から22人、ユダヤ教から5人、イスラム教から1人、仏教から1人の聖職者がピックアップされました。 被験者は体重70kgあたり20mgのシロシビンを経口投与され、ソファに横になり、目隠しとヘッドホンを着用し、自分の心の中で起こっていることに集中するよう求められました。
研究に参加した聖公会のハント牧師は、当時を以下のように振り返っています。
「モスクのモザイクを思わせるフラクタル模様の、見事な映像が見え始めました。それから、らせん状の電流が左太ももに流れ込んだように感じられました。それが力強く体を駆け上がり、喉に詰まるのを感じました。喉仏が破裂するんじゃないかと思いました同席した2人のガイドは私の苦痛を感じ取り、1人が手を伸ばして落ち着かせてきました(これは後にハント氏の勘違いであることが判明)。その感触はまるでキリスト教の儀式である按手のように感じられました。頭のてっぺんから何かが吹き出し、宗教的で、霊的で、神聖な音を発し始めたんです。自分が異言を話していることに気づきました。今まで一度もそんなことはしたことがありませんでした。異言を話すことは、聖公会の教えにはないものです」
1カ月の期間を空けて2度シロシビンを服用した被験者は、その16カ月後に追加の調査を受けました。調査内容は、「あなたの精神的/宗教的使命に関連する行動に変化はありましたか」といった、自身がこれまで携わってきた宗教にまつわるものでした。研究チームによると、2度の服用を経験した被験者のうち79%の人が「この体験によって祈りが豊かになり、職業における効果が向上し、日常生活における神聖な感覚が増した」と回答したとのこと。さらに、96%が、シロシビンとの最初の出会いを「人生で最も精神的に意義深い体験トップ5」に挙げたとのことです。 ハント氏はシロシビンの服用で体験した神との遭遇を「エロチック」と表現し、自身が女性になった心持ちで「神はより男性的に感じられた。男性の私にはとても違和感があったので、女性がセクシュアリティを体験する方法はこれなのだろうと思った」などと伝えています。他の数人の被験者も「精神的なオーガズムを経験した」と報告しました。
ただし、被験者全員が神秘的な体験をしたというわけではありません。メキシコ出身のカトリックの司祭は「イエスから直接話を聞いた」と語りましたが、プロテスタントの牧師は肩をすくめて「特にキリスト教的なところはなかった」と振り返っています。仏教の僧侶は「人生を変えるほどではなかったものの、完全に非概念的な領域へと導かれ、言葉では言い表せないほどだった」と語りました。ハーバード大学で聖公会のチャプレンを務めるリタ・パウエル氏は、最初のセッションで「深淵」と直面したため、2回目のセッションを辞退しており、後に「実験中、ある時点で自分がどこにもいないように感じました。色も、形も、恐怖も、喜びも、啓示もありませんでした。何もなかったのです」と発言しています。
この研究の結果が公表されるまでに長い時間がかかったのは、資金源に関する利益相反があった可能性や、「薬物と宗教を無理やり結びつけようとする試みがあったのでは」との懸念が浮かび上がったためです。しかし、これらの問題は解決され、2025年に公開に至りました。 研究者らは、サンプルは小規模で、白人、男性、キリスト教徒が圧倒的に多く、ヒンドゥー教や道教、儒教など他の宗教の聖職者がいないことを認め、関連性は限定的だとしています。
実験から10年、ハント氏をはじめとする被験者の一部はサイケデリックの伝道師となり、自身の宗教的教義に組み込んでいます。一部の人々にとって、この経験は「教義への執着」から解放され、他の宗教的体験への可能性をもたらしたと伝えられています。
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