アングル:イラン攻撃でMAGA分裂リスク、トランプ氏の大きな賭け

6月24日、 かつてカジノ経営者だったトランプ米大統領は就任以来リスクをいとわない姿勢を示してきた。写真は21日、ホワイトハウスで演説するトランプ氏。代表撮影(2025年 ロイター)

[ワシントン 24日 ロイター] - かつてカジノ経営者だったトランプ米大統領は就任以来リスクをいとわない姿勢を示してきた。だが、イラン空爆はトランプ氏にとってこれまでで最大の賭けとなるかもしれない。

今回の行動は政治的な見返りが大きいものの、イランとイスラエル間の和平維持の成否に大きく左右され、事態がトランプ氏の制御を離れて悪化する危険性もはらんでいると専門家は指摘する。

現時点ではトランプ氏は米国の関与を限定し、イスラエルとイランに停戦を強いるという賭けに勝ったように見える。ユーラシア・グループで中東・北アフリカ部門を統括するフィラス・マクサド氏は「トランプ氏は賭けに打って出た。そして事態は思い通りに進んだ」と語った。

ただ、停戦が維持されるかどうかはまだ分からない。トランプ氏は24日朝、自身が停戦を宣言した数時間後にイスラエルがテヘランへの攻撃を開始したことに不満をあらわにした。

合意が守られなかったり、イランが軍事的あるいは経済的に報復したりすれば、トランプ氏を再び大統領の座に押し上げた「米国第一主義」連合が分裂する恐れがある。トランプ氏が掲げる運動の理念がますますあいまいになり、その定義も不明瞭になるからだ。

保守系シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の政治アナリスト、クリス・スタイアウォルト氏は「6カ月後もイランが引き続き問題なら『MAGA(米国を再び偉大に)』連合は弱体化するだろう」と予測する。

同氏はトランプ氏が米国を中東での新たな紛争に巻き込むことはしないと公約していたことに言及し、ある意味ではすでにMAGAブランドを希薄化させていると指摘した。

<MAGA連合に亀裂> 

トランプ氏の発するメッセージはすでに、同氏の支持層から支持を得ることが難しくなっている可能性を示唆している。

トランプ氏は19日、米国が参戦するかどうかの判断には最大2週間かかると発言した。ところが、その2日後に爆撃機の飛行を承認した。これはイランだけでなく、多くの米国人にも同様に不意打ちとなった。

イラン攻撃という選択は2028年大統領選でトランプ氏の支持基盤を継承しようとする共和党候補にとっても問題となる可能性がある。スタイアウォルト氏は「28年には外国への介入の問題が分岐点となるだろう。人々がMAGAの意味を模索する中で、その立場を見極める踏み絵になるはずだ」と語った。

ホワイトハウスは22日のニュース番組で、政権内で最も孤立主義的な考えを持つ人物の一人であるバンス副大統領にイラン攻撃を擁護する役割をほぼ任せきりにした。バンス氏はトランプ氏退任後のMAGA運動の継承者とみられており、今回の攻撃への支持と自身の政治的立場を両立させる必要に迫られるだろう。

<大きな賭け>

トランプ氏が大きな賭けに出たものの、その見返りがまだ見いだせていない問題はイランに限らない。同氏の関税政策は市場に不確実性をもたらし、インフレ懸念をあおった。政府の官僚機構を削減しようとする取り組みは、実業家イーロン・マスク氏が離脱したことで勢いを失った。また、強硬な移民政策は全米で抗議活動を引き起こした。

しかし、もしトランプ氏がイランに核兵器開発を放棄させることができれば、過去何十年にもわたって米国大統領を悩ませ、イラクやアフガニスタンでの戦争に米国を巻き込んだこの地域において歴史的な偉業となるだろう。

トランプ氏は「永遠の戦争」を終わらせることを公約に掲げていたが、これが同氏のイランに対する攻撃的な行動に米国民が不安を抱いている理由の一つかもしれない。

停戦発表前に実施され23日に発表されたロイター/イプソス世論調査によると、回答者の36%しかイラン核施設への攻撃を支持していなかった。全体としてトランプ氏の支持率は41%に低下し、2期目としては最低を更新した。外交政策に対する評価はさらに低かった。

ボストン大学で米国政治を専門とするデーブ・ホプキンス氏は、トランプ氏がイランへの攻撃開始という国民から見れば唐突な行動に出たことで、それが国益にかなうものであることを事前に国民に説明し、理解を得ることを怠ったとの見方を示した。

同氏は「イランが米国の主要な敵国、あるいは脅威であるという議論は見られない」と述べた。

<果たせぬ約束>

ホプキンス氏はトランプ氏が停戦を強制したと豪語するのはよくあるパターンの一つだと指摘する。トランプ氏は選挙戦でウクライナとパレスチナ自治区ガザでの戦争を終わらせることができると公約していたが、その後、ロシアとイスラエルを自分の思い通りに動かすことはできないと悟った。実際、イラン攻撃においてトランプ氏はイスラエルの先導に従ったのであり、その逆ではない。

今回の攻撃はトランプ氏が2期目で取っている政治姿勢、すなわち広範で大ざっぱな方針に基づき、国民の広い支持を得ていなくても構わず大胆に行動するという姿勢と合致する。

そうした流れに沿ってトランプ氏は最初の数カ月間で数千人の政府職員を解雇し、移民の一斉摘発や強制送還にゴーサインを出して抗議活動を引き起こし、貿易障壁を築き、そして今度は中東の国を爆撃するといった行動に出た。

ミドルベリー大学の政治学者アリソン・スタンガー氏は、政治的な代償はすぐには起きないかもしれないが、国内で社会不安が続いたり、来年の中間選挙で民主党が躍進したりする形で表れる可能性があると分析する。

「トランプ氏にとっての政治的リスクは事態が急激に悪化することではなく、国内外のさまざまな局面で積み上げられてきた反発感情がじわじわと高まっていくことにある」と語った。

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