脳の健康状態を知って認知症を予防-経済ジャーナリストMのコラム-第46回

鳥の目、虫の目、魚の目

第46回

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

この夏に脳の健康状態、つまり認知症リスクを東京・新宿のクリニックで調べてもらった。MRI(核磁気共鳴画像)検査により、認知症と強い関連性がある脳の萎縮と白質病変の度合いを測定した。

送られてきた脳健康状態レポートには、加齢とともに進む脳全体の萎縮度は(受診者の95%が入る)標準範囲内に収まっているものの「やや注意」、脳血管健康度の目安となる白質病変の体積は「良好」だった。萎縮度についての評価サマリーを読むと「過度な心配は不要です」とある一方で「今が健康状態改善の始まりです。脳に良い生活習慣を心がけていきましょう」と書いてあった。対策に乗り出す必要がありそうだ。

自覚症状は全くなく、認知症なんて気にも掛けなかった筆者をMRI検査に向かわせたのは、体験を促す一通のメールだった。送り主は、脳の健康状態を測定し認知症の早期対策につながるプログラム「MVision health(エムビジョン・ヘルス)」を開発したエム(東京都港区)の創業者で代表取締役CEO(最高経営責任者)の森進氏だ。

エムビジョンは、脳ドックで撮影したMRI画像をAI(人工知能)で解析し、脳の萎縮や白質病変を定量的に評価。これにより認知症の未病やリスクを数値化し可視化する。脳の萎縮程度や同年代と比較してどうなのかも分かるので、健康な脳を維持するための生活習慣の改善などを促す一歩になるという。

このため森氏は、脳ドックを手掛ける医療機関にエムビジョンの利用を呼び掛けてきた。2021年の創業時より認知症への関心が高まっていることもあって賛同するところが増え、今夏にはそれまでの約100拠点から約350拠点に広がった。MRI検査に行った新宿三丁目メディカルクリニックもその一つで、通常の脳ドックに加え、オプションとしてエムビジョンを継続的に受診できるようになった。今後は年間100拠点を上乗せするペースで提供先を増やしていく考えだ。

「認知症を防ぐには脳の健康状態を保つ必要がある」。そう確信する森氏が目指すのは、予防と矯正がうまく機能する歯科の世界だ。歯は6~12歳ごろに乳歯から永久歯に生え変わると、死ぬまで大切に使わなければならない。だから子供のときから虫歯予防として歯磨きを習慣化し、歯並びの矯正や歯周ケアも怠らない。食習慣にも気を使うし、定期的な歯科検診に通う人もいる。こうして歯を守ることに成功している。

永久歯が虫歯になり、ひどく進行していると歯を失うことになりかねない。認知症も治療法が確立していないので、発症を防ぐには生涯を通じて脳の健康に気を配る必要がある。歯と同様に予防が欠かせないのだ。つまり生活習慣の見直しと脳ドック(エムビジョン)による継続的な検診が求められる。「脳を歯にする」のが森氏の目標だ。

そのためにエムはこれまで、脳ドックを行う医療機関にエムビジョンのオプション追加を勧めてきた。認知症対策というメニューを追加でき、認知症のリスク測定に興味を持つ顧客層を取り込めるうえ、MRI装置の稼働率を高められるからだ。しかし、これでは、脳ドックの受診者にエムビジョンを紹介して受診を促すという「待ち」、言い換えると「ついでに受診」になってしまう。エムビジョン受診者を増やすには「攻め」も必要と判断、今夏から新たに、送客ビジネスと呼ぶサービスを始めた。まずはトライアルとして、エムがリスク測定に興味を持つ人を探してクーポンを渡し、提携先の医療機関に送客するというものだ。

エムビジョンの利用によって脳の健康状態を見える化。受診者は自覚症状がなくても発症リスクを正しく理解することで、予防意識を高め、未病時から生活習慣の改善に継続的に取り組むことが期待でき、健康維持につながる。森氏は「予防医療で可視化し生活習慣を正す。そのためには定期的に測定すること」と強調する。継続的に受診することで数値は加齢にも関わらず横移動するだけ。実際、悪化しない人も少なくないという。

認知症につながる脳の萎縮は、悪い生活習慣や基礎疾患により加速されるといわれる。「人生100年時代」といわれ平均寿命は延びても、健康寿命との差は過去20年間ほとんど変わっていない。最大の要因はがんでも心臓病でもなく、脳の健康状態という。保つには生活習慣の改善に尽きる。

認知症リスクを高める生活習慣といえば過度な飲酒(中年期飲酒は認知症リスクを40%アップ)や喫煙(65%アップ)、運動不足(40%アップ)、ストレスなどが真っ先にあげられる。うつや食事のほか、社会的つながりも認知症リスクを高める。

仕事をリタイアしたシニア層は要注意だ。退職により社会とのつながりが不足し、生活の不活性化による脳への刺激や認知機能を使う機会が減りがちになる。運動不足も懸念されるし、何より物事への興味が低下してしまう。シニアは「きょうようときょういくが大事」という、きょうようとは教養ではなく「今日、用事がある」。きょういくとは教育ではなく「今日、行くところがある」だ。それにより脳の健康を保ちたい。

次回検診は2年後の27年夏。脳の萎縮度合いの維持が目標だ。原因は分かっているので実行あるのみだが、これがなかなか難しい。一方のエムも2年後に目指すゴールがある。同年5月期での営業黒字化だ。ともに成功の祝杯をあげたい。

さあ、今日も出かけよう。脳の萎縮が進まないためにも。

イノベーションズアイ編集局

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コラムシリーズ

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

中小企業の金融環境が今、大きく変化つつあります。金融庁は2023年11月『「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について』を発表、金融機関による中小企業支援の軸が資金繰りから再生支援にシフトするよう監督する方針と示唆しました。新型コロナウイルス感染症蔓延防止を目的とした事業活動の自粛要請や行動制限等に直面した企業がショック倒産等しないよう手厚く支援していたフェイズから大きく切り替わったのです。本コラムは、読者としてこれまで中小企業と税理士等の支援者を想定していたところ、新たに金融機関で中小企業支援に携わる担当者にも拡大(plus)、中小企業が行う事業改善・事業再構築の推進と金融機関が行う事業性評価の両面から、チャレンジングな取組の進め方を考えていきます。


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コラムシリーズ

平成31年度における移転価格税制の改正

朝日税理士法人  増田 耕一

国際的大企業等が税負担を軽減する目的で、自社が保有する知的財産等の無形資産を海外へ移転する行為が、国際的に問題となっていました。この問題について、日本では平成29年度与党税制改正大綱において「BEPSプロジェクトで勧告された所得相応性基準の導入を含め、必要な見直しを検討する」と明記され、翌年の平成30年度与党税制改正大綱において「BEPSプロジェクトの勧告や諸外国の制度・運用実態等を踏まえて検討を進める」と記載されました。その改正内容について逐次ご報告をしていきたいと思います。


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コラムシリーズ

穏やかなることを学べ

イノベーションズアイ編集局  編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

英国の文筆家アイザック・ウォルトン卿が著作「釣魚大全」の最後に記した一言「STUDY TO BE QUIET」の直訳である。開高健がロンドンでこの言葉が書かれた銅プレートを探し出し紹介したことで広く知られることになった。開高から聞かされた井伏鱒二は「“静謐の学習”とでも言えるな」と語ったそうだが、含蓄のある言葉である。ピューリタン革命の最中の17世紀、妻や子を病気で亡くしながらも、湖や渓流に釣り糸を垂れ、故事伝承を紡ぐように書きとめ、この言葉で結んだ名作の結び。穏やかとは程遠い喧噪の日常で記されたこの言葉は、混沌とした今の社会情勢だからこそ、噛みしめるべきではないか。忙殺されてもなお、穏やかに森羅万象を見つめる。仕事時間が全てではない。喧噪の中にあっても「穏やか」な思いを抱かせるコラムを綴っていきたい。


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コラムシリーズ

新規事業開発の勘所

株式会社アルゴバース  瀧田 理康

新しいことをはじめなければならないという状況で、情報収集したり考えてみたりしても、ひとりではなかなか答えが出せないのではないでしょうか。私たち自身も含め同じ状況で悩み、困難に立ち向かう人が情報交換できる、将来の道が見えるようになる「知恵の交流」の場を「新規事業実務研究会」として作り運営しています。企業経営者の方、企業内新規事業を担当する方、起業を目指す方にお役立ていただける情報を本コラムでお届けしたいと思います。


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コラムシリーズ

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。


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コラムシリーズ

「暗黙知へのいざない…~無形資産が有形資産を生む」

株式会社ベーシック  田原 祐子

岸田内閣が力を入れている、人的資本・知的資本。人が生み出す、知的資本は、日々の仕事のノウハウや、顧客や取引先との関係(社会関係資本)づくり、事業を軌道に乗せる暗黙知から、特許開発まで多岐にわたります。また、これらのように形のない資産を「無形資産」と言い、次なる「有形資産(事業、製品、サービス、人)」を生み出す、大切な企業の資源です。ノウハウを組織で見える化&蓄積すれば、ベテラン社員の離職による、ノウハウの流出も防ぐことができます。実務家・大学院教授・コンサルタントである田原祐子が解説します。


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コラムシリーズ

中小企業にSNS採用が「今」必要な理由

一般社団法人 大人のインフルエンサー協会  秋山 剛

近年、SNSを採用に活用する企業が増加しています。東海ビジネスサービスが2023年におこなった調査では、採用活動にSNSを活用している企業は約60%。 SNSが当たり前の時代に、中小企業が若い人材を獲得するための「SNS採用戦略」の成功事例を本コラムでは紹介します。Z世代の求職者は情報収集の手段として、企業のSNSアカウントをチェックしています。社長や人事の考え方、社風を伝えることで、入社意欲を高めたり、入社後に採用ミスマッチを防ぐことができます。SNS採用を始める前に知っておきたいことや注意点も実例と共にご紹介。SNSの活用が向いている企業の特徴も解説。


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コラムシリーズ

B to B企業のメタバース、インダストリアル・メタバース基礎講座

株式会社アルゴバース  瀧田 理康

メタバースはエンターテイメントやゲームの世界で注目され、市場が急激に伸長しています。しかし、実はメタバースは製造業をはじめとするB to B企業にとっても有効な概念であると考えられます。この領域でのメタバースを私たちは「インダストリアル・メタバース」と名付けます。このコラムでは、メタバースの基礎から出発して、最終的にはB to B企業にとってのメタバース、インダストリアル・メタバースとは何かをさぐっていきます。


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コラムシリーズ

ユーラシアン・オデッセイ

パケットファブリック・ジャパン株式会社  ジュリアン

2020年、新型コロナウイルスにより世界に大きな異変が起きた。 人々の行動が極端に制限される中、僕は自転車でユーラシア大陸横断の旅に出る。 「こんな時に?そんな無茶な!」しかしこんな時だから旅立つのです。 もちろん厳しい旅になるでしょう。 バルカン半島、エルサレム、中東、インド…この足がどこまで運んでくれるかわからない。 現地がどうなっているのか見通しもつかない。しかし前進するより他にない。 恐怖に震えどんどん衰退していく世界に向けて、これが自分の志だということは隠せない。 『オデッセイ』とは、追放された王オデセウスがあらゆる苦難を超えて王座を取り戻すというギリシア神話です。 コロナ時代にユーラシア大陸を横断する旅に、この名を借りても良いでしょう。


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コラムシリーズ

アスリート・マインド ~挑戦者~

株式会社アゴラ  柏木 太郎

アスリートという生き方・職業を選択した、現役アスリート、元アスリート、プロ、アマ問わず、アスリートの考え方をインタビューする企画。目標設定から、そこに向かう過程にはビジネスに役立つヒントがあるかもしれない。


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よどみのうたかた

第33回

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

それにしても、伊東市(静岡県)は大変だ。学歴詐称問題を巻き起こす田久保真紀市長を巡る騒動は収まる気配も見えない。この調子でいけば、市議会百条委員会による刑事告発、市議会による不信任決議案の提出と可決、これに市長が議会解散で対応すれば市議選、市議選後に再び不信任決議が提出・可決すると、今度は市長選…といった地方自治法のフルコースとなる。

しかし、学歴詐称に関する疑惑というテーマや伊東市長という“主役”の立場を考えても、連日のように全国レベルで報道する価値があるようには思えない。

なぜこんなにも注目されるのだろうか。

その理由は、誤解を恐れずに言えばただ一点。“おもしろい”からだ。この現象をきちんと分析することはできないのだが、感覚的に感そうじられる。つまり、本題とは違うところが“庶民の興味”を惹きつけている、と。

実際に、本題である学歴詐称自体はいまや注目点ではない。田久保市長本人が自ら大学に出向いて除籍されていることを確認したと発表。事実関係は“卒業していない”と判明しているのだ。

じゃあなんなのか。

庶民は、その後の田久保市長の言動に引き込まれているのだ。

除籍を指摘する投書を「怪文書」だとして真偽を問う質問には答えず、市長には卒業証書をチラ見せした。しかし、その後調べたら除籍。一連のやり取りは何だったんだ、ということになる。ところが記者会見では「卒業証書は本物だと思っている」「一度卒業という扱いになってなぜ除籍になっているのか」などと発言。同席した福島正洋弁護士も「あれば普通に考えて偽物とは思わない」と同調した。この普通に考えたらあり得ない発言で“じゃあその卒業証書とやらはなんなのか”という新たな疑念が浮上する。

田久保市長の発言は、その後も次々と疑惑を生み出していく。卒業証書や在籍期間証明書、上申書とともに静岡地検に上申し、検察で調べてもらう、7月中に辞職する…などと表明するも、後日、「状況が変化している」などといてこれらを全て反故にした。市長続投を表明後は、市議会議長に卒業証書を見せた際は“チラ見せ”ではなく19.2秒だったと発言した。除籍を発表しているわけで、何秒見せようが卒業したことになるわけでもない。むしろ、偽造した私文書を行使した、と自白しているようなものではないのか。

そんな調子で、発言が励行されないどころか、毎回大きく変化し、その都度新たな疑惑を生み出していく。この様子が多くの人々の興味を惹きつけていると考えられる。

それに輪をかけているのが、田久保市長のキャラクターだ。ちょっと気になる美人だという人が多く、それも飲み屋での議論のテーマとなるのだが、市議や市民からこれほどまでに厳しい非難を受けているにもかかわらず、ケロッとしているという点が注目されている。その神経もまた普通ではないからだ。面と向かってあれだけ言われても動じず、ときより笑顔もみせる。これはなかなか理解が難しい。

というわけで、現下の伊東市の騒動は、ひとえに田久保市長の人となりによるところが大きい。その非常識な言動がマスコミを通じて拡散され、全国規模で庶民の怒りや疑念を駆り立て、絶大な関心となって伊東市に降り注いでいく。そして、巷の興味は今後どうなるのかに向かっていく。

逮捕や起訴、失職…

行く末をみんなが注目している。“厚顔で歴史に残る大ウソつき”との見る向きが多く、なにかなければ収まらないのだ。そしてそれらはいずれも伊東市政とは関係のないことばかり。市政とは関係のない全国的な興味は、まだしばらくこの騒動を手放さないだろう。

イノベーションズアイ編集局

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よどみのうたかた


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メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電所の建設計画がもめている。

計画地となった地域では地元住民とのトラブル事例もよく耳にするようになった。市民が建設に反対し、自治体が対応しようにも、ベースとなる規制法のような法律がないため、強制力のある条例等も作れない。観光地などでは、メガソーラーができることで景観が台無しになるといったケースもあるだろう。しかし、国はそんなこと知ったこっちゃない感じだ。地域や地元との調整など、設置条件を求める声もあるが、そうした対応は今のところ自治体に丸投げされている。

そんなメガソーラーだが、この種の再生可能エネルギーなどと呼ばれるものの多くは、脱炭素に向けた火力への依存抑制や東日本大震災に伴う福島第一原発事故後の原子力依存の低下もあり、なんなら将来の主力電源にでもする勢いで増えてきた。このエネルギー安全保障というか、エネルギー選択の議論もまたソーラーを含む再生可能エネルギーにはつきものだ。

ただ、そうした一次エネルギーの選択の問題と、全国各地で起きているメガソーラー問題には一見すると接点は見えない。

しかし、各地にメガソーラーの建設が計画された背景には、再生可能エネルギーの利用を拡大しようという基本計画や、その実現を促すための再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)が大きく関わっている。

学歴詐称問題で揺れる伊東市の田久保真紀市長の発言にも度々登場する静岡県伊東市の「伊豆高原メガソーラー計画」も、再エネ賦課金が投入して発電した電力を固定価格で買い取る「FIT制度」をあてにした事業を目指している。

この計画は、現市長の田久保氏も参加していた市民グループの強い反対運動に端を発し、田久保氏の前の市長の時代に1000平方メートル以上の太陽光発電所を設置する際に市長の同意を必要とする市条例も制定している。

とはいえ、規制法のようなベースとなる法律等がないため、条例には罰則規定を設けることができなかった。つまり、この条例では市民や市長の反対があってもメガソーラーの建設を実効的に防ぐことはできない。それでも建設計画が事実上停止しているのは、計画地に資材を運ぶために必要となる経路の確保や降雨時などの計画地の排水設備ができないためだ。

計画地の側には川が流れている。事業者は、この川に橋や排水口を設置しようと市に河川法上の河川占用の許可を申請。対する市は、河川法には裁量の余地があることから不許可とした。これを不服とした事業者は、不許可の取り消しを求めて市を提訴。一審で市は敗訴した。控訴審(二審)でも市の主張は棄却されたが、河川の占用許可については「裁量権の範囲の逸脱又はこれを濫用した違法はない」との判断が示され、実質的には市が勝訴した形になった。

伊豆高原のメガソーラー計画は、この本筋ではない河川法上の規制で停止することになったのだった。河川占用が不許可になっていることに伴い、計画地の排水ができないことから森林開発の許可も下りないということで、計画は停止の状態が続いている。

事業者は、この事実上の“歯止め”となっている河川占用の不許可の取り消しを求めて提訴しており、裁判が続いている。なんともスッキリしない状況もあり、市の関係者からは国が適切な規制を設けるべきだとの声が聞かれる。これは伊東に限らず、全国のメガソーラー問題を抱える自治体に共通した声だ。

伊東市の関係者はFIT制度の「事業計画認定」にも注目している。市は、メガソーラー計画が条例に違反している旨を関東経済産業局に通知。これを受けた経済産業省は、事業者にFIT法に基づく改善命令を出した。現在は、係争中の案件もあることからこの命令は取り消されているが、メガソーラー問題ではこのFIT制度上の認定や指導に期待する声が強い。認定が取り消されると、作り出した電力を固定価格で買い取ってもらえなくなる。自家用や制度外での売電という選択肢はあるが、事業の幅は大きく狭められることになる。

資源に乏しい日本では、エネルギーの多くを海外に依存している。その中核は一次エネルギーの8割以上を占める石油などの化石燃料だ。温室効果ガスの抑制に向け原子力や再エネへのシフトが求められている。

とはいえ、原子力の依存度を上げる取り組みはそう容易ではない。だからこその再エネ促進であり、そのためのFIT制度だが、立地で起きる問題は自治体に丸投げの状態が続く。

整合性のとれた議論のためにも、エネルギーのベストミックスといった安全保障とともに、立地における紛争解決を含めたルールづくりが求められている。そうしたルールづくりが遅れれば、再エネの拡大という選択肢は将来的には大きく狭められることになるだろう。


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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第51回

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 金融機関について「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」という言葉があります。「金融機関は身勝手だ」との趣旨ですが、その解釈だけに終始すると、実はとても勿体無い話です。そこには資金調達について、とても貴重な教訓が隠されているからです。
 「晴れの日に傘を貸して雨の日に傘を取り上げる」というと、「そうだそうだ、金融機関はひどいよね」という会話になることが多いと思います。実際、歴史ある中小企業の経営者からのお話をお聞きすると「ひどい」と言わざるを得ないような話も少なくありません。
 一方で、金融機関としての立場からすると「そうなんです。それが金融機関というものなんですよ」と言いたくなることがあります。これは「開き直り」ではありません。「金融機関も、営利企業です」が原点です。
 金融機関が融資をする原資は「預金」、つまり、皆さんからの借金です。金融機関とは「借金を原資に中小企業に融資という名の『投資』をして、利益を得ている会社」なのです。金融機関の債権者(預金者)の立場で考えてみましょう。金融機関から「皆さんの預金は、リスクをとって、困っている企業に貸し付けましたが、結局は倒産しました。だから預金の払出しはできません」と言われると困ります。「リスクを取るのは結構だが、預金の払出しに影響が出ない程度に留めてくれ」と言いたくなりますね。金融機関は、預金を着実に運用する義務を負っているのです。
 皆さんが金融機関にお金を預けている理由として、もう一つ、決済原資があります。取引先へ個別に送金(例:郵便為替にして送る)する手間が煩雑なので、決済口座に資金をプールしておき、そこから取引先に送金してもらうのです。「皆さんからの預金を困っている企業に貸し付けましたが返済されないので、皆さんの取引先に送金できませんでした」となると、企業として死活問題です。
 金融機関は、こういう構図の中で「融資」をしています。貸し出す以上は返済してもらうことが、金融機関にとっても、また金融機関の債権者にとって最重要課題です。だとすると「晴れの日に傘を貸して(好景気や企業が好調な時に資金を貸し出して)、雨の日には傘を取り返す(不景気や企業が不調な時には貸付金を返済してもらう)」というのは、自然な行動原理といえます。資金を借りる方としても、この行動原理を前提にした方が良さそうです。
 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」から得られる教訓の第1は「晴れの日に借りよう」ということです。金融機関は、企業が儲かっている時、景気が良い時にお金を貸したがります。その時に借りておくのです。「無駄なお金は借りる必要はない。」そうでしょうか?儲かっている時、景気が良い時は、企業にとっても将来を見越した前向き、積極的投資をしやすい時です。そういう時こそ、資金調達しましょう。また、積極的な経営戦略を打ち出して着実な実績を積み上げて行くと、金融機関からの信頼度をあげることができます。いざという時にも借りられる信頼関係を育むことができるのです。
 第2は「雨の日に取り上げられない工夫をする」ことです。皆さんが、取引先に預けた自社製品を一部回収しなくてはならなくなった時、最初に検討する先はどこでしょうか?「御社の製品を活用したことで、我が社のビジネスはうまく回っているよ。ありがという。そちらの儲けにも貢献していますね」という会社でしょうか?報告を全くせず、尋ねると「いや、ご報告するほど芳しい成績をあげていないので」という会社でしょうか?後者でないかと思います。これは、金融機関にとっても同じです。普段、コミュニケーションを密にすることにより、雨の日でも傘を取り返されにくい企業になることができるのです。
 第3は「相手の特性、すなわち得手・不得手を鑑みる」ということです。もう一度考えてみましょう。皆さんが取引先に預けた自社製品を一部回収しなくてはならなくなった時、最初に検討する先はどこでしょうか?「その会社の顧客候補や取引先候補になりそうな先をよく知っており、いざとなったら紹介できる企業」でしょうか?それとも「そのように紹介できる先の心当たりが全くない企業」でしょうか。後者ですよね。とすると、前者の金融機関と深く付き合うことが、中小企業にとって、いざという時の命綱となるのです。
 複数の金融機関とのコミュニケーションを密にすると、金融機関には仕事の紹介は異業種交流の場を積極的に設けるところと、そうでないところまで、いろいろなカラーがあることに気が付きます。より関係を深めていくと、地域や業種などの得意・不得意なども見えてくるかもしれません。そういう金融機関の特性を「晴れの日」のうちに調査しておき、積極的に支援してくれそうな金融機関との関係を深めておくことで、雨の日の備えができるのです。
 以上のように申し上げると、金融機関との付き合い方も、仕入先などとの「ビジネス上の付き合い」とあまり変わらないことが理解できるでしょう。同じ商品を仕入れるにしても、金額や支払い条件、その他のサービスなどで特性を見極め、自分の必要や状況に合わせて相手を選択していると思います。金融機関との付き合いも同じことが言えます。晴れの日のうちに付き合いを始め、コミュニケーションを密にしておく、相手方の特性を理解して選択したり、状況に応じて使い分けたりする。こうすることで、みなさんの資金調達能力は格段に向上することでしょう。
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。

落藤伸夫(おちふじ のぶお) 中小企業診断士事務所StrateCutions代表 合同会社StrateCutionsHRD代表 事業性評価支援士協会代表

中小企業診断士、MBA


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産業最前線

第1回

イノベーションズアイ編集局  産業ジャーナリストK

2024年元日に発生した能登半島地震。今年8月時点には死者だけで650人を超え、石川県・能登地方を中心に甚大な被害をもたらした。筆者は金沢市出身で高校生まで実家で過ごした。その後、大学生から社会人に至るまでの記憶をたどっても、石川県でここまでの大規模災害が起きたことはない。

東京から帰省していた1月1日午後4時過ぎ、石川県輪島市と志賀町で最大震度7を観測した巨大地震に襲われた。正月の買い物を終え、夕食を控えてマンションでくつろいでいたところだった。親族と一緒だったが、建物が縦横に想定外に大きく揺れ、棚から食器類などが次々に床に落ちて割れた。すぐに緊急ニュースを見て、被災地・能登がとんでもない事態に陥っていることに驚愕していた。

その後しばらくの間、自分の無力さを痛感した。能登の自宅の断水などで金沢へ避難して来る家族連れも多かった。現在は東京在住で地震にはそこそこ慣れているものの、あの激震の恐ろしさは今も忘れられないくらいだ。

ここ数年、巨大地震とクルマの関係は一段と深くなっているのではないか。地震の影響がある程度落ち着いた頃、能登には他地域の複数自治体から職員が派遣され、多くの救援ボランティアも訪れ、いつもごった返していた。ただ、地元の住宅や旅館、道路、市場などの崩壊が相次ぎ、現地で支援活動に乗り出しても、精神的にも肉体的にも疲れた体を癒す宿泊・休憩場所が極端に不足していたのは間違いない。被災地で見かけた光景で特に印象的だったのは、被害に遭ったマイカーはもちろん、キャンピングカーの数の多さだ。プライベート空間が確保され、家族に高齢者・障害者がいたり、ペット連れでも安心して避難生活を送れるメリットが特徴だ。

日本RV協会のデータでは、キャンピングカー保有台数は16年に10万台の大台を突破、05年の調査開始以来増え続けている。24年には前年比で1万台増の16万5000台と社会に浸透してきていることがよく分かる。自治体・企業や個人の間では、キャンピングカーを防災対策に有効活用しようとする動きが加速。本来はキャンプなどレジャー向けのイメージだったが、新型コロナウイルス禍を背景にキャンピングカーブームも巻き起こり、クルマとしての用途は多様化している。

その勢いを追い風に、旅行や車中泊をするクルマユーザーも急増中だ。災害時でも重宝される「道の駅」の駐車場や高速道路の休憩スペースでのマナー問題でトラブルとなる事態も少なくない。このためローソンは新たな取り組みとして、千葉県の6店舗で駐車場を使用可能な有料サービスを始めた。7月から1年間の実証実験だが、コンビニは夜間も駐車場が開いている。トイレは24時間使用でき、飲食品もいつでも購入できる。常時有人な点も踏まえ、コンビニの特性で安心かつ気軽に利用でき、企業として結果次第では新規事業化も狙うというわけだ。

近年は消費者の旅行ニーズの多様性やホテル宿泊費の高騰を受けた節約志向から、キャンピングカーに限らず、ミニバンなどによる車中泊の需要が全国各地で高まっている背景もある。

9月1日は「防災の日」だ。1923年の関東大震災、59年の伊勢湾台風を受け、国民に理解を促し、日常生活における〝災害への備え〟を図るために創設された。調査会社のインテージが8月にまとめた防災意識に関する全国調査によると、家庭での防災実施率は52%と統計として過去最高を記録。具体的な回答で「簡易トイレの準備」「避難所を確認・家族で共有」などが目立つのは、大規模災害がいつどこで起こるか分からない行動心理の表れだろう。

ただ、能登半島地震もそうだったように、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの発生は現代の科学では予知できない。

被災リスクは各地域で異なるのは当然だが、国が一定の支援を施せば、各自治体・企業が対策の事前準備を整えることも可能だ。われわれ住民・社員にいざという時に備える行動を促すためにも、各地の実情に応じた防災・減災意識のレベル向上を進めることが重要といえる。

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産業最前線

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