電気代の高騰、米選挙の争点に浮上-トランプ氏の再生エネ敵視も裏目
米国では政治的に重要な激戦州で電気代が高騰しており、今後の選挙を控え、共和党のアキレス腱となる可能性が出てきた。
とりわけ値上がりが顕著になっているのが、バージニア州からイリノイ州にかけて広がる全米最大の送電網から電力供給を受ける地域で、ここでは卸電力の調達コストが2年連続で過去最高を記録した。
同地域では、2州が11月に州知事選を控えているほか、4州が来年の上下両院選で接戦が見込まれている。加えて、同地域は発電をほぼ全て天然ガス、原子力、石炭に依存している。
こうした状況から、電気代高騰の原因は再生可能エネルギーにあるとするトランプ大統領の主張は、有権者の支持を得るのが難しい可能性がある。トランプ氏は風力や太陽光を「世紀の詐欺」と呼ぶなど、再生可能エネに否定的な立場だ。
13州にまたがるPJMインターコネクション運営の送電網は、米国の電力システムの変化を象徴する存在となっている。同地域には世界最大規模の人工知能(AI)データセンター群が集積。電力需要の急増が見込まれており、すでに電力コストは上昇している。背景には、AIブームによって大量の電力消費が見込まれる一方で、老朽化した送電インフラが需要に追いついていないという構造的な課題がある。
これはPJMに限った問題ではない。全米でも過去1年間に電気料金は総合インフレ率の2倍以上のペースで上昇し、過去最高近辺で推移している。ただし、PJMの送電網から電力供給を受ける同地域は政治的に注目されることが多く、電気代の高騰は今後の選挙で主要な争点となる公算が大きい。
ウィリアム・ブレアの株式アナリスト、ジェド・ドルスハイマー氏は「今後は『コンセントの痛み』が政治家の演説で決まり文句になるだろう」と話す。
PJMから電力供給を受ける地域の州知事らは、電気代の値上がりをけん制している。同社が昨年行った年間電力入札では、電力調達コストが過去最高に達し、ペンシルベニア州のシャピロ知事は連邦規制当局を相手取り訴訟を起こした。その後の和解で、将来の入札価格に上限が設けられたが、それでも今年の調達コストは161億ドル(約2兆3800億円)と、過去最高を更新した。
こうした中、電気料金はニュージャージー州知事選で争点となっており、民主党のマイキー・シェリル候補は、電気料金の値上げ凍結を公約に掲げている。全米最大のAIデータセンター構築が進むバージニア州でも、生活費高騰が州知事選における最大の関心事となっていることが、バージニア・コモンウェルス大学の調査で分かった。
またユーティリティ・レーツの分析によると、上院・下院選で接戦が予想されるミシガン、オハイオ、ニュージャージー、ペンシルベニアの各州では、電気代の支払いが滞っている住民の割合が約25%に上る。
ワシントンの調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのマネジングディレクター、ケビン・ブック氏は、トランプ氏がインフレとの闘いを選挙選で掲げてきたことを踏まえれば、「この問題の政治的な重大性は大きい」と指摘する。
トランプ氏はこれまで「就任から1年以内に電気料金を半減させ、電力供給能力を倍増する」と強調してきた。だが、米エネルギー情報局(EIA)によると、今年1月から5月にかけて米国の家庭向け電力料金は約10%上昇し、来年もさらに5.8%の上昇が見込まれている。
電気代の高騰は、むしろトランプ氏自らが推し進める政策によって助長されているとの批判もある。トランプ氏は2期目就任以降、2件の風力発電プロジェクトを中止。そのうち1件は電力供給が逼迫(ひっぱく)している北東部での需要を満たすことが期待されていた。また、最近のクリーンエネに対する優遇税制撤回も、今後の再エネ設備の建設にブレーキをかけると見られている。
アメリカン・クリーン・パワー協会のジェイソン・グルメット最高経営責任者(CEO)は「経済理論の基本に照らし合わせれば、需要が高まる中で供給を制限すれば価格は確実に上がる」と指摘。「クリーンエネの開発を遅らせることで、政権は自ら電力コストの上昇を引き起こしている」と述べた。
原題:Soaring Power Bills in Largest US Grid Pose Risk for Republicans(抜粋)