暑くて不快な夏でもマスクは外さない…コロナ禍で若年層が覚えた「人から見られない安心」
新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行して2年が経過したが、日常的にマスクを着用する人は少なくない。マーケティング会社の調査によると、マスクの日常化は20代女性の半数以上に上るという。もうすぐ夏本番。湿気を帯びた蒸し暑い「不快な夏」でも、マスクを外せない深い事情を探った。
鏡を見ていて「絶対に隠そう」
梅雨の晴れ間の6月19日、東京都豊島区の池袋駅前。気温は30度を超え、日傘で暑さをしのぐ人たちが目立つ中、埼玉県在住でマスク姿の女子中学生は、取材に対し「暑くて息苦しいし、口元が蒸れるが、絶対にマスクは外さない」と強い決意を語った
マスクを外さない理由を打ち明けてくれた。
「マスクを外した自分の口元を鏡で見ていたら、左右非対称にみえてきて…。『あまりかわいくないな』って感じるようになり、絶対にマスクで隠そうと思った。誰かに指摘されたり、バカにされたりしたわけじゃないけれど」
新型コロナ禍の真っ最中は小学生で、その頃は「マスクを外したかった」という。5類移行後、マスク着用は医療機関など一部を除き、個人の判断に委ねられている。しかし女子中学生は、食事と入浴時、そして学校の水泳の授業以外はマスクを着けている。眼鏡と同じように「顔の一部」という位置づけだ。
青春真っただ中の10代なら、恋愛感情も芽生えるだろう。「マスクのままでは…」という質問に、こう答えた。
「好きな人ができて、付き合えたとしても、すぐにマスクを外さない。だって、がっかりされるのが怖いから。互いに慣れてきて、『この人ならどんな姿も見せられる』と信じられるまでは、彼氏の前であってもマスクを外さない」
素顔の〝解禁〟には時間がかかるというわけだ。
マスク「着けたまま」20代が最多
マーケティング会社「クロス・マーケティング」(東京都新宿区)が20~69歳の男女1100人を対象にマスクの着用状況を調査し、今年3月に結果を公表した。それによると、20代女性の約6割、20代男性も約半数が「着ける日が多い」と回答した。
普段マスクを着用している女性の中では、約6割が「ずっと着けたままが多い」と回答した。マスクを着用する割合は男性より女性が高く、また「着けたまま」の割合は男女とも20代が最も高かった。
「醜形恐怖症」や「社交不安症」も
「人見知りが治るノート」の著者で精神科医の反田克彦氏は、マスク着用が若い世代で日常化している現象について「マスクへの依存度の高まりとともに、自分の顔が醜いと思い込む『醜形恐怖症』や、他人と話すことに不安や恐怖を抱く『社交不安症』につながる可能性がある」と指摘する。
反田氏によると、「マスクを外したくても外せない」という相談も多いという。
「会社でマスクを外せといわれた」
「オンライン会議のときに外すように言われたが、できなくて困った」
「マスクを外せないから就職の面接にいけない」
マスクから離れられない人たちについて、東京未来大学(社会心理学)の鈴木公啓准教授はこう分析する。
「今の若年層は、他者からの評価に敏感な子供の頃や学生時代にマスク着用が定着し、『人から見られない安心』を覚えたと考えられる。その期間が長期化し、敏感な時期だったこともあり、外すのは難しいと感じる人もいるのではないか」
SNSやマッチングアプリで外見重視?
男性より女性の方がマスクの着用率が高い状況について、反田氏は「女性にとって美醜で判断されるという社会的な傾向が強く、男性より過酷な状況にある」と指摘する。
「最近は若者を中心にSNSやマッチングアプリが盛ん。その中で、外見を重視する『ルッキズム』はいけないという建前はあるものの、本音は外見重視の傾向が以前と比べて進んでいるのだろう」
マスクは感染症の予防に効果があるが、夏を迎えると熱中症のリスクもはらむ。ただ、反田氏は「マスクをつけて安心している人は、無理に外そうと思わない方がいい。社会も支障がなければ容認する方向で対応してもいいのではないか」と話す。
一方、マスクを外したくても外せない若い人たちには「マスクを外すことに抵抗の少ない場面から外す練習をするのがいいのではないか」とアドバイスする。(植木裕香子)