コウテイペンギンは最悪の予測よりも速いペースで絶滅の危機が迫っている

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 悲しいお知らせだが、知っておくべき研究結果が報告された。

 ここ数年「新たなコロニーが見つかった!」などと、明るいニュースが続いていたコウテイペンギンの生息環境だが、実はそれほど楽観できる状況にないことが新たな調査で判明した。

 イギリスの研究グループの調査によると、コウテイペンギンの個体数がこの15年で約4分の1も減少していることが判明した。

 これは、これまでの最悪の予測をさらに50%も上回るペースである。

 この研究は英国南極調査局(BAS)の専門家らによって行われ、2025年6月10日付で『Nature Communications: Earth & Environment』誌に掲載された。

 南極に生息するコウテイペンギンは、極寒の環境の中で、氷の上に営巣してヒナを育てることで知られている。しかし、この氷そのものが今、気候変動の影響で急速に失われつつある。

 BASのピーター・フレットウェル氏を中心とする研究チームは、南極半島、ウェッデル海、ベルリングスハウゼン海沿岸にある16のコウテイペンギンのコロニーを対象とし、衛星画像による調査を行った。

 これらのコロニーは、世界全体のコウテイペンギン個体数の約3分の1を占めており、全体像を反映するには十分な規模だ。

 調査の結果、2009年から2024年までの15年間でこれらのコロニーの個体数が約22%も減少していたことが判明した。

 これは、これまで南極全体で推定されていた9.5%という減少率(2009年~2018年)を大幅に上回る数字である。

 フレットウェル氏は、「今回の結果は、従来の最悪の予測よりも50%は悪い状況です」と警告している。

この画像を大きなサイズで見るimage credit: Fretwell, P.T., Bamford, C., Skachkova, A. et al. Commun Earth Environ 6, 436 (2025) CC BY 4.0

 急速に温暖化する気候は、季節的な海氷に依存するコウテイペンギンにとって特に大きな課題となっている。

 コウテイペンギンは南極沿岸の海氷を繁殖の場として利用しているが、そのためには海氷が、1年のうち8~9か月間安定して存在する必要がある。

 しかし近年の傾向として、南極大陸の多くの場所で海氷が不均一になり、不安定な状態が続いてる。

 今回の研究は、気候変動による海氷の質の低下が、コウテイペンギンの繁殖の成功率に悪い影響を及ぼしている可能性を示している。

Emperor penguins facing extinction? Huge 22% population drop explained | British Antarctic Survey

 2020年の調査では、コウテイペンギンのつがいは約25万組存在しており、すべてが南極に集中している。

 彼らが安心して子育てをするためには、安定した環境が不可欠だ。

 コウテイペンギンのメスは卵を産むと、オスに抱卵を任せて餌を探す長い旅に出る。

 約2か月後、戻って来たメスは孵化したばかりのヒナに吐き戻した餌を与え、その後は両親が交代で餌を探しに行く。

 繁殖地である氷が薄くなり、安定性を失うことで、ヒナが成長する前に氷が崩壊し、まだ泳ぐ力のないヒナが冷たい海に落ちてしまう事例が多発している。

 生まれたばかりのヒナの羽毛には防水性がないため、夏の間におとなの羽へ換羽を済ませないと、水に落ちた場合、命を奪われてしまう可能性が高いのだ。

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 フレットウェル氏は、「コウテイペンギンは、気候変動の影響が最も明確に表れている野生動物の一種だ」と強調する。

乱獲もなければ、生息地の破壊も公害もありません。単に氷の温度が変化しただけで、個体数が減っているのです(フレットウェル氏)

 調査チームは、今後コウテイペンギンたちが、さらに南へと生息地を移す可能性も視野に入れているが、その先にどれだけの未来があるかは不透明だ。

 現行のコンピューターモデルでは、コウテイペンギンは21世紀末までにほぼ絶滅の危機に瀕するとされている。

 しかし、今回の調査結果はその見通しをさらに厳しく見直す必要があることを示唆している。

 それでもフレットウェル氏は「希望はある」と語る。

気候変動によって個体数が予想よりも早く減っているのは事実です。でも、もし人間が行動を変え、温室効果ガスの排出を抑えることができれば、コウテイペンギンを救うことは可能です(フレットウェル氏)

 今回の調査は、南極が冬の暗闇に覆われる直前の10月から11月にかけて、衛星の高解像度画像を利用して実施された。

 今後は、暗い季節にも観測できるレーダーや熱画像を使った調査や、他のコロニーへの調査範囲の拡大も検討されている。

Scientists Worried Over Emperor Penguin Population Drop

References: Emperor penguin populations in Antarctica declining faster than thought

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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