なぜ韓国は“ヘル朝鮮”になったのか?政治への幻滅と「思わず目を背けたくなる数値」(ダイヤモンド・オンライン)
高い自殺率、過酷な労働環境、OECD加盟国のなかで最低の出生率…。いま韓国では、過度な競争と格差によって若者が次々と社会から脱落している。いつまで経っても「ヘル(=地獄)朝鮮」と呼ばれる現状が変わらないのはなぜか。現地在住のジャーナリストが、韓国の病理に迫る。※本稿は、ジャーナリストの徐 台教『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 政権が変わっても 終わらぬ「ヘル朝鮮」 「朴槿惠政権の時代には、それでも希望があった。朴槿惠政権さえ終われば問題が解決するというものだ。だが、文在寅時代は『進歩派政権になっても問題が解決しない』という幻滅をもたらした。改革の動力の喪失をもたらした。文在寅政権は『幻滅の時代』だった」 尹錫悦政権が発足したばかりの2022年5月、ソウル市内の中央大学にある研究室で、キム・ヌリ教授は苦虫をかみつぶしたような顔でこう語った。 キムが言うように、文在寅政権の5年が経っても、韓国の最悪の社会状況に改善は見られなかった。 同氏はドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラスの研究で知られる一方、ドイツ研究のハブとして、東京大学、北京大学に次ぎアジアで三番目に開所した「ドイツ・ヨーロッパ研究センター」の所長を務めるなど、韓国とドイツをつなぐ代表的な知識人だ。ドイツ現代史と知識人が果たした役割についても詳しい。 世界を新型コロナが襲った2020年春、このキム・ヌリが書いた『私たちの不幸は当然ではありません』(未邦訳)という本が韓国でベストセラーとなった。 独自の視点で韓国の深刻な社会問題が改善されない理由に迫ったもので、テレビの教養番組での講演がヒットしたことから書籍化された。
その内容には後で触れるとして、まずは文在寅政権を振り返ってみたい。 前半期には、社会が変わるだろうという期待が存在した。しかし、任期5年を過ぎた段階での各種統計には改善の様子が見られなかった。 代表的な社会問題とされるいくつかの分野を見ると、所得不平等はジニ係数上ではわずかながら緩和したものの、実質所得における上位10%と下位10%の差は広がり続けている。 なお、韓国政府が2024年4月に出した報告書によると、上位1%が韓国の富の25.4%を、上位10%が58.5%を占めており、下位50%の割合はわずか5.6%にすぎなかった。 韓国の日刊紙・京郷新聞によると2025年3月に韓国の不平等に関する33の指標の推移を最大で20年分にわたって分析したところ、19の項目が否定的な推移を見せていたという。所得に関する不平等は少しずつ緩和されているが、資産の不平等は広がり続けているとのことだった。 また、2017年から2022年までの所得移動統計によると、所得上位20%の維持率が最も高く、次に下位20%の維持率が高かった。こうした統計により、社会の両極化が固定されていると解釈されている。 ● 自殺率は高止まり 少子化は改善されない 自殺に関する統計については、言うまでもないだろう。 人口10万人あたりの自殺者から算出する自殺率は、2017年の24.3から2022年には25.2へと上昇した。韓国の自殺率は2003年以降ずっと、OECD加盟国38カ国のうちワースト1〜2位の高い水準となっている。なお、2024年の自殺率は28.3である。 労働災害も深刻だ。労災が適用される労働者100人あたりの災害者数を示す労働災害発生率は2017年の0.48%から2022年は0.65%へと上昇した。労働災害による年間死亡者も2017年の1957人から2022年には2223人へと上昇した。 さらに今や世界で知らない者はいないといっても過言ではない出生率の低さも改善されなかった。 15〜49歳の女性1人が同じ時期に出産すると予想される平均出生児の数を示す合計特殊出生率は、2017年の1.05から2022年0.78へと減少した。2015年以降の下降は、2023年の0.72を底に、2024年には0.75と反転したが、やはりOECD最悪の数値だ。生まれる子の数も2017年の35万7700人から2022年には24万9000人へと減少した。