急失速マクラーレン、第3勢力への後退の真因 ― F1シンガポールGPで白旗を上げた“昨年の覇者”

2024年のシンガポールGPを圧倒的な速さで制したマクラーレンが、わずか1年で“第3勢力”へと転落した。悠々自適にポールポジションを獲得し、20.945秒という大差をつけトップチェッカーを受けたあの姿は今、どこにも見当たらない。

ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポールポジション、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が2番手を獲得した予選で、チャンピオンシップ首位のオスカー・ピアストリは3番手、ランド・ノリスは5番手に沈んだ。

これで今季3戦連続のポールポジションなし──昨年の覇者に何が起きているのか。

予選Q3でラッセルが叩き出した1分29秒158は、ノリスのベストタイムを0.428秒も上回る圧倒的なものだった。ノリスはその差が圧倒的なものであることを潔く認めた。

「僕らは単純に速さが足りない。今の僕らに、あのタイムは到底無理だ。去年や今年の何戦かでは、僕らが他のチームに対してそういう存在だったけど、形勢が完全に逆転してしまった」

マクラーレンは2024年からタイヤマネジメントの強さを武器に連勝を重ね、今季もコンストラクターズ選手権でトップ争いを繰り広げてきた。だがマリーナベイ市街地コースでは、その強みが全く発揮できていない。

Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

ポールポジション獲得を喜ぶジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年10月4日(土) F1シンガポールGP予選

問題の核心は、フロントタイヤの機能不全にある。

「今週末は誰もがフロントタイヤに苦しんでいるけど、それは僕らのマシンの弱点でもある」とノリスは語る。

「しかも僕にとってそれは、”悪夢”みたいなアンダーステアを意味するんだ」

マリーナベイは今季、一部路面の再舗装が行われた。低速・短コーナー主体のコースでは、空力よりもメカニカルグリップの前後バランスが問われる傾向がある。MCL39はメカニカル的にフロントの応答性が鈍く、新舗装によるグリップ増がリア側に偏り、相対的にフロントが機能しにくくなっているとみられる。

「路面が新しい部分はグリップが高いけど、すごくアンダーステアになる。僕にとっては最悪の状況だ」とノリスは説明する。

ステアリングを切ってもフロントが入らず、マシンが曲がらない──結果としてコーナリングスピードと立ち上がり加速の双方でロスを抱える。

チーム代表のアンドレア・ステラは、2025年仕様のピレリタイヤが「ストップ・アンド・ゴー型サーキットではマクラーレンに不利に働いている」と分析。さらに、レッドブルやメルセデスがアップデートを続ける中、MCL39の開発を早期終了させたことも影響しているとの見解を示した。

マリーナベイ市街地コースを周回するランド・ノリスの4号車マクラーレンMCL39、2025年10月3日(金) F1シンガポールGPフリー走行3

「ラスベガスの時と同じで、フロントタイヤが入らないときはメルセデスが上位に来る。まさに今週末がそれだ」

ノリスが指摘した通り、2024年ラスベガスGPでもマクラーレンはフロントの問題に苦しみ、メルセデスが1-2フィニッシュを飾った。今季のカナダGPでも同様の傾向が見られ、ラッセルとフェルスタッペンが最前列を独占した。

これらのサーキットには共通点がある──ブレーキングとトラクションが重視されるショートコーナー群、そしてブレーキングゾーンのバンプ(路面の凹凸)だ。次戦アメリカGPも似通った特性を持つ。

さらに直近の2戦での敗北が象徴するように、MCL39は低ダウンフォース・サーキットでも苦戦する傾向が確認されている。

新型サスペンションの”持病”再発

さらに厄介なのは、この問題がマシン設計そのものに起因している可能性がある点だ。ノリスは、今年導入された新型フロントサスペンションが高グリップ条件下でのフロントの応答性を鈍らせていると分析する。

「今週末は、ミディアムタイヤの時はすごく快適だった。フロントがよく入ってくれて、自分のスタイルに合っていた。でもソフトを履くと問題が出る」

「シーズンを通して苦しんでいる”フロントの感触”の悪さが、また顔を出した感じだ」

MCL39は極端なアンチダイブ特性(制動時の前傾抑制)を持つ。これにはフロア下の空力効率を高める狙いがあるが、副作用としてステアリングやサスペンションからのフィードバック低下を招く。特に、ブレーキングとステアリング操作を同時に行うノリスのドライビングスタイルにとって、この特性は大きな制約となっている。

「決勝では少しマシになると思う」とノリスは言うものの、楽観はしていない。「今のところは兎に角、速さが足りない」

高温多湿のシンガポールでは、タイヤマネジメントが鍵を握る。63周の長丁場では、マクラーレンの強みであるタイヤのライフ管理が活きる可能性もあるが、それでも予選での0.6秒差はノリスにとって大きな不安材料だ。

ピアストリが3番手につけたのはマクラーレンにとって救いだが、ドライバーズ選手権で追う立場のノリスにとっては、決して歓迎できるものではない。

Courtesy Of McLaren

5番手に終わった予選を経てパルクフェルメを歩くランド・ノリス(マクラーレン)、2025年10月4日(土) F1シンガポールGP予選

2025年F1シンガポールGP予選では、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポールポジションを獲得。2番手にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3番手にオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が続く結果となった。

決勝レースは日本時間10月5日(日)21時にフォーメーションラップが開始され、1周4940mのマリーナベイ市街地コースを62周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNフジテレビNEXTで生配信・生中継される。

F1シンガポールGP特集

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