好調ノリスがステアリングから“消した”とある項目。これで予選アタックにより集中できるようになった?

 F1メキシコシティGPで独走勝利を収めたランド・ノリス(マクラーレン)は、チームメイトのオスカー・ピアストリを逆転してポイントリーダーに返り咲いた。ここ最近のレースではノリスの安定したパフォーマンスが光っているが、それはステアリングホイールに関するとある工夫も関係しているかもしれない。

 ノリスにとっては、シンガポールGP後のミーティングが転機であったと言われている。そこからリヤタイヤの冷却性能やデグラデーション(性能劣化)のマネジメントが改善され、パフォーマンス向上の鍵となった。結果として、2戦前のシンガポールでは予選5番手だったノリスがメキシコで久々のポールを獲得することになる。

 一方シンガポールで3番手だったピアストリはメキシコで8番手と苦しむことになるが、両者の違いは、単なるセットアップやラップタイムの差にとどまらない。予選へのアプローチそのものが異なっているのだ。

 モナコGP以降、ノリスはステアリングホイールのディスプレイからデルタの項目を削除するようチームに依頼している。“デルタ”とは、自分のベストラップとの差を示すものであり、コーナーを曲がるごとに、ベストラップに対してタイムを縮めているか、悪化しているのかを確認することができる。

 これは一見些細な変更に思えるが、明確な狙いがある。ドライバーの多くは、このデルタを参考にして、アタックラップの進捗を確認している。マクラーレンのステアリングではスピード表示のすぐ上、右上の位置に表示される。

写真: Gianluca D'Alessandro

 ただ、このデルタを見ながら走ることによって、ドライバーは不必要に慎重になってしまったり、もしくはアタックを諦めてしまうことがある。ノリスはそうした影響を避けるため、予選ではあえてこのデータを表示しない選択をしたのだ。

 彼の考えでは、この選択によってひとつひとつのコーナーを最大限に攻められるようになるという。もちろん、明らかなミスをした場合には自らアタックラップを中止する判断もできる。それに、感覚的な「良さ」と実際のタイムが必ずしも一致するわけではない。だからこそ、ノリスは予選ではデータに左右されず、純粋に走りに集中したいと考えている。

 ノリスはメキシコシティGPの予選後にこう語った。

「(デルタが)助けになるのか、むしろ悪影響なのかは分からない。でもそれがない時は、アタックラップの立ち上がりが悪かろうが、途中がイマイチだろうが、とにかく全力でプッシュし続けられるんだ」

「アタックラップの全体像を示すものがないから、どんな時でも次のコーナーを最大限に攻めようという気持ちになる。逆にそうでないと(デルタが表示されていると)、つい見入ってしまうこともある。それはあまり良いことではない」

「だから今回は、本当に良いアタックが出来た上で最終的に表示されたラップタイムを見て、嬉しい驚きを感じられた」

 ノリスが言うように、彼はアタック中のデルタは見られないものの、アタック終了時にラップタイムを確認できるようになっており、完全に何も見ずに走っているわけではない。

 また、タイヤ温度などの重要な情報は引き続き表示されている。これはタイヤの適正温度を維持するために欠かせないデータであり、ギヤポジションやブレーキバランスも常に可視化されている。

 ただし、決勝レース本番では状況が異なる。デルタ表示が復活するのだ。これは、決勝では燃料やタイヤのマネジメントをしていく必要があるため、チームからの指示に従ってペースを調整するためにデルタタイムは重要だからである。

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