限界を超えろ。金をX線レーザーで加熱し続けるとどうなる?

Image: Greg Stewart / SLAC National Accelerator Laboratory

物理学者たちは初めて巨大なX線レーザーを用いて、超高温状態の金粒子の温度を直接測定することに成功しました。

これは宇宙船の設計や核融合炉の開発に、大きな影響を及ぼす可能性のある画期的成果です。

金を巨大レーザーで加熱

スタンフォード大学のSLAC国立加速器研究所で、物理学者たちが金を「融点の14倍」という驚異的な温度にまで加熱する実験を行ないました。

金の融点は摂氏1,064度(華氏1,948度)ですが、今回の実験ではその14倍にもなる摂氏1万8726度(華氏33,740度)に達しました。この研究は、『Nature』誌に掲載されました。

この研究の筆頭著者でネバダ大学リノ校の物理学者のトーマス・ホワイト氏は

「データを見て誰かが言ったんです。

『ちょっと待って。この軸合ってる? これ…めちゃくちゃ熱くない?』って」

と、米Gizmodoとのビデオ通話の中で、実験時を振り返っています。

研究に使われたSLAC国立加速器研究所の極限環境物質(MEC)装置Image: Matt Beardsley/SLAC National Accelerator Laboratory

研究チームは、まずレーザーで金を急激に加熱し、その後X線を照射して温度を測定しました。

その結果、これまでの理論では「超えられない」とされていた限界を大きく超えていたのです。この温度はほんの数兆分の1秒しか続きませんでしたが、それでも測定には十分な時間だったと研究者は述べています。

長年信じられてきた理論を覆す結果に

従来の物理学では、金のような構造物は融点の3倍以上には加熱できないとされていました。それ以上温度が上がると、原子の構造が保てず、「エントロピーの大災害(entropy catastrophe)」、つまり俗にいう「爆発」が起こると考えれてきたのです。

しかし、今回研究チームはこの理論の限界を大きく超える温度まで金を保ちました。金は一時的に固体と液体の中間のような状態(結晶構造があるのに溶けかけている)に留まり、爆発しませんでした。

「もし膨張を防ぐことができれば、理論的には永遠に加熱できるかもしれないんです。

巨大レーザーでいろんなものを爆破して、新しい発見をすることができる。これが私の仕事なんです」

とホワイト氏はコメントしています。

「温度」を直接測る新技術が誕生

この成果の背景には、物質の温度を直接測定する新しい方法の開発があります。

従来の温度測定は、水銀や金属の膨張といった「温度の影響を受ける変化」を間接的に測るものでした。しかし、今回の研究では、X線を使って原子の動きそのものから温度を計算する技術が使われました。

研究チームはこの方法で、金が超高温でも短時間なら安定して存在することを示しました。この技術は、今後の宇宙開発や核融合実験にも応用できる可能性があるといいます。

核融合研究や宇宙探査に向けて

今回の成果は、研究用の金属材料を高温下で正確に測定できるようになったことを意味します。これは、核融合炉(人工的に恒星のようなエネルギーを生み出す装置)や、宇宙船の先端部分など、極限の環境で使われる材料の研究においても役立つことでしょう。

実際、ローレンス・リバモア国立研究所の「ナショナル・イグニッション・ファシリティ」では、金の筒(ホールラウム)にレーザーを当ててX線を発生させ、核融合を起こす実験が行なわれています。このような実験でも、材料の温度を直接測れることで、さらなる改良が可能になると期待されています。

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