AIで「仮想細胞モデル」構築の米バイオ系企業Tahoe Therapeutics、44億円を調達

生物学における究極の目標の1つは、生きた細胞をデジタル空間でシミュレーションすることだ。研究者がコンピューターを用いて、新薬が体内でどう作用するかをより正確に把握できれば、動物や人を対象とした試験に進む際により自信を持って取り組めるようになる。 しかし、大規模言語モデル(LLM)がタンパク質の挙動を解明する上で画期的な成果をもたらした一方で、そのテクノロジーを細胞全体の複雑な仕組みに応用する試みは十分に成果を上げていない。その背景には、必要なデータが不足していることが挙げられる。 ■タホ・セラピューティクスによる「Tahoe-100M」の意義 そんな中、2025年2月、タホ・セラピューティクスというスタートアップが、その目標に一歩近づいた。同社が発表した「Tahoe-100M」と呼ばれるデータセットは、1000種類を超える分子との相互作用に対して、さまざまながん細胞がどのように反応したかを示す1億件のデータポイントを集めたものだ。こうしたデータは「摂動(perturbations)」と呼ばれ、AIモデルの学習にとって極めて重要とされる。なぜなら、細胞がさまざまな分子にどう反応するかという情報があれば、他の分子に対する反応をアルゴリズムが予測しやすくなるからだ。 「私たちはTahoe-100Mを、単一細胞データセットにとっての『火星着陸』の瞬間だと考えている」と、39歳のタホ・セラピューティクスのCEOのニマ・アリドゥーストはフォーブスに語った。 ■モザイク技術が可能にした大規模データ生成 同社が設立から3年足らずの間でこのデータセットを構築できたのは、自社のプラットフォーム「Mosaic」のおかげだ。従来の手法が一度に1人の患者の細胞しか検証できないのに対し、このプラットフォームでは「さまざまなタイプの患者の、あらゆる臓器から細胞を取り出し、それらをまとめることができる」と、タホ・セラピューティクスの共同創業者で最高科学責任者(CSO)のジョニー・ユーは説明する。 「そのため、私たちは実験を行うたびに、どの薬がどの患者に効くのかを示す、膨大な単一細胞アトラス(データベース相当)が大量に得られる」と彼は続けた。 「私たちの最大の強みは、仮想細胞モデルに必要となる膨大なデータセットを生み出す力だ」とアリドゥーストは語る。彼はまた、そのデータ生成能力を迅速に拡大できることこそが、同社が創薬向けAIに取り組む上での強みだと付け加えた。タホ・セラピューティクスは、こうした能力を基盤として、仮想細胞モデルを構築し、がんやその他の病気の新たな治療法を発見しようとしている。 ■44億円の資金調達と評価額 タホ・セラピューティクスは8月11日、新たに3000万ドル(約44億円。1ドル=147円換算)のベンチャー資金を調達したと発表した。この調達ラウンドは、Amplify Partnersの主導によるもので、Databricks VenturesやWing Venture Capital、General Catalyst、AIX Ventures、Mubdala Ventures、Civilization Ventures、Convictionらも参加した。今回の投資により、同社の累計調達額は4200万ドル(約62億円)に達し、評価額は1億2000万ドル(約176億円)に達した。 AIX Venturesのパートナーでタホ・セラピューティクスの取締役も務めるクリシュ・ラマドゥライは、「精度の低い人工知能(AI)の予測は、バイオテクノロジー業界にとって常に頭痛の種だった」と語る。「これらのAIアルゴリズムは次から次へと提案を出してくるが、実際に実験室で検証してみると、全部役に立たない。しかし、タホが生み出すデータは、新たなモデルの精度に決定的な違いをもたらす」と彼は続けた。

Forbes JAPAN
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