「自分は大丈夫は禁物」増える落雷、10年で1.7倍に 多発する夏本番へ「備え強化を」
全国で落雷が増えている。気象会社の調査によれば、落雷数は過去10年間で1・7倍超に増加。原因は定かでないが、近年の温暖化なども影響しているとみられる。今年4月には奈良市で部活動中の中高生6人が搬送されるなど、各地で落雷事故も相次ぐ。近畿や中国など西日本各地も9日に梅雨入りし、これからは落雷が多発するシーズン。気象庁は屋外活動で備えを強化するよう求め、「自分は大丈夫」との慢心を戒める。
「急な通り雨が来たと思ったらピカっと光り、ほぼ同時にゴロゴロと音が鳴った」
奈良市の帝塚山学園第2グラウンドに落雷があったのは、4月10日午後5時50分ごろ。学園によると、小雨が降り始め、サッカー部の顧問がウェブで雨雲の状況を確認しようとした矢先に起きた。搬送されたのは、サッカー部の男子中学生5人と野球部マネジャーの女子高校生1人。うち1人の意識は今も戻っていない。雷注意報は午前中から発表されていたが、部活の複数の顧問は把握していなかった。
気象庁の野村竜一長官は事故後の定例記者会見で、屋外活動では責任者が雷注意報を必ず確認し、「発表時は活動を控えてほしい」と強調。「雨が降ってからとか、音が聞こえてからでなくとも、十分雷に遭うことはある」とし、「自分は大丈夫」という意識は間違いだと訴えた。
6~9月が特に多発
落雷は冬も日本海側を中心に発生するが、特に多発するのが6~9月の夏場だ。気象会社「フランクリン・ジャパン」(相模原市)が全国のセンサー31基で観測したデータによると、令和6年までの10年間の年間平均落雷数は約376万件。月別では8月が平均約93万件で最多だが、6月や9月も50万件を超える。
さらに全国の年間落雷数をみると、平成27年の約258万件から令和6年に約459万件と1・7倍に増えた。大阪・関西万博で落雷リスク監視を担う気象サービス会社「日本気象」(大阪市)の調査でも、昨年までの8年間で7、8月の落雷数は近畿で約2倍、関東では約5倍。フランクリン社は「増加の原因は一概には言えない」とするが、日本気象は「特に東日本で海水温が高かった」とし、温暖化などの影響も考えられる。
注意報なら部活動自粛も
雷が人を直撃すれば、まさに命に関わる事態。落雷の多発により、各学校などは事故防止に備え危機管理体制のいっそうの向上が求められる。
落雷事故のあった帝塚山学園では事故後、部活動再開に向け安全管理指針を公表。事故が起きた第2グラウンドは「校舎と離れ教員が手薄」(同学園の担当者)でもあり、雷注意報の発表時には部活動を自粛し、注意報がない段階でも事前に気象庁の「雷ナウキャスト」で情報収集するといった取り組みを始めた。
今後、専門家を含む第三者委員会から再発防止策などの提言を受ける予定だ。同学園は「提言をもとに、さらにソフト・ハード面の対策を強化する」としている。
情報収集に「雷ナウキャスト」活用を
ピンポイントでの落雷情報の収集に役立つとして専門家などが活用を呼びかけるのが、気象庁のサイトが提供する「雷ナウキャスト」だ。落雷の可能性が高い詳細な区域や、1時間後までの予報が地図上で確認でき、専門家は「雷注意報が出ていれば頻繁に雷ナウキャストを確認してほしい」とする。
雷ナウキャストは、雷監視システムによる雷放電の検知やレーダー観測などを基に、雷の発生場所を1キロ四方の範囲で表示。さらに、雷の激しさや落雷の可能性を1時間後まで予測し、10分ごとに更新される。
雷の活動度は4段階で示す。最も低い1が「今後落雷の可能性がある」で、2は「雷あり」、3は「やや激しい雷」、4は「激しい雷」。雷放電の検知数が多いほど活動度が上がる。
ただ、急に雷雲が発達することもあり、気象庁は「活動度の出ていない地域でも天気の急変には注意する必要がある」としている。雷鳴が聞こえるなどすれば、すぐに建物や車の中などへ避難するよう促している。
また、電柱や木などの高い物に落ちた雷が人に飛び移る現象「側撃」にも注意が必要だ。同庁はやむを得ず木などのそばに避難する場合でも、4メートル以上離れることなどを求めている。
「恐れ過ぎず現場で判断を」
近畿大の森本健志教授(大気電気学)
落雷は積乱雲(雷雲)の中にたまった電気の量が多くなることで起きる。空気は本来電気を通しにくいが、雲に電気がたまり過ぎると、地面にたまった電気との間に通り道ができる。これが俗にいう「いなずま」で、人に当たると感電して被害が出る。
落雷は地表面が温まって活発な上昇気流ができやすい7、8月に多いが、年間の発生数にはばらつきがある。観測技術が進んで今まで逃していた雷も記録できるようになり、単純に増えているとは言いづらい。それでも、雷が少なかった地域や季節に増えたり、逆に減ったりという部分で、地球温暖化の影響が出ている可能性はある。
雷の音や光を覚知すればすぐに避難しなければならないが、その段階で避難しても死傷事故は起きる。部活動などを始める前に気象庁の雷ナウキャストを使い、今起こっている雷の情報を把握すべきだ。
いつも同じ場所で実施する部活動なら、雷に注意する経験や知識を積み重ねると、雷ナウキャストの見方も分かってくる。経験値を上げれば、恐れ過ぎず現場で判断できるようになるだろう。(聞き手 前原彩希)