トランプも頭があがらない?「猛獣使い」の素顔とは…ワシントンで最もパワフル、裏方に徹する「氷の乙女」(Wedge(ウェッジ))
ワシントンで最もパワフルな女性といえば、大統領首席補佐官(Chief of Staff)に起用されたスーザン・ワイルズ(67歳)であることは論を俟たない。 彼女は今回の大統領選挙で選挙対策本部長として選挙戦全体を指揮した。首席補佐官はホワイトハウスで政府内の調整や議会への対応、大統領のスケジュール管理などを担う政権の要で、女性が起用されるのは初めてである。 第一次トランプ政権では、大統領首席補佐官は事実上の更迭や辞任が相次ぎ、最終的には4人が務めたが、冷静な性格からトランプに「Ice Maiden(氷の乙女)」と呼ばれているワイルズなら4年間務めあげるだろうと言われている。ワイルズとともに大統領選を運営したクリス・ラシヴィータは、「トランプが1日の初めに最初に話したのはスージー(スーザン・ワイルズのこと)で、夜に最後に話したのもスージーだった。それだけで信頼のレベルや居心地の良さの度合いが分かる」と語る。ワイルズはトランプが最も信頼している人であると言っても過言ではない。 生まれはフロリダ州南部に位置し、アリゲーターの町として知られるレイクシティー。父親のパット・サマーオールはアメリカンフットボールの選手で、引退後にスポーツ・ブロードキャスターとしてキャリアをスタートさせてから、初めて大金が舞い込むようになったという。ワイルズと2人の弟は、コネチカット州スタンフォードの大きな家に引っ越し、その後ニュージャージー州サドルリバーに移った。 メリーランド大学への進学後、父親のニューヨーク・ジャイアンツ時代の親友の一人だったジャック・ケンプ議員のスタッフとして働いた。それが彼女の政界との関わりの嚆矢となるが、その後レーガン陣営の選挙運動にも加わった。
トランプとの出会いはかなり後になってからである。2015年、トランプは大統領選への出馬を表明した直後、フロリダ州の有力なロビイストで共和党の資金調達者であるブライアン・バラードに、同州での勝利を支援してくれる政治活動家の名前を尋ねた。バラードがトランプに推薦した人物が他ならぬワイルズだった。政治経験がなく知名度も低いリック・スコットが10年のフロリダ州知事選に立候補したとき、ワイルズがその選挙運動を成功に導いたことを目の当たりにしていたからだ。 これを機にバラードはロビー活動会社バラード・パートナーズのジャクソンビル事務所を開設した。 ワイルズがトランプに直接会ったのは、15年9月、ニューヨークだった。当時トランプの大統領選出馬は半分冗談だと見られていた。ワイルズは、「トランプには公の場での罵詈雑言とは違った政治的才能と個人的な魅力がある」と友人たちに語っており、トランプなら大統領になれると確信していた。 ワイルズはフロリダ州で名声を確立している。スコット前知事だけではなく、デサンティス知事の選挙対策本部に参加し、その初当選を後押しした。また、彼女はジャクソンビル市長の首席補佐官を務めたり、国会議員や労働省で低位の役職に就いていたりしたこともあり、地道に政界での経験を積み重ねていった。 トランプは公の場では、扇動的で挑発的な暴言を吐くが、それは表向きのトランプであって、「私が知るドナルド・トランプはそんなふうには振る舞わないし、私が彼を見るレンズには、そんなものは何も見当たらない。私は強さ、賢さ、比類のない労働倫理がはっきり見える」と16年にフロリダのタンパベイ・タイムズ紙に語っている。 実際、筆者はトランプの側近として働いたかばん持ちや牧師にもインタビューしたことがあるが、「トランプの暴言は、カメラ用である。実際のトランプは丁寧(gracious)で、人の言うことに耳を傾け、協力的である」と異口同音に語る。ワイルズはトランプの良い面と悪い面を熟知しており、ホワイトハウス内でトランプを操ることができるのは、彼女しかいないということである。 また、彼女は21年1月6日の議事堂襲撃についてトランプ氏を責めていない。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「あの日、トランプがエリプス(ホワイトハウスの南にある大きな芝生広場)に行って、『私は国会議事堂で暴動を起こし、人々が破壊を行い、誰かが傷つき、死ぬことになる』と言ったとは思えない。トランプがそんなことを考えたことはない」と語っている。