物価目標の実現は「目前に」、FRBの動向を注視=高田日銀委員

 日銀の高田創審議委員は3日、国内の動向を見る限り、物価目標の実現が「目前に迫りつつある局面」だと述べ、堅調な設備投資や賃上げ、価格転嫁の継続といった前向きな企業行動の持続性が確認されていけば、金融緩和度合いのさらなる調整を進めることが引き続き必要だと述べた。写真は日銀の建物と日本国旗で、2024年3月都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[津市 3日 ロイター] - 日銀の高田創審議委員は3日、国内の動向を見る限り、物価目標の実現が「目前に迫りつつある局面」だと述べ、堅調な設備投資や賃上げ、価格転嫁の継続といった前向きな企業行動の持続性が確認されていけば、金融緩和度合いのさらなる調整を進めることが引き続き必要だと述べた。その上で、米国の政策転換次第では「機動的に利上げへ回帰する可能性も考えられる」として、米連邦準備理事会(FRB)の動向を注視する姿勢を示した。

三重県津市で開いた金融経済懇談会であいさつした。

高田委員は「過度な悲観に陥ることを排し、自由度を高めた柔軟な金融政策運営が求められている」と語った。

関税政策による影響で米国経済の減速が見込まれるもとで、内外の異なる景気サイクルを背景とする金融政策のスタンスの違いで「為替を中心とする金融市場に大きな変動が及ぶリスクへの注視も引き続き重要だ」と指摘した。

FRBが利下げを再開する場合には「日銀の金融政策の自由度が低下する可能性も考えられる」とする一方で、2000年ごろのITバブル崩壊後や00年代後半の世界金融危機後とは異なり「足元は利上げのいったん休止局面であって、一定期間の様子見の後、再びギアシフトを続けていく状況だ」とし、「米国では相互関税賦課に伴いインフレ率が反転上昇する観測も根強く、利下げの可能性は低下する傾向にある」と述べた。

<日本は「通商摩擦対応先進国」>

高田委員は、トランプ政権は米国の製造業の国内回帰を目指しているが「米国のようにグローバルなサプライチェーンを活用し、水平分業モデルで高い生産性を保っているもとでは、製造業の国内回帰が賃金抑制につながり得る」と指摘、「米国が高い関税を続けることには難がある」と述べた。

今回の関税政策は1990年代までの日米通商摩擦時と異なり、日本を含む各国・地域が幅広く対象となっており、日本だけに影響が及ぶわけではないと指摘。通商摩擦を機に日本企業が産業の高度化に取り組んだ結果、自動車や半導体、鉄鋼・化学等で米国で代替的な生産が少ない品目のウエートが高まっている面もあり「今回の関税賦課については過去よりは価格転嫁可能」と述べた。需要減少に伴う影響は免れないものの、その程度は90年代を超えるものにはなりにくく、米政府の減税などで需要が盛り返す可能性もあるとした上で「特に本邦企業収益への影響が少なくとも90年前後の通商摩擦時と比べて限られるもと、従来のような賃金抑制といった縮小均衡的な企業行動にはつながりにくい可能性が考えられる」と述べた。

高田委員は「日本は現在を大幅に上回るストレス状況を耐え抜いてきた『通商摩擦対応先進国』」だと述べ、バブル崩壊後30年にわたる企業財務の改善など、過去とは異なる面も冷静に受け止める必要があり、「過度に悲観に陥ることも大きなリスクだ」と話した。

その上で、金融政策運営について、当面は緩和的な金融環境の継続でサポートしつつも、非伝統的金融政策から平時の状況に戻る局面にようやく到達し「『真の夜明け』が視野に入ったとの基本的認識を持った上で、今後、米国の関税政策の動向やその日本経済への影響を丹念に見極め、慎重ながらも段階的にギアシフトを行っていく必要がある」と語った。

<超長期金利の急上昇、「意図せざる引き締め効果のリスク」>

債券ストラテジスト出身の高田委員は、日銀の国債買い入れの減額計画にも言及した。高田委員は、買い入れ額を減らすことは市場に国債を供給することにつながるとして「今次局面は過去と比べて有数の市中への大量国債供給局面」と指摘。国債が市場に供給されることに伴う不安定性を回避するためにも、減額幅の調整や市場の受容状況の見極めが必要だと述べた。

高田委員は、超長期ゾーンの需給悪化は1年前に減額を開始した当初には想定していなかったと述べた。「超長期ゾーンのリスクプレミアム上昇は、ボラティリティーの変動がイールドカーブ全体に波及し市場機能の低下につながりやすい」とし、「意図せざる金融引き締め効果が幅広く市場に伝播するリスクも生じ得る」と警戒感を示した。

その上で、国債の買い入れ減額は財政への配慮ではないものの、市場全体としての機能度改善の観点から「当局間で十分に意見交換し、市場の安定に努めていく必要もある」と話した。

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