F1分析|痛恨のピットストップミス。しかしペースは悪くなかった角田裕毅のメキシコシティGP

 F1メキシコシティGPの決勝レースは、角田裕毅(レッドブル)にとっては厳しいレースとなった。基本的にはよく戦っていたと言えるだろう。しかし、ピットストップの際に作業ミスがあり、ポジションをダウン。しかもただポジションを落としただけではなく、”前に出られると厄介”なドライバーたちの先行を許してしまったため、上位進出のチャンスを逃した。

 このピットでのミスがなければ、4〜8番手あたりを争う集団の中での勝負となったはずだ。

 角田を襲ったピットストップ時のミス。それは、リヤのジャッキにあった。

 F1マシンがガレージ前の所定の位置に止まると、前後で手動のジャッキが動き、マシンを持ち上げる。そして瞬時にタイヤを交換し、ジャッキを下ろして再びコースへと向かうのだ。

 F1マシンの自動車で言うジャッキアップポイントは、フロントはノーズ先端もしくはフロントウイング中央部、リヤはクラッシャブルストラクチャー(リヤライト)の下あたりに存在する。

 今回の角田車は、リヤにジャッキを滑り込ませる際にミスがあり、中途半端な箇所を持ち上げてしまったのだ。そのためマシンがずり落ち、これに慌てた担当スタッフは、再びジャッキを滑り込ませるのに手間取ってしまい、大きなロスとなったのだ。

 この時の映像は、決勝レースの中継では見られなかった。しかしいずれ、どこかで皆さんもご覧いただける時が来るだろう。

 ただこういうことは、角田本人も明言した通り、ごく稀にあること。いかに練習を繰り返していたとしても、人間がやる以上はミスゼロにはできない。そういう意味では、前を向く他ないだろう。

 ただ、もしこのピットストップがうまくいっていたら、角田は何位くらいでフィニッシュできたのだろうか? そこを検証してみたい。

フェルスタッペンに匹敵するタイミングもあった!

F1メキシコシティGP決勝レースペース分析:フェルスタッペンvs角田

写真: Motorsport.com Japan

 まずは角田のそもそものペースはどの程度だったのか見てみよう。このグラフは、F1メキシコシティGP決勝レース中の、マックス・フェルスタッペン(紺色の実線)と角田(紺色の点線)のレースペース推移である。いずれも、ミディアムタイヤでスタートし、ソフトタイヤへと繋ぐ1ストップ作戦であった。

 レース序盤は、1周あたり0.5秒ほどフェルスタッペンの方が速く、その差が徐々に開いていく(グラフ赤丸の部分)。しかし周回が進むに連れて両者のペース差は小さくなり、スティントの最終盤はほぼ同じペースで走っていた(グラフ青丸の部分)。

 全体的な傾向を見ても、フェルスタッペンは徐々にペースを落としている傾向にあったのに対し、角田は徐々にペースを上げていくというデータを示している。

 これはつまり、角田が非常にうまくタイヤをマネジメントしていたことの証拠と言うことができるだろう。もちろん、角田の前方は比較的開けていたため、タイヤマネジメントはしやすい位置にいた。一方でフェルスタッペンは、オリバー・ベアマン(ハース)に抑え込まれたことで、タイヤがオーバーヒートしやすい状況にはあった。そういう差はある。

 ちなみにスティント最終盤、角田のペースはガクリと落ちている(グラフ緑丸の部分)。これは、早々に1ストップ目を済ませていた2ストップ勢が追いついてきたから。角田は自身のタイムを極力失わず、それでいて簡単には前に出さない戦法をとった。そのためペースが落ちているわけだが、多少なりともこれらのマシンを抑え込めたことで、間接的にはフェルスタッペンが3位になるサポートすることができたはずだ。

 第2スティントでも、序盤と終盤ではフェルスタッペンと遜色ないペースで走った。ただ中盤(グラフ橙丸の部分)は、アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)とガブリエル・ボルトレト(ザウバー)に抑え込まれてしまったことで、ペースダウンしているのが分かる。

 冒頭で申し上げたピットストップでのミスがなければ、このふたりに先行されることはなかったはずで、第2スティント中盤でのペースダウンはなかっただろう。

 そういう意味で角田の全体的なペースは、今回は”悪くはなかった”と評価すべきだろう。

F1メキシコシティGP決勝レースギャップ推移分析

写真: Motorsport.com Japan

 では次に、実際のポジションの面ではどうなっていたのかというところを見てみよう。こちらは、実際のレース中のギャップの推移をグラフ化したものである。

 今回のメキシコシティGPのピットストップにおけるロスタイムは、22〜23秒ほどであった。つまり角田はピット作業にミスがなければ、グラフ上に赤丸で示したあたりの地点、ハジャーの前でコースに復帰できていたはずだ。

 このグラフには表示されていないが、その前方にはまだ1度もタイヤ交換を済ませていなかったランス・ストロール(アストンマーティン)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)などがいた。ただタイヤライフの差を考えれば、この2台は比較的容易に攻略することができただろう。

 おそらく問題は、オコンを抜けたかどうかだ。オコンのペースは、それほど秀でたものではない。レース中のペースを見れば、角田の方が1周あたり0.5秒〜1秒ほど速かった。ただそこは侮れないハース。絶対的なペースは遅くとも、後続を完璧にブロックするというシーンをここ数年何度も見てきた。

 でも1対1の対決ならば、オコンを攻略することもできたはず。そしてそれが実現していれば、そこにはクリーンエアの陵域が広がっていた。ペースを上げるにはうってつけだ。そしてフェルスタッペンの第2スティントと同等のペースで走ることができていれば、ベアマンを先頭にした4番手グループの一員となっていただろう。

 もちろんその場合でも、タイヤライフの差があり、角田にとっては楽なレースにはならなかったのは間違いなく、その集団のどのポジションでフィニッシュできたかは分からない。しかし最高で4位、最低でも8位でフィニッシュしていただろう。そして、チームメイトであるフェルスタッペンの最大のライバルであるオスカー・ピアストリ(マクラーレン)を、もう一度苦しめるチャンスだって巡ってきたはずだ。

 そういう意味でも、ピットストップのミスは残念でならない。

 さて実際の角田は、第2スティントの大部分を、ボルトレトの後方で過ごしていた(グラフ青丸の部分)。そしてなかなか仕掛けることをしなかった。その段階で「ボルトレトすら抜けないのか!」とヤキモキした方もいらっしゃるかもしれない。

 しかしこれは、ちゃんと考えがあってのことだったと思われる。今のF1では、DRSトレインにハマってしまうとオーバーテイクを仕掛けられないどころか、ダウンフォースを失って無駄にタイヤを痛めてしまう。今回はそれが特に顕著であった。

 そのため角田は、ボルトレトにまずはハジャーを攻略させ、対ハジャー、対ボルトレトと、常に1対1の戦いに持ち込もうとしていた感がある。しかしボルトレトがハジャーの攻略に手間取り、しかも比較的タイヤを残していたことで、角田としてはボルトレトを攻略できなかった。

 今のF1はオーバーテイクが実に難しい……それを如実に表したシーンであったと言えよう。

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