日銀が来年度以降の国債購入の議論本格化、市場安定と機能向上が焦点

日本銀行は今週、金融市場局幹部と金融機関の債券取引実務担当者との会合を開き、6月の金融政策決定会合で行う国債買い入れ減額計画の中間評価に関する議論を本格化する。トランプ関税などを受けて長めの金利を中心に上昇する中、市場安定と市場機能の向上のバランスを今後の国債買い入れにどう反映させるかが焦点となる。

  日銀は20日に銀行と証券会社、21日には機関投資家などの実務担当者との債券市場参加者会合を開催する。中間評価では昨年7月に決めた来年3月までの国債買い入れ減額計画に関し、市場の動向や機能度を含めて点検し、計画修正の是非や来年4月以降の方針を議論する。現行計画の策定に際しても同様の会合を開いており、出席者からどのような意見が表明されるか注目が高まっている。

  日銀は10日現在、長期国債全体の約半数にあたる約576兆円を保有する。昨年7月末は約590兆円だった。現在は昨年7月末の5.7兆円程度から毎四半期に4000億円程度ずつ減らし、来年1-3月に2.9兆円程度とする計画で、過去9カ月間に減額に伴う市場の大きな混乱は見られていない。日銀は中間評価について、現行計画を「維持することが基本となる」としている。

  アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎シニア債券ストラテジストは参加者会合について、日銀の国債買い入れ減額ペースの加速を求める金融機関の声が伝わってくれば、長期金利は1.5%への上昇が見えてくると指摘。一方、需給悪化で超長期ゾーンが不安定化しており、「日銀が6月の中間評価で超長期債の減額ペースを抑制しなければ投資家の悲観ムードは変わらないだろう」とみている。

  焦点は2026年4月以降の買い入れ方針だ。植田和男総裁は1日の記者会見で中間評価に関し、市場の意見も踏まえて「国債市場の動向、機能度をしっかり点検しつつ、26年4月以降の姿も提示する」と発言。トランプ米政権の関税政策を受けて金融市場で神経質な取引が続く中でも、日銀の国債買い入れ減額に伴う市場機能の改善をいかに進めていくかが重要な論点になりそうだ。

  ブルームバーグ・エコノミクスの木村太郎シニアエコノミストは「現在の減額ペースは維持される公算が大きい」と予想する。日銀は国債買い入れについて、金融政策と切り離したコミュニケーションを行っている。減額幅に手をつけることで、「トランプ関税の不確実性を受けてあえて明確なシグナルを避けている政策金利の見通しについて、市場に無用な臆測を生じさせるリスクを避けるだろう」とみる。

市場機能

  現行計画の策定をにらんだ昨年7月の市場参加者との会合では、大手行や証券会社などから積極的な減額を求める声が出た一方、相対的に期間が長めの債券を多く保有している地域金融機関や生命保険会社などの機関投資家からは減額に慎重な意見があった。現在もこうした構図に大きな変化はない。

  新たな国債買い入れ方針の議論では、引き続き予見可能性と柔軟性の確保が前提になる見通しだ。現行計画では長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に買い入れの増額や指し値オペなどを実施することを明記しており、こうした考え方は維持される可能性が大きい。

  日銀が16日に公表した債券市場サーベイの5月調査では、現状の機能度判断DI(高い-低い)がマイナス44と、前回2月調査のマイナス13から悪化した。悪化幅は2015年の調査開始以降で最大。金融市場局によると、米関税政策を受けて日本の債券市場でも変動率が高まり、超長期ゾーンを中心に流動性が大きく低下したことが要因として指摘されているという。

超長期金利

  足元の国債市場では、米関税政策を受けた不確実性の高まりや日本の財政規律への懸念などを背景に、超長期金利の上昇が続いている。特に償還期間が長いほど上昇が顕著で、19日午後3時現在は40年国債利回りが3.45%、30年国債利回りは2.97%となっている。10年国債利回りは1.48%だ。

  市場の一部には超長期国債の買い入れ増額を期待する声があり、市場参加者との会合でも超長期金利の上昇が話題になる可能性がある。現在の減額計画自体は変えずに、買い入れゾーンの配分で調整することも可能だ。ただ、長期金利も誘導対象としたイールドカーブコントロール(YCC)を撤廃した現状で、経済への効果が相対的に小さい超長期金利の抑制に動く必要性は乏しいとみられている。

  モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一マクロストラテジストは、「会合の注目点は超長期ゾーンの需給動向についてだ」と指摘。地合いの悪さが構造的に続いているため、「これ以上減額しないでほしい、または10年超を増額して10年以下を多めに減らしてほしいなどの意見は出るだろう」とみる。

  4月30日と5月1日の決定会合の主な意見によると、ある政策委員は超長期債について、中央銀行が市場を十分に考慮することは当然だが、一方で「その時々の市場の意見に反応し過ぎると、その柔軟性がかえって予見性を低下させ、市場の不確実性をより高める可能性がある」と述べた。その上で、日銀が市場に不確実性を招くことは極力避けるべきだと主張した。

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