【分析】ロシアを襲い続ける「暗黒の8月」、プーチン氏がひた隠す今夏の危機とは
8月12日、ロシアのサンクトペテルブルクで観測された部分日食の様子/Olga Maltseva/AFP/Getty Images
(CNN) ここ数十年の間、「暗黒の8月」または「8月の呪い」という言葉が、ロシアにおいてはある種のジャーナリズム用語として定着した。これは夏の終わりの数週間にかけて、同国で大きな危機が起こりがちな状況を表す言い回しだ。
見方によっては、「暗黒の8月」は英国のジャーナリズムにおける「シリー・シーズン(夏枯れ時)」にほぼ相当する。この時期の英国はニュースに乏しく、軽薄な見出しが支配的になる傾向がある。 議会が休会中である上に、王室の人々も休暇を過ごす――あるいは予期せぬ帰国を発表する――状況だからだ。とはいえ、ロシアの場合はそんな気楽な話ではすまない。最近のロシア史をざっと振り返れば、「ブラックスワン」、つまり予期せぬ衝撃的な事態が8月に発生しやすいという見解には裏付けがあるように思える。
35年前、共産党の強硬派グループがソ連指導者ミハイル・ゴルバチョフに対するクーデターを企てたが失敗に終わり、その結果求心力を失ったソ連は崩壊へと向かった。1998年8月にはロシアを金融危機が襲い、国内のデフォルト(債務不履行)とルーブルの暴落を引き起こした。その1年後には武装勢力がロシア南部のダゲスタン共和国に侵攻。第2次チェチェン紛争の勃発に道を開く。この紛争をきっかけに、当時政界では無名だった元KGB(国家保安委員会) 将校、ウラジーミル・プーチン氏が権力の頂点へと躍り出た。
プーチン氏は、当時のエリツィン大統領による予想外の権力移譲を経て、99年の大晦日(おおみそか)にロシアの指導者となった。しかし、この新たな「強硬派」のリーダーもまた、「8月の呪い」から逃れることはできなかった。大統領就任後、プーチン氏が直面した最初の大きな試練の一つは、乗組員118人を乗せて沈没した原子力潜水艦「クルスク」の事故だった。そして2008年8月、ロシアは隣国ジョージアとの戦争に突入。プーチン氏による外交政策の好戦的な一面が新たに露呈した。
今年の夏も、プーチン政権下のロシアにとっては厳しい季節となりつつある。ウクライナでの激戦地でロシア軍が十分な進展を果たせない中、ロシア各都市の上空はウクライナによる攻撃で黒く染まっている。標的となっているのは石油精製所や、米アマゾン式の物流センターだ。さらにガソリンスタンドでの長蛇の列や、新たな動員の噂(うわさ)がロシア国民の不満を募らせている。
果たしてこれは「暗黒の8月」の再来なのだろうか?
亡命中のロシア人評論家イリヤ・バルラモフ氏は今週、この疑問について自身の見解を投稿。8月に歴史的な災難が繰り返されること自体は「当然ながらただの偶然だ」と述べた。
しかし、バルラモフ氏は続けてこう語った。「多くのロシア人は8月の訪れに不安を抱く。とりわけ今は、国が真の危機に瀕している状況だ。(中略)燃料危機が再燃し、物価は上昇の一途をたどり、止まる気配もない。ルーブルが下落する中、選挙が迫る。これから何が起こるかはまさに神のみぞ知る、だ」
バルラモフ氏はまた、最近公表されたロシアを代表するある経済学者の発言に言及した。この経済学者はロシア政府が「社会的危機」に直面していると警告。「技術と経済の両面で世界との競争に敗れ」、西側の支援を受けるウクライナに対しても、消耗戦に勝利できる見込みはないと明言した。
クレムリン(ロシア大統領府)に忠実なタブロイド紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」でさえ、ロシアにおける8月恒例の不安について言及している。そのヒントとして同紙が目を向けたのは占星術だ。当該の記事には「今月は月食が起こる予定だ。規模はそこまで大きくはないものの、冥王星と対向する位置で発生する。冥王星は大災害と関連がある」と書かれている。
「これにより、社会的な変動、近隣諸国との関係における政治的変化、そして国内の動乱が引き起こされる可能性がある。事故件数の増加や不安の高まり、神経障害を含む体調不良などの事例が増える恐れもある」
しかし、こうした不安を煽るような臆測が飛び交う中にあっても、プーチン氏はいつもの自信に満ちたオーラを漂わせていた。
19日にインフラおよび開発プロジェクトについて発言した際、プーチン氏は電子商取引大手「ワイルドベリーズ」の倉庫に対するウクライナの攻撃で、経済が損害を被ったことを認めた。ただワイルドベリーズの社名は出さず、攻撃の長期的な影響についてはこれを軽視した。
「言うまでもないが、これらの攻撃が今後危機的状況をもたらすことはない。現時点でもたらされてはおらず、その可能性もない」「一方で攻撃によって損害が生じるのは間違いない。この点は明らかであり、我々もそれを理解・認識し、把握している」(プーチン氏)
プーチン氏は、これらの物流施設は政府の支援を受けて再建されると明らかにした。しかし、ウクライナでの戦争は多くのロシア人にとってますます身近な問題となり、彼らの家計を直撃している。
ウクライナも戦時下にあって、国内の危機に直面している。先週、先ごろ解任されたフェドロウ前国防相が戦時中の選挙実施を訴えた。ウクライナのゼレンスキー大統領に新たな政治的課題を突きつけた形だ。
フェドロウ氏の主張の是非はともかく、この動きはプーチン氏にとって新たな議論の材料となる可能性がある。同氏はゼレンスキー氏の大統領としての正当性について、公の場で再三疑問を呈してきた。
そこには際立った対比が見て取れる。
ゼレンスキー氏の5年の任期は当初24年に終了する予定だったが、22年のロシアによる全面侵攻を受けて発令された戒厳令の下、ウクライナでの選挙は延期されている。また政府の内閣改造や大規模な反政府デモは、ウクライナにおいて市民社会と民主的なプロセスが依然として健在であることを示している。
ロシアの状況はこれとはかけ離れている。17日、同国裁判所は、ウクライナ戦争に反対したとして、野党政治家のレフ・シュロスベルグ氏に禁錮11年の判決を下した。またロシア最高裁は、シュロスベルグ氏が所属する政党「ヤブロコ」に対し、今後の議会選挙での立候補を禁じた。
つまり、プーチン氏がウクライナへの戦争を開始して以来、ロシア国内の政治的反対勢力は事実上、封じ込められてきたということだ。米国の作家アーネスト・ヘミングウェイなら間違いなく認めるところだろうが、市民社会の抑圧は徐々に起こるように見えながら、投獄中の野党指導者の死という形で突然目の前に現れる。24年2月、北極圏の流刑地で命を落とした野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の死への旅は、20年8月のある日に始まった。その日同氏は、シベリアからモスクワへ戻る機内で、神経剤による中毒症状に襲われたのだ。
それが偶然なのかどうかはさておき、8月はロシアにとって依然として過酷な月であり続けている。
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本稿はCNNのネイサン・ホッジ記者の分析記事です。