軍への忌避感薄まる沖縄 若い世代の意識変化の背景にあるものは

沖縄戦について伝える小学校での平和集会で、児童に話しかける野添侑麻さん=沖縄県名護市で2025年6月5日午前10時34分、比嘉洋撮影

 「なんで当時の人はそんなことをしたのかな? 自分だったらこうすると考えてほしい」

 5日、沖縄県名護市の市立名護小学校体育館であった平和集会。約400人の高学年児童を前に、講師を務めた野添侑麻(ゆうま)さん(32)は一枚の絵を見せて問いかけた。

 80年前の沖縄戦で、米軍が上陸した沖縄県・伊江島(伊江村)で起きた住民の集団自決。ガマ(自然壕(ごう))に身を寄せた家族や親族が手投げ弾を爆発させ、一斉に死んだ時の様子を戦後、生き残った人が描いた。

 1時間ほどの集会では、児童が意見を出し合う機会を繰り返し設けた。野添さんが意識しているのは「その場に自分がいたらどうするか」と当事者目線で考えてもらうことだ。

 野添さんは平和学習事業を手がける会社「さびら」(那覇市)の社員。同社では米軍上陸前後の沖縄を舞台に、受講者に「避難するか、とどまるか」といった選択をしてもらい、地上戦で生き残ることを目指す「ロールプレー」などの教育プログラムを実施している。

 2022年に入社し、県内外の学校や企業、団体を対象に平和学習をする中で、野添さんが最近感じていることがある。沖縄戦や米軍基地問題については、実は沖縄の人たちよりも県外の修学旅行生の方がよく知っているのではないかと。

 沖縄を訪問する修学旅行生は事前に数日から数カ月かけて沖縄のことを調べてくる。沖縄戦で家族を亡くしたり、負傷したりした住民が国に損害賠償を求めた訴訟の資料を読み込んだ上で、沖縄に来た学校もあった。

 一方、県内では6月の「慰霊の日」の前に沖縄戦に詳しい人から話を聞く機会を作るだけの学校も多い。県内の教諭からは「平和学習は正規の科目でないため、時間が確保できず、企画や準備のノウハウも継承されていない」との声が上がる。

 学校や家庭で沖縄戦や基地問題について学んだり、話し合ったりする機会が減っている。野添さんはそんな状況が、自衛隊や米軍に対する県民の考えが変化しつつある背景にあると感じる。

 沖縄で生まれ育った野添さんは小学生の頃に、沖縄戦に関心を持った。担任の教諭が自身の母の沖縄戦体験を絵本として描き、それを読み聞かせてくれたのがきっかけだった。

 中学生の時には友人宅に遊びに行くと、その祖父が沖縄戦の体験を話してくれた。知れば知るほど、沖縄戦と現在の米軍基地問題は「地続きになっている」と思う。

 野添さんは友人の集まりでこんな話をしてみる。「沖縄戦では日本の軍隊がいた地域が激戦地になった。軍隊に守られることもあるかもしれないが、攻撃対象にもなる」と。

 基地の問題もタブー視せずに話せる環境にしたいと思う。「論点を整理して話せば、意見の違いがあっても最後は納得し合える。みんながふわっとした理解のまま大人になる方が怖い」

 明星大の熊本博之教授らが22年に実施した沖縄県在住者への世論調査では、若い世代ほど自衛隊の強化に対する反対が少なく、沖縄への米軍基地の集中を「不平等」と考える割合も低かった。

 熊本教授はその背景として、軍拡を進める中国に対する懸念とともに、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画を巡る経過を挙げる。「県民があれだけ移設反対の声を上げても政府に届かず、多くの国民も無関心だった」

 ある20代男性は調査の自由記述欄に書いていた。「一地域が『駄目だ、不平等だ』などと声を上げても状況は変わらない。反対する気持ちはわかるが、県はもっと別のことに時間を使ってほしい」

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