「スマホ依存」が脳の働きを低下させる スマホへの適切な向き合い方と、企業にできる支援とは

現在、誰もが当たり前のようにスマートフォン(スマホ)を使用していますが、東北大学 応用認知神経科学センター 助教の榊浩平さんは、「スマホを長時間使用することは、テレビやゲームとは比べ物にならないほどの悪影響がある」と話します。スマホを触らずにいられなくなる「スマホ依存」が社会的に問題となりつつある中、私たちはスマホにどう向き合い、どのように活用すればいいのでしょうか。スマホ依存に対する正しい理解や企業ができる支援について、榊さんにうかがいました。

――「スマホ依存」とはどういった状態を指すのでしょうか。 前提として、「スマホ依存」は病気として正式に認定されているものではありません。また、診断基準が確立されているわけでもないので、「ここからがスマホ依存だ」と明確に線引きすることが難しいものでもあります。 あくまで目安ですが、「スマホ依存である」と考えられるいくつかの要件があります。まず、「生活に支障が出ていること」。「ずっとスマホを触っている」という自覚をお持ちの方は多いと思いますが、使用している時間が長いだけでは「スマホ依存」と言えません。「他のことをしなければならないのに、スマホを触ってしまう」など、日常生活に支障をきたしているかどうかがポイントです。 また、とくに私が注目しているのは「自分でコントロールできないこと」です。「そろそろやめなければいけない」というタイミングで、やめられるかどうかが重要なポイントです。重度になってくると、薬物やタバコ、アルコールなどの依存症と同様に、スマホを使っていないときに「スマホを触りたくて仕方がない」「使えなくてイライラする」といった症状が出てきます。 このようにスマホ依存は、さまざまな指標を総合的に勘案して判断するものです。私は、スマホやタブレット、パソコンといったインターネット接続機器をまとめて研究しています。「スマホは駄目だがパソコンはOK」というわけではありませんが、使用時間の内訳を見ると圧倒的にスマホが多いため、スマホの影響が最も大きいだろうと考えています。 ――スマホを長時間使用することは、脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 主な影響は二つあります。まずは「前頭前野の働きの低下」です。脳、とりわけ「脳の司令塔」とも呼ばれる前頭前野は、筋肉と似たような仕組みになっています。つまり、たくさん使えば使うほど育ちますが、使わなければ衰えてしまうのです。スマホに代表されるデジタル機器を操作しているときは、前頭前野の働きが低下することがわかっています。 二つ目は「集中力の低下」です。人間の脳は、原則として一つのことにしか集中できない構造になっています。世間一般で言われる「マルチタスク」は、基本的には存在しません。 専門用語で「タスクスイッチング」と言いますが、複数のタスクを行うときは、注意を複数のタスクに分配できているのではなく、単に切り替えているだけなのです。切り替えのたびに「スイッチングコスト」と呼ばれる認知のリソースが要求されるため、どうしても一つのタスクに集中したときと比べてパフォーマンスが落ちます。また、タスクスイッチングが習慣化されると、「一つのことに集中する」という習慣そのものがなくなり、集中できなくなってしまいます。 ――スマホの長時間使用は、学力に悪影響を及ぼすと聞きました。 私たちは長年にわたり仙台市教育委員会と一緒になって研究を進め、子どもの成績とインターネットの使用時間の関係を調査してきました。その結果、1日に1時間以上スマホを使っている場合、使用時間が伸びるほど学力が低くなる傾向にあることがわかりました。どの年の調査結果でも、一貫して表れています。 この結果を見たとき、私たちはまず「スマホを使った分だけ勉強時間や睡眠時間が削られるので、学力が低下するのではないか」と考えました。そこで勉強時間と睡眠時間を加えた分析を行ったところ、同じ時間だけ勉強して同じ時間だけ寝ていても、スマホの使用時間が長いほど学力に悪影響を与えていることがわかりました。3時間以上スマホを使用している子どもたちのグループでは、どれだけ勉強しても、きちんと睡眠をとっていても、成績上位には入れませんでした。「スマホを使った分だけ勉強すればいい」という話ではないのです。これはかなり衝撃的な結果でした。 また、スマホをまったく使わない子どもと1日1時間未満使用している子どもを比較したところ、1時間未満のほうが、若干学力が高い傾向が見られました。この結果だけを見ると「スマホを少し使った方がいいのだろうか」と思うかもしれませんが、自己管理能力が関係しているとも考えられます。つまり、スマホを持っていても自分の意志で1時間未満に抑えられるような子どもたちなので、成績が高いと考えることもできるのです。 これらの結果は子どもを対象とした調査によるものですが、大人に対しても基本的に同じ影響があります。前頭前野は9〜18歳ぐらいで爆発的に発達し、そこから緩やかに成長が進んで、30歳ごろにピークを迎えると言われています。「発達」という点では子どものほうが影響は大きいかもしれませんが、大人にとっては「脳の機能をいかに維持するか」が重要です。大人も子どももスマホを長時間使用せず、頭をたくさん使う必要があります。

日本の人事部
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