【心理テクニックで解決】「無自覚ハラスメント」をしてしまう人の脳科学的特徴

ここ20年ほどで、社会は大きく変わりました。人権意識の高まり、社会構造の変化、価値観の多様化などにより、かつてなら問題とならなかったことも「ハラスメント」とされ、ハラスメントをする人には強い非難が集中します。しかし、『幸せを手にできる脳の最適解 ウェルビーイングを実現するレッスン』(KADOKAWA)を上梓した、東北大学准教授で脳科学者の細田千尋先生は、「無自覚にハラスメントをしてしまう人がいる」と語ります。ハラスメントをしてしまわないための方法を教授してもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/塚原孝顕(インタビューカットのみ)

【プロフィール】細田千尋(ほそだ・ちひろ)医学博士・認知神経科学者・脳科学者。東北大学加齢医学研究所および、東北大学大学院情報科学研究科准教授。東京医科歯科大学大学院医歯学総合博士課程修了。国立精神・神経医療研究センター流動研究員、(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)専任研究員、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員、JSTさきがけ専任研究員などを経て、現職。仙台市教育局「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクト委員会委員、日本ヒト脳マッピング学会委員などを務める。著書に『脳科学が教える 一瞬で心をつかむ技術』(PHP研究所)、『幸せを手にできる脳の最適解 ウェルビーイングを実現するレッスン』(KADOKAWA)がある。

他人に共感する能力に欠けている「エゴイスト」

すでに「近年」とは言えないかもしれないほど以前から、ビジネスシーンはハラスメントについて敏感になっています。リーダーのなかには、「なにを言ってもハラスメントになるのではないか」と不安を抱いている人もたくさんいるようです。

一方、そういった社会の変化のなかでも、いまだにハラスメントをしてしまう人がいるのも事実です。そうした人の多くは、心理学的に見ると、自己の利益や欲求を最優先に行動する人とされる「エゴイスト」にあたります。

エゴイストは、他人に共感するとか他者の視点から物事を見ることができません。そうした発想や能力が欠如してしまっているのです。それらはもともともっている特性であり、まわりがどうこう言っても治せるものではありません。ですから、ちょっと身も蓋もない言い方になるかもしれませんが、ハラスメントをする側もされる側も、「治らない」と認識するしかないのが実情です。

しかし、治すことはできないものの、なかには「エゴイストの特性をうまく隠すことができる」人もいます。もしみなさんのなかに過去にハラスメントで問題を起こしてしまった人がいたら、その対応を学ぶことをおすすめします。

心理テクニック「リフレーミング」を活用する

エゴイストの特性をうまく隠すことができる人は、「リフレーミング」と呼ばれるテクニックを使っています。リフレーミングとは、「物事のとらえ方や意味づけを変えることで自分の感情や行動を変える」心理テクニックです。

たとえば、指示通りに動かない部下に対して「なぜ指示したとおりにやらないんだ!」と反射的に叱り飛ばすのではなく、「この部下は、自分なりのやり方を模索している最中かもしれない」と考えるとか、報告や相談が遅い部下に対しては、「『完璧な状態でないと報告してはいけない』と思い込んでいるのかもしれない」と考え、「状況に少しでも動きがあったときにはすぐに報告してくれたほうがありがたい」と伝えるといったことです。

つまり、「こういう状況や相手に対しては、こうとらえてこうする」というように、あらかじめ自分の対応法を決めておくのです。

よく見られる対応法のひとつが、「オウム返し」です。ハラスメントが多く起きるのは、相手の言葉に対して反射的に怒りやイライラをぶつけてしまうような場面です。そこで、オウム返しが力を発揮してくれます。

自分の考えを強い言葉で返すからハラスメントになるのであり、相手の言葉を繰り返すだけならハラスメントにはなりません。たとえば、こんな具合です。

部下「すみません、報告が遅れてしまいました」上司「報告が遅れてしまったということだね」部下「はい、自分でなんとかできると思ってしまって……」

上司「自分でなんとかできると判断したんだね。その判断の背景を教えてもらえるかな?」

そもそもオウム返しには、「話を聞いてもらっている」という印象を相手に与えて安心感や共感を生み出す効果がありますし、相手自身に自分の発言内容をあらためて考えさせることで客観的に見直させる効果もあります。そうして、「本当にそれでいいのか?」といった言葉を口にせずに、相手に考えさせ、自分が伝えたい事柄を暗に伝えることができるのです。

自分なりのストレス対処法を事前に用意しておく

また、ハラスメントをしやすい人にはストレスを感じやすいという特徴も見られますから、ストレスへの対処法を知っておくことも大切です。強いストレスは、思考や言語、判断、感情制御といった高次な認知機能を司る、脳の「前頭葉」の機能を低下させます。そうして冷静さや社会性を欠いて適切な判断や意思決定ができなくなり、ハラスメントをしてしまうのです。

そのストレスに対する対処法はさまざまですが、私からは「すぐにできる自分なりの対処法をいくつかリストアップしておく」ことをおすすめします。

一概には言えませんが、ストレスを受けるのは、たとえば自分の仕事に追われているときに部下のミスが発覚してその対応もしなければならなくなったなど、その多くが「時間がない」ときです。他人が関わることでなくとも、忙しくて自分の時間をもてないとそれだけで強いストレスを感じてしまいますよね。

だからこそ、「すぐにできる」というのがポイントになります。「旅行が私の趣味であり最高のストレス解消法だ」といっても、時間がないときに旅行に行くことなどできません。「リラックスタイムをもちましょう」「じっくり瞑想をしましょう」とアドバイスをされても、時間の余裕がないからこそ心の余裕ももてなくなっているのですから、それらを実行するのは難しいでしょう。

ですから、たとえば「寝る前にアロマをたく」でもいいですし、「好きなアーティストの曲を聴く」でもいいですから、短時間ですぐにできる対処法をリストアップし、「いま、ストレスを感じているな」と思ったら、それらを即座に実践するのです。事前にリストアップしておくことで、「どういう対処法がいいだろうか」と考える時間の節約もできます。

【細田千尋先生 ほかのインタビュー記事はこちら】【脳科学で解明】「頑張っているのに報われない」と感じる人に足りない、あの“幸せホルモン”もう、他人と比べなくていい。比較癖を手放すために知っておきたい脳の仕組み

【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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