「なぜか賢い子」はゲームをしていた!? 「ゲームは悪影響」をひっくり返す、最新脳科学で明かされた“新事実”
ここまで読んでいただいて、「うーん、そうなんだろうけど、なんだか腑(ふ)に落ちない」といった反応をお持ちの読者も多いのではないでしょうか? それもそのはず、ゲームに関するネガティブな言説が巷(ちまた)では当たり前だからです。 実際、前述のようなゲームの良い効果が注目され始めたのは、ここ最近のことです。それ以前は、まさに「ゲームは悪!」と言わんばかりに、悪い影響ばかりが注目されてきました。 以下に、いくつかゲームのネガティブな効果として挙げられてきた代表的な例をリストアップしておきましょう。 ・暴力的になる。※3 ・成績が下がる。※4 ・仕事のパフォーマンスが下がる。※5 ・集中力が下がる。※6 そして、これらの「噂」のどれも根拠になる科学論文があります。 そうであるならば、いかに認知能力やスキルが上がろうが、脳の機能が良くなろうが、結果として、ゲームのやりすぎで成績が下がったり、暴力的になったり、孤独になって、人生のクオリティーが落ちてしまうのならば、ゲームはやらないに越したことはないのではないか? そう思っても無理はなさそうですが、実は、それはちょっと気が早すぎなのです。 というのも、どの「噂」も真逆の効果を示す研究が多数あるのです。しかも、そうした研究をまとめて、がっちゃんこ、としてみると、ゲームとネガティブな結果の相関関係が認められないなんていうことさえあるのです。 たとえば、これまでゲームが暴力性につながるいくつかの研究ばかり注目され、「ゲームをすると暴力的になる!」と結論づけられていました。しかし、そうではない研究も全て含めて、相関を計算すると、有意な関係性は見つけられないことがわかったのです。※7 まさに、「ゲームは悪!」という考え方は、ポジティブなものよりも、ネガティブなものについつい目がとらわれてしまう「ネガティビティ・バイアス」(negativity bias)の賜物なのです。 また、ゲームの悪影響を示す研究の多くは「ゲーム依存症」と言っていいほどゲームをやりすぎてしまった場合の話に限定されています。 ゲームのやりすぎにフォーカスして、全体の傾向を把握することはできず、そこで出た悪い結果をもとに、ゲーム全体に一般化することはできません。 さらに、最近の研究から、ゲームをすると成績が下がったり、仕事のパフォーマンスが下がるのではなく、成績が低かったり、仕事がうまくいっていないと、「ゲーム依存症」になる傾向があることがわかってきました。※8 つまり、因果関係が全く逆なのです。ゲームをするとうまくいかなくなるのではなく、ダメだとゲームにハマりすぎてしまいがちだというわけです。 ※3 Grüsser SM, Thalemann R, Griffiths MD (2007) “Excessive computer game playing: evidence for addiction and aggression?” Cyberpsychology & Behavior, 10(2):290-2. ※4 Alzahrani AKD, Griffiths MD (2024) “Problematic Gaming and Studentsʼ Academic Performance: A Systematic Review.” International Journal of Mental Health and Addiction. ※5 Kim EJ, Namkoong K, Ku T, Kim SJ (2008) “The Relationship between Online Game Addiction and Aggression, Self-Control and Narcissistic Personality Traits.” European Psychiatry, 23(3):212-8. ※6 Swing EL, Gentile DA, Anderson CA, Walsh DA (2010) “Television and Video Game Exposure and the Development of Attention Problems.” Pediatrics, 126(2):214-21. ※7 Ferguson CJ (2007) “The Good, The Bad and the Ugly: A Metaanalytic Review of Positive and Negative Effects of Violent Video Games.” Psychiatric Quarterly, 78(4):309-16. ※8 Alzahrani AKD, Griffiths MD (2024) “Problematic Gaming and Studentsʼ Academic Performance: A Systematic Review.” International Journal of Mental Health and Addiction.
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スタンフォード・オンラインハイスクール校長。哲学博士。 1977年、東京生まれ。2001年、東京大学文学 部思想文化学科哲学専修課程卒業。02年よ り渡米、03年、テキサスA&M大学哲学修士 修了。08年、スタンフォード大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクール・スタートアッププロジェクトに参加。 16年より校長に就任。現職の傍ら、日本、米国、アジアにむけて、学校や教育スタートアップ の支援やコンサルティングにも取り組む。慶應義塾大学や横浜市立大学では経営や教育 に関する研究活動も行う。 著書に『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法』(光文社)、『脳を活かすスマホ術』(朝日新書)、『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)など。
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