【ボクシング】神足茂利と浦川大将、ともに急性硬膜下血腫のため緊急開頭手術 2人は2日の試合後に意識を失って救急搬送
プロボクシングの東洋太平洋、日本スーパーフェザー級5位の神足茂利(28)=M・T=と、日本ライト級4位の浦川大将(28)=帝拳=がともに急性硬膜下血腫のため緊急の開頭手術を受けたと日本ボクシングコミッション(JBC)が4日、発表した。ともに2日の東京・後楽園ホールでの試合後に意識を失って東京都内の病院に救急搬送された。現在は経過観察中。JBCの規定により2人は事実上の現役引退となる。
2人は別々の試合でともに熱戦を演じたものの、代償はあまりにも大きかった。JBCの安河内剛本部事務局長(64)は取材に応じなかったが、複数の関係者によると2人とも重体だという。
神足は東洋太平洋スーパーフェザー級タイトルマッチを闘い、2度目の防衛を目指していた王者の波田大和(28)=帝拳=と三者三様の引き分け。惜しくも王座奪取を逃した。前半はすばらしいボクシングを展開してペースを握り、4回終了後の公開採点では39-37、39-37、38-38とリード。波田が前に出て反撃してきたが、巧みなディフェンスを披露。的確にパンチを返して8回終了後には77-75、77-75、78-74とわずかにリードを広げた。終盤は王者が自力を見せて得意の強打でやや優勢だったが、ジャッジは115-113、113-115、114-114で引き分けとなった。
判定を聞くとキャンバスに両膝をついて悔しがったが、すぐに立ち上がって波田や波田陣営と「もう1回(再戦を)やろう」などと会話を交わした。観客にお辞儀をしてから大きな拍手をもらいながら歩いて退場したが、医務室で意識を失って救急車で東京都内の病院に緊急搬送された。検査で脳出血が確認されたため、すぐに開頭手術を受けた。3日には2度目の手術も受けている。
浦川は日本ライト級挑戦者決定戦を闘い、同級5位の齊藤陽二(29)=角海老宝石=に8回TKO負け。強烈な右ストレートを被弾して背中からダウンし、キャンバスに後頭部を打ちつけて失神。担架で運ばれて退場し、こちらも救急車で東京都内の病院に緊急搬送された。同じように検査で脳出血が確認されたため、すぐに開頭手術を受けた。
1日の計量をクリアした浦川大将(左)と齊藤陽二JBCは開頭手術を受けた選手の試合を許可しておらず、2人は事実上の引退となる。5月24日のIBF世界ミニマム級タイトルマッチ後、急性右硬膜下血腫のため意識を失った前王者の重岡銀次朗(25)=ワタナベ=も試合直後に開頭手術を受けており、現在も意識は戻っていない。
2023年12月26日の日本バンタム級タイトルマッチ後、急性右硬膜下血腫のため意識を失った穴口一輝さんは昨年2月2日に23歳で亡くなった。「浪速のロッキー」と呼ばれた元プロボクサーの赤井英和(65)は1985年2月のノンタイトル戦で7回KO負け後、急性硬膜下血腫や脳挫傷のため開頭手術を受けたが無事に回復し、俳優に転身した。
ラウンド数を少なくするなど大幅なルール改正が検討されて然るべきリング事故頻発の異常事態となっている。(尾﨑陽介)
■神足 茂利(こうたり・しげとし) 1996(平成8)年9月2日生まれ、28歳。名古屋市出身。小学校6年間はGKとしてサッカーをプレー。中学1年でボクシングを始め、愛知・瀬戸北総合高から名門の日大に進学。アマチュア73戦50勝(5RSC)23敗の戦績を残して卒業後にM・Tジム入り。2019年10月にプロデビューした。今回の試合に向けてはサウスポー対策として同門のWBC、IBF世界バンタム級統一王者の中谷潤人(27)とも合計で約30ラウンドのスパーリングを実施。「絶対に自分の日にしたい」と王座奪取を誓ってリングに上がった。プロ戦績は12戦8勝(5KO)2敗2分け。右ボクサーファイター。178センチ。
■浦川 大将(うらかわ・ひろまさ) 1997(平成9)年3月7日生まれ、28歳。東京・葛飾区出身。元アマチュアエリート揃いの帝拳ジム所属選手では珍しいアマチュア戦績のないプロたたき上げ。知人の試合を観戦して触発され、ボクシングを始めた。2018年3月にプロデビュー。2度目の新人王トーナメント挑戦で、20年度全日本ライト級新人王を獲得した。23年11月に日本同級最強挑戦者決定戦で三代大訓(横浜光)に判定負け。昨年4月に神足に6回TKO勝ちして再起したが、10月の日本同級最強挑戦者決定戦で村上雄大(角海老宝石)に判定負けした。プロ戦績は14戦10勝(7KO)4敗。右ボクサーファイター。178センチ。
★急性硬膜下血腫
頭部への強い外圧により脳表面から出血し、頭蓋骨の下で脳を覆う硬膜の間に血がたまる状態。激しい頭痛や意識障害などを引き起こす。転倒や交通事故、ボクシングの試合などで頭を強打したりして発症するケースがある。開頭して血腫を除去する必要があり、日常生活に支障なく復帰できる可能性は約20%と低い。