「同性愛者は地獄の業火で焼かれる」と拡声器で叫ぶ者も…トランプ大統領を熱狂的に支える"福音派"の正体 (プレジデントオンライン)
トランプ米大統領を支持する人たちはどんな人たちか。立教大学文学部教授の加藤喜之さんは「人口の25%近くを占めるとされる『福音派』が挙げられる。彼らの終末論的世界観を理解しなければ、アメリカの分断は読み解けない」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は加藤喜之『福音派――終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)の一部を再編集したものです ■キリスト教的終末論の「善と悪との戦い」を実践する人々 現代のアメリカでは、複数の争点をめぐり、極めて深刻な対立が生じている。 中絶は女性の基本的人権なのか、それとも許されざる殺人なのか。公立学校で教えるべきは進化論なのか、それとも神による創造なのか。警察による黒人射殺は構造的な人種差別の表れなのか、それとも犯罪に対する正当な法執行なのか。そして、より根本的な対立として、合衆国は人種や信仰の多様性を認める世俗国家なのか、それとも建国以来のキリスト教国なのか。 対立はなぜ起こるのだろうか。 その答えを探る鍵は、意外にも宗教にある。2022年のピュー研究所の調査によれば、4割ものアメリカ人が世界は終わりつつあると信じている。特に米国の人口の25%近くを占めるとされる「福音派」では、その割合は6割を超えるという。彼らにとって、現代の政治的・社会的な対立は、終末に向かう世界における善と悪の戦いの一部として理解されているのだ。 「福音派」(“Evangelicals”という名称は、救い主イエスの到来を意味するギリシア語の「良い知らせ」(エウァンゲリオン)、すなわち「福音」に由来する。この用語は、16世紀の宗教改革以降、ローマ・カトリックと区別されるプロテスタント教徒を表す一般的な呼称として使われてきた。しかし本書で扱う福音派は、アメリカの歴史のなかで独自の発展を遂げた特殊な宗教集団を指す。
■宗派の壁を超えた運動 米国の福音派は、神の言葉としての聖書、個人的な回心体験、救いの条件としてのキリストへの信仰、そして布教を重視する、複数の教団、教会、個人からなる宗派の壁を超えた宗教集団であり、運動である。 アメリカには、長老派やバプテスト派などの多様な宗派が存在するが、福音派はそうした宗派の壁を超えたものとして理解されるべきだろう。つまり、長老派教団の会員でありつつ、福音派を自認する信者も当然存在する。 その歴史的背景には、19世紀の大覚醒運動、20世紀初頭の原理主義運動、そして1950年代の宗教復興がある。ただし、実際に「福音派」と名乗りだしたのは1940年代で、強力な政治勢力として台頭したのは70年代後半だった。 ■「古き良き」アメリカ文化を守るため 福音派が台頭した背景には、60年代以降の一連の社会変化がある。公教育の世俗化、公民権運動やフェミニズムが掲げた自由と平等の理念、さらには性的規範の変容やドラッグ文化の拡大は、米国南部・南西部の白人プロテスタント社会を中心に根付いていた伝統的な価値観を根底から揺るがした。これに危機感を抱いた福音派は、「古き良き」アメリカ文化を守るため、次第に政治に参画していった。 この動きを支えたのが、独特の終末論的な世界観である。 終末論とは、世界の終わりに関する宗教的な考えである。具体的には仏教における末法思想やゾロアスター数の最終決戦などがあるが、キリスト教では、イエスの復活と再臨による最後の審判を指す。教会に古代から伝わる『使徒信条』によると、十字架の上で死んだイエスは3日目に復活しており、現在は神の右に座し、いつの日か「生者と死者を裁くため」に再臨するという。 とりわけアメリカの福音派は再臨が近いと信じ、自らを神の側に立つ善の力とみなすことで、世俗化や道徳的退廃という悪に立ち向かう。