NATO結束実現の舞台裏、王室の歓待と露骨な称賛でトランプ氏攻略

まさに王にふさわしい歓待ぶりだった。

  オランダ王室の宮殿では、クッションがふっくらと整えられ、ウィレム・アレクサンダー国王は特別な来客を一晩迎えていた。その目的はただ一つ。トランプ米大統領が世界最大の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)から手を引かないよう、入念に演出された外交舞台で重要な役割を果たすことだった。

オランダ王室が主催した国賓晩餐館に到着したトランプ氏

  オランダ出身のルッテNATO事務総長は、国賓晩餐会でのスピーチに先立ち国王と打ち合わせし、席順にも細心の注意を払った。トランプ氏お気に入りのイタリアのメローニ首相は同氏の隣に配置された。炭焼きのマグロや子牛のフィレとともに、国賓への称賛も振る舞われた。  

  ルッテ氏は席を立ち、トランプ大統領をまっすぐに見つめてこう語りかけた。

  「NATOがすでに、過去10年間で1兆ドル(約145兆円)の国防費を追加拠出していることを、今日ここで発表できることを嬉しく思う」と切り出し、「大統領閣下、親愛なるドナルド、それはあなたがわれわれを後押ししてくれたおかげだ」とトランプ氏を持ち上げた。

ルッテ氏の作戦奏功

  努力の成果は如実に表れた。宮殿に滞在したトランプ氏は翌朝、上機嫌で目覚め、「美しいオランダ」での「素晴らしい」ホストたちとの朝食についてソーシャルメディアに投稿した。 

  トランプ氏はNATO首脳会議の会場に到着すると、ルッテ氏の隣に腰を下ろしながら満面の笑みで「われわれは彼らを全面的に支持する」と語った。NATOサミットでは正式に、集団防衛義務を定めた第5条へのコミットメントをトランプ氏から引き出すことに成功した。

  だが、ここに至るまでの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。トランプ氏はNATOサミットに向かう大統領専用機(エアフォースワン)上で、NATOの中核を成す第5条への米国の関与について、疑問を呈すような発言を行っていた。

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  トランプ氏はまた、NATO会合に向かう途中、iPhone(アイフォーン)を手に夢中で投稿を続けていた。一連の書き込みは次第にエスカレートし、歓迎の準備を進めていたNATO関係者の間で次第に不安が高まった。

  トランプ氏はその中で、スペインをやり玉に挙げた。NATO加盟国の国防費をGDP比5%に引き上げる新目標に関して、同国のサンチェス首相が自国を対象外とすることで合意を取り付けていたことへの批判だ。

新たな現実

  別の投稿では、ルッテ氏からの個人的なメッセージをトランプ氏が一方的に公開した。あまりにへりくだった文面に、一部のNATO関係者は困惑を隠せなかった。それでも、新たな現実として露骨な称賛こそが今や欧州の指導者たちにとってトランプ氏に向き合う上での常套手段であり、外交戦略だとの認識が広がっている。たとえ、それが常に実を結ぶとは限らなくともだ。

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  NATO会合におけるルッテ氏のへつらいぶりは時に目を背けたくなるほどだった。トランプ氏がイランとイスラエルの停戦合意に導いた経緯について話すのを隣で聞いていたルッテ氏は、トランプ氏が停戦違反を非難する際に使った乱暴な表現に触れ、「パパは時には強い言葉を使わないといけないからね」と、笑いながら語った。

  ルッテ氏はこの他にも、出席者に冒頭発言を3分以内に収めるよう要請するなど対策を徹底した。トランプ氏は過去に会議を途中退席した前例があり、長時間の会合や形式張った場を好まないためだ。一方、トランプ氏には発言時間の制限は設けられず、8分間にわたり自由に話した。

  巨大な円卓が設けられた会場で、トランプ氏の隣にはスターマー英首相が座っていた。スターマー氏も、トランプ氏が王室に弱いことを理解しており、首脳会談でチャールズ英国王からの招待状を直接手渡している。 

冷たい仕打ち

  ある防衛当局者は、スペインは非難されて当然だったと述べた。誰もが仕方なく防衛費増額を受け入れており、NATO内で最も国防費の少ないスペインに対して複数の加盟国が不満を募らせているという。

  そのため、スペインのサンチェス首相は冷遇という形で罰を受けた。集合写真では枠外に追いやられ、晩餐会ではトランプ氏から最も離れた席に配置された。到着時にはルッテ首相から冷ややかな握手を交わされたという。

  しかし最大の一撃は首脳会議後のトランプ氏による記者会見で下された。「支払っていないのはあなただけだ」とトランプ氏はスペインを名指しで批判。関税を通じて「2倍支払わせる」と警告し、「こちらで帳尻を合わせる」と述べた。

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トランプ氏を中心とする集合写真でサンチェス首相は脇に追いやられた

  トランプ氏にとって最大のハイライトは、オランダ王室との交流だった。「美しい人たちだ。まさに王室にふさわしい」と感想を語っている。

  オランダ王室が今回のサミットで、単なる脇役以上の役割を果たしたことは間違いない。

原題:Royal Pomp and Political Flattery Help Sway Trump on NATO Unity(抜粋)

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