中国のレアアース輸出規制強化、半導体や防衛など広範な影響に警戒感

ホルミウム、ユウロピウム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム。こうしたレアアース(希土類)の名前は、投資の教科書にはほとんど登場しない。だが今や、ウォール街の辞書に欠かせない存在となりつつある。

  レアアースは、高性能兵器や最先端の半導体、ハイテク自動車の製造に使用されている材料だ。世界のレアアース採掘の約70%、精製の約90%を支配する中国が、これらの資源へのアクセスを制限している。

  投資家にとって影響は広範囲に及ぶ。米国を中心に各国は、中国以外の鉱山会社への投資を通じてレアアースの確保に奔走。ASMLホールディングやフォード・モーター、現代自動車などのエンドユーザーは、供給を確保するか、レアアースを使わない技術への転換を迫られるだろう。わずか一つの素材が欠けても、生産ライン全体が停滞する恐れがあるため、影響は甚大だ。

  4月に中国が7種類のレアアース輸出を制限した際には、自動車メーカーの一部で生産が滞った。より広範な規制が12月にも発効すれば、市場に一層大きく影響が及ぶ。バークレイズのテーマ投資アナリスト、キャサリン・オグンディヤ氏は「輸出規制の対象となるレアアースの数が増えることで、より多くの産業に影響が及ぶ公算が大きい」と述べた。

  問題は、より多くの金属が規制の対象となるだけでなく、規制対象となる製品の数が急増していることだ。これに伴いレアアース採掘・加工業者の株式が積極的に買われ、その多くは株価が年初来で3倍に上昇した。

  一方、レアアースを使用する企業の株価の反応はこれまでのところ控えめで、市場では、中国が新たな規制を交渉の切り札に使っているとの見方もある。トランプ米大統領は17日、対中発言のトーンをやや和らげた。ただ、両国間の緊張が収まる兆しは乏しく、用意周到なトレーダーらは、規制が発効した場合の展開を想定し始めている。

  投資家が注視すべき主なセクターと企業は次の通り。

採掘業

  中国以外でレアアースを採掘できる企業の株価は急騰している。オーストラリアのライナス・レアアースは年初来で株価がほぼ3倍となった。

   米MPマテリアルズの株価は、米政府の出資決定後に生産能力拡大期待から150%余り上昇。カナダのクリティカル・メタルズはグリーンランドでの鉱床開発を進めており、米政府が出資を検討しているとの報道を受けて株価が急伸した。ただ、トランプ政権はその後、報道内容を否定した。

半導体

  人工知能(AI)ブームで世界の株価指数の最重要プレーヤーとなっている半導体企業にとって、レアアースは生産に不可欠だ。セリウムを含む研磨液はウエハー製造工程で使用され、イットリウムのコーティングは装置部品を腐食から守る。ランタンは光学システムに添加される。

   これらのほとんどの供給を中国が支配しており、半導体製造装置メーカーのボトルネックとなる恐れがあると、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストらは指摘する。

  レアアースが半導体生産コストに占める割合はごくわずかだが、「供給が止まれば打撃は大きい」とCRUグループのプリンシパルコンサルタント、ウィリス・トーマス氏は話す。

   影響を受け得る企業として、アプライド・マテリアルズ、東京エレクトロン、ASMインターナショナル、ラムリサーチなどが挙げられる。

防衛

  兵器やドローン(無人機)の製造にもレアアースは不可欠だ。ロッキード・マーチン製の戦闘機F35には約900ポンド(約410キログラム)のレアアースが使われている。ゼネラル・ダイナミクスとハンティントン・インガルス・インダストリーズが製造するバージニア級の原子力潜水艦では約9200ポンドを要する。1基のドローンモーターにもレアアースで作られた12-60個の磁石が使われる。

   問題は、軍事用途のレアアース輸出が実質的に禁止された場合、これらの製造業者が生産に不可欠な鉱物を引き続き入手できるかどうかだ。mwbリサーチのイェンスペーター・リーク氏は「サプライヤーが1社しかないことも多いだけに数十万ユーロ相当の部品が調達できないだけで生産が止まる場合もある」と指摘した。

自動車

  ガソリン車や電気自動車(EV)のトラクションモーターやセンサー、ブレーキシステムなどの部品にレアアースは不可欠だ。

  中国の4月の規制を受け、フォードは5月にレアアース部品不足を理由にシカゴ工場の操業を一時停止した。モーニングスターのアナリスト、レラ・サスキン氏によると、BMWやルノーは一部モデルで、レアアース磁石を使用しないモーター技術を導入。テスラは23年に、将来のモデルでレアアース不使用を目指す計画を公表している。

  一方、調達先を中国以外に移す動きも進む。ゼネラル・モーターズ(GM)は8月、テキサス州のノビオン・マグネティクスとの契約を含め国内で3件のレアアース磁石契約を結んだ。

再生可能エネルギー

  風力タービンメーカーも、サプライチェーンの多様化を進めている。シーメンス・エナジーは6月、日本のTDKと磁石調達契約を締結。豪アラフラ・レアアースは、シーメンス・エナジーやGEベルノバにも供給している。

  ネオジムとジスプロシウムは風力発電産業にとって重要な二つの元素であり、貿易制限がなくても供給が需要に追いつかないリスクがあるとアナリストは警告している。

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原題:A Stock Trader’s Guide to Navigating China’s Curb on Rare Earths(抜粋)

— 取材協力 Sangmi Cha, Nasteho Said, Michael Msika, Marilen Martin, Martin Ritchie, Yiqin Shen, Kelly Li, Lin Zhu and Alex Gabriel Simon

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