特集 - 株探ニュース
日経平均株価は9月に入り、4万5000円を突破して過去最高値を更新した。原動力となったのが、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測を追い風とした米国株の頑強な動きと、石破首相の退陣表明を受けて広がった財政出動期待である。有力候補の1人である高市氏は積極的な財政出動論者だ。昨年の総裁選で日銀の利上げに否定的な見解を示したことも、多くの投資家の記憶に焼き付いている。小泉氏は候補者のなかでは最年少ながら、圧倒的な知名度を誇る。推薦人には加藤勝信財務相が加わり、河野太郎前デジタル相も支持に回った。
総裁選にはほかに、小林鷹之元経済安保相、林芳正官房長官、茂木敏充前幹事長も出馬しているが、報道各社の調査をみる限り、高市氏と小泉氏の一騎打ちの様相を呈している。キングメーカーの動きを追うと、菅義偉副総裁が小泉氏の支持に回った一方で、麻生太郎最高顧問と岸田文雄前首相はギリギリまで情勢を見極めるものとみられており、麻生派や旧岸田派がどの候補を「勝ち馬」として支持に動くか、なお流動的な状況だ。旧来の自民党が備えてきた「派閥の力学」が結果に一定の影響をもたらすことが想定される。 新総裁の誕生後は、国会で首相指名選挙が行われ、これを受けて次期首相が誕生することになる。現状では野党側が首相候補を一本化することは困難とみられてはいるものの、可能性はゼロではなく、国民民主党の玉木雄一郎代表が次期首相となるシナリオも存在する。市場において「総裁選プレー」が繰り広げられた後は、首相指名選挙を巡る動向にも注視を迫られることになる。もっとも今回の候補者の顔ぶれとその主張を見る限り、これまでの自公政権の政策がガラリと変わることとなるとは考えにくい。防衛力の強化や国土強靱化、防災に関する政策についても粛々と進められると期待されている。これらを踏まえつつ、今回は小泉氏と高市氏の所信資料をもとに関連テーマと政策を掘り下げていく。まず小泉氏からみていく。
●小泉氏の経済政策と関連銘柄株式市場ではライドシェアの規制緩和の思惑から、ディー・エヌ・エー <2432> [東証P]やFIG <4392> [東証P]、大和自動車交通 <9082> [東証S]、Will Smart <175A> [東証G]などがすでに動意づいた。お膝元の横須賀に店舗を構えるさいか屋 <8254> [東証S]も進次郎関連銘柄として目先筋の投資対象とされている。小泉氏は今回、主張として前面に押し出してはいないが、解雇規制の見直しを訴えていた過去がある。人材紹介などに関連した銘柄については、好業績株を中心に物色意欲の高まった状態が続きそうだ。
大型株としてはリクルートホールディングス <6098> [東証P]に対して海外投資家の資金が流入する可能性が意識されるほか、転職サイト「ビズリーチ」のビジョナル <4194> [東証P]などが候補に挙がる。人材マッチング事業が順調に拡大しているクラウドソーシング国内首位のクラウドワークス <3900> [東証G]は株価に値頃感が出てきたほか、新卒領域とともに中途採用向けにも人材サービスを展開するワンキャリア <4377> [東証G]、フリーランスと企業間のマッチングプラットフォームを手掛けるランサーズ <4484> [東証G]、技術者派遣のナレルグループ <9163> [東証G]などが今期最高益を計画する。インソース <6200> [東証P]やSchoo <264A> [東証G]といったリスキリング関連にも物色対象が広がる可能性がある。
小泉氏は石破政権では農相としてコメ価格の高騰への対処に動くなど、存在感をアピールした。政策面では農林水産物の輸出拡大とともに、コメ農家へのセーフティーネットの整備を掲げている。コメの増産という文脈において農機大手のクボタ <6326> [東証P]に加え、PBRがなお1倍を下回っている井関農機 <6310> [東証P]に関心が向かうシナリオも存在する。
また、加藤財務相が推薦人となり、更に小泉氏陣営の選挙対策本部長を務めていることにも留意すべきだろう。小泉氏自身は金融政策に関する明確なメッセージをマーケットには発信していないものの、加藤氏はこれまで日銀が利上げに踏み切った際にその判断に理解を示している。高市氏が低金利環境にこだわりを持つ人物とみなされていることを踏まえると、小泉氏が総裁の座を射止めた際には、銀行株が好反応を示すことも想定しておく必要があるだろう。三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]などメガバンクとともに、預金獲得力を持つネット銀行の楽天銀行 <5838> [東証P]などにも注目したい。
加えて、小泉氏は日本維新の会との距離が比較的近い人物ともされており、「副首都構想」が前進に向かうとの思惑が広がることも予想される。副首都構想を主張する維新が大阪を本拠としてきたことに鑑みると狙い目に在阪ゼネコンが浮上することとなる。このうち奥村組 <1833> [東証P]や淺沼組 <1852> [東証P]、大末建設 <1814> [東証P]は配当利回りが4%台で、翌週29日の株価には配当落ちの影響が見込まれるものの、その際に押し目買いを集められるか注目される。
●高市氏の経済政策と関連銘柄小泉氏が個別具体的な政策論争に深入りを避け続け、党内から経験不足を再び指摘されることとなれば、高市氏は勝利に前進することとなる。株式市場において条件反射的な「高市トレード」の一環で選別物色されたのが、安全保障と科学技術振興に関連する銘柄だった。サイバーセキュリティーで代表銘柄となるFFRIセキュリティ <3692> [東証G]のほか、助川電気工業 <7711> [東証S]や東洋炭素 <5310> [東証P]をはじめとする核融合発電関連、QPS研究所 <5595> [東証G]やアストロスケールホールディングス <186A> [東証G]など宇宙開発関連などに買いが向かったほか、フィックスターズ <3687> [東証P]やエヌエフホールディングス <6864> [東証S]、HPCシステムズ <6597> [東証G]など量子コンピューター関連も動意づいた。
高市氏が所信発表で打ち出した経済政策は多岐にわたる。なかでも注目されているのが、所得税の一定額を所得に応じて控除し、課税額に対して控除額が上回った場合は現金を給付するという「給付付き税額控除」の制度設計への着手である。仮に実現した場合は、現役世代の消費活動にプラス効果をもたらすと期待される。経済安全保障の文脈では「ペロブスカイト(太陽電池)」や「全固体電池 」の単語が所信資料において複数回登場する。更に仔細にみていくと鳥獣被害対策、ベビーシッターや家事支援サービスの利用代金の一部税額控除、地下シェルター設置法の制定も掲げている。日本郵政 <6178> [東証P]の活性化という文言もある。
ペロブスカイト太陽電池では積水化学工業 <4204> [東証P]などが関連銘柄となるが、同電池向け超薄板ガラスとともに全固体ナトリウムイオン二次電池で事業拡大が期待される日本電気硝子 <5214> [東証P]は、業績が回復基調でPBRは0.8倍にとどまる。グローバルニッチトップ銘柄としても位置付けられるセパレーターのニッポン高度紙工業 <3891> [東証S]は全固体電池用支持体にも製品群を展開する。
ベビーシッターの派遣事業を手掛けるポピンズ <7358> [東証S]や家事代行サービスのCaSy <9215> [東証G]、猟銃のミロク <7983> [東証S]に加え、放射線を遮蔽する機能を持つタングステンの加工に携わる日本タングステン <6998> [東証S]、地下シェルターに活用できるインプラント工法の活躍が期待される技研ホールディングス <1443> [東証S]、シェルター付き住宅を取り扱う企業としてサンヨーホームズ <1420> [東証S]なども、投資候補に浮上することになりそうだ。
高市氏は24日の公開討論会で、日銀の金融政策について「経済・金融政策の方向性を決める責任は政府にある」としたうえで「金融政策の手段は日銀が決めるべきだというのが前提だ」と発言した。「金利を今、上げるのはアホやと思う」との昨年総裁選時の発言と比べると、表現は幾分マイルドになったが、高市新総裁が誕生した際には低金利環境が継続するといった思惑は、不動産関連株への買い意欲を喚起することになるはずだ。 半面、高市氏は消費減税の可能性について「選択肢を排除する気はない」とも発言している。「コロナ禍を受けた大盤振る舞いで世界的に政府債務が膨張するなか、日本国債の『格下げリスク』への警戒が強まれば、国内金利が急上昇する可能性が高い」(債券ストラテジスト)との声が聞かれるなかで、金利急上昇時の日本株の調整リスクには留意が必要だ。仮に高市氏が今後消費減税の可能性を明確に否定した際には、市場参加者には安心感をもたらすことになるに違いない。 株探ニュース