ノーベル賞受賞の天才が語る「データ収集のよくあるエラー」2タイプ(日経BOOKプラス)

仕事ではスケジュール管理や需要予測・予算の達成率など、日常生活では体重やお金のやりくりなど、「間違えた」「読みが甘かった…」ということはありませんか? データを見て決めたことでも「こんなはずじゃなかったのに」となることも珍しくありません。『THIRD MILLENNIUM THINKING アメリカ最高峰大学の人気講義 1000年古びない思考が身につく』(ソール・パールマッター、ジョン・キャンベル、ロバート・マクーン著/花塚恵訳/日経BP)から、ノーベル賞受賞の天才が考案し、UCバークレー、ハーバード大学、シカゴ大学、フンボルト大学をはじめとする欧米の最高峰の大学で学ばれている科学的思考法を紹介します。1回目は、2種類の測り間違いについて。 ●「我が家の5歳児は乗れる? 乗れない?」アトラクションと身長制限  この世に存在する物体とその特性が、一対一の関係だったらどんなにいいか! 世の中の人全員の身長が、3フィートちょうど(約91センチメートル)か5.5フィートちょうど(約168センチメートル)のどちらかに決まっていれば、ディズニーランドのチケットをオンラインで買って現地に向けて車を走らせる前に、我が家の5歳児がほとんどのアトラクションを利用できるかどうか簡単にわかる。  だが現実は、ディズニーランドに行きたくてたまらない我が子の身長を測定し、40インチ(約102センチメートル)以上という条件を満たしているかどうかを確かめる必要があるのだが、あなたの手元には、引き出しの奥に転がっていた古いメジャーしかない。子どもの身長は「アトラクションを利用できる規定の身長」にかなり近いことはわかったが、メジャーを押さえる手が小刻みに震える――測定にノイズが入る――たびに、規定に達していると思えたり、達していないと思えたりする。  あなたはそのうち、「何度か測って平均を出せばいいのではないか」と考え始める。そうすれば、手の震えによるノイズが相殺されるに違いない。しかし、そのときふと、このメジャーをポケットに入れたままズボンを洗濯した記憶がぼんやりとよみがえり、メジャーが縮んだのではないかと気になり始める(ズボンは間違いなく縮んだ!)。もしそうなら、測定して平均を出しても意味がないではないか。むむ……。 ●「物事を正しく測る」は意外に難しい  このやるせないエピソードを読んだところで、現実世界で「ノイズ」や「不確実性」に直面したときに役立つ概念を紹介しよう。  まず、「ノイズや不確実性が測定値に影響を及ぼすケースは2種類ある」と覚えてほしい。  ひとつは、測定値にランダムなばらつきが見受けられる(例:メジャーを押さえる手が小刻みに震える)ケースで、そういうときはそれらの平均を算出すればいい。  一方、そういうばらつきとは別に、系統的に一方向に測定値が追いやられるケースもある(例:洗濯して縮んだメジャーを使えば、“何度測っても”実際の数値より大きな値になる)。自らの確信度を定量化し、誤った印象を与えるランダムな値が生じる確率を認識できるようになりたいと思うなら、厄介などちらのケースにも対処できるようになる必要がある。  そのための言葉や手段を与えてくれるのが科学だ。というより、そういう多種多様なノイズや不確実性に対処する最善策の確立が重要な問題になったからこそ、科学のさまざまな分野で独自の専門用語が考案された。  用語はそれぞれ異なるが、その意味するところはほぼ同じだ。  ソールのような物理学者たちは、2種類のノイズの発生源のことを「統計的不確かさ」と「系統的不確かさ」と呼ぶが、ロバートのような社会心理学者たちになると、「信頼性」や「妥当性」といった呼び方をする。統計学の専門家は精度と正確度を区別し、より専門的に聞こえる「分散」や「偏り」といった名称を使うこともある(「偏り」は英語で「バイアス」となるが、「偏見」という意味と混同しないこと)。意味はほぼ同じでも、言葉によって微妙にニュアンスが異なるので(この点については後述する)、もうひとりの筆者で哲学者のジョンがそうした用語を使うときは、使いたい意味にもっとも適したものを選べばよい。

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