「イカロスの墜落」、驚くべき写真はどうやって撮影されたのか

太陽の表面に、落下する人物のシルエットが写り込んだ写真作品「イカロスの墜落」/Andrew McCarthy/cosmicbackground.io

(CNN) 米アリゾナ州最大の乾燥湖底、ウィルコックス・プラヤに立つ天体写真家アンドルー・マッカーシー氏は、貨物列車が轟音(ごうおん)を響かせて通り過ぎる中、気持ちを静めていた。準備に何カ月もかけたこのショットが、埃(ほこり)で霞(かす)んでしまう不安を抱きつつ。11月のある朝、取り囲む群衆は、緊張した静寂の中で状況を見守っていた。マッカーシー氏は完璧な一枚を撮ろうと試みるが、なかなかうまくいかない。この間、飛行機は上空を6回通過していた。

はるか上空の飛行機では、友人のガブリエル・C・ブラウンさんが座席の端に腰掛け、ジャンプの合図を待っていた。ブラウンさんによれば操縦士のスケジュールが空いているのはその朝だけ。太陽が高く昇りすぎる前に撮影するチャンスは、あと1回のみに限られていた。

ベストショットが撮れると確信したマッカーシー氏が、地上から秒読みを開始した。「3、2、1、ゴー!」

飛行機から飛び降りたブラウンさんは、iPhoneに接続されたヘッドセットを通してマッカーシー氏に尋ねた。「撮れたか?」

ついにマッカーシー氏はその瞬間を捉えた。ざらついた太陽の表面の前に、ひとりのシルエットが張り付いている。「完璧だった」「本当に特別なものを捉えたのだとすぐに分かった」(マッカーシー氏)

信じて飛び込む

子どもの頃、マッカーシー氏の部屋は宇宙にちなんだ装飾や玩具で一杯だった。7歳の時、裏庭にある望遠鏡で父親と一緒に土星と木星を眺めた。当時は自分が何を見ているのか完全には理解していなかったが、それでも夢中になったと振り返る。

大人になってからは天体写真の撮影にのめり込んだ。宇宙の驚異を写真に収め、拡散したい一心で、古いiPhoneを望遠鏡の接眼レンズに押し当ててはぼやけた写真を撮影した。しかし満足できず、部品を集めてカメラを望遠鏡に接続するためのアダプターを作成するなどした。

写真の出来はそれほど良くなかったが意欲は高まり、撮影を仕事にしようと決意。宇宙の驚異を他の人と共有することこそが自分の使命だと信じ、写真家の道に飛び込むことにした。

あり得ない画像を捉える

その後の6年間、マッカーシー氏はより複雑な計画を立てるようになる。太陽をバックに上昇するロケットの撮影を終えた後、新たな挑戦を模索し始めた。

スカイダイビングを初めて経験したことで、マッカーシー氏の次のプロジェクトが決まった。新たなアイデアを実現するため、スカイダイビングの熱心な愛好家であるブラウンさんとチームを組むことにした。

スカイダイビングと太陽を組み合わせる新たなプロジェクトは、当初ほとんど不可能に思えた。完璧なショットを撮るには太陽は低く、ジャンパーは高く、撮影者は双方がぴったり一直線に並んで見える位置に立たなければならなかった。

それでも撮影時、飛行機の操縦士は機体を太陽とカメラの間の完璧な位置に飛ばした。望遠鏡は鏡のように明るい太陽光を放ち、操縦士に自分たちが一直線に結ばれたことを知らせた。

作品名は「イカロスの墜落」

マッカーシー氏にとって、「イカロスの墜落」という作品名は悲劇ではなく、人間の小ささと比較したときの自然の力強さを象徴する。同氏によれば太陽は、人間が制御できない力の完璧な例だ。人間が何をしようと関係なく、太陽は燃え続けるのだから。

イカロスの伝説とは、父ダイダロスと共に羽根と蝋(ろう)でできた翼で飛び立ち、幽閉から逃れた若者の物語だ。飛び立つ前、ダイダロスは息子に、高く飛びすぎると太陽の熱で蝋が溶けてしまうと警告。低く飛びすぎても波しぶきで羽根が湿って重くなり、飛べなくなると注意を促した。

だが舞い上がる翼の力に圧倒されたイカロスは、警告を無視してどんどん高度を上げてしまう。やがて太陽の熱で蝋は溶け、イカロスは海へと落下する。この神話は、人間の持つ野心とその能力の限界を象徴するものとして語り継がれている。今回の写真についてブラウンさんは、「人間の偉業の証しであると同時に、傲慢(ごうまん)さの証しでもある」と述べている。

一方マッカーシー氏は、写真を見た人が何を思うかはその人の感性に委ねる考えを示唆した。

AIではないことを証明

以前のプロジェクトでマッカーシー氏と共に仕事をした天体写真家のコナー・マザーン氏は、公開された今回の写真を「まさに限界に挑戦している」と称賛。マッカーシー氏の作品は天体写真家のハードルを引き上げ、不可能と思えることに挑む人々を鼓舞するものだと言い添えた。

しかしマッカーシー氏によると、自身の写真に関するオンライン上の議論の多くは、その信憑(しんぴょう)性を疑問視するものだったという。人工知能(AI)と高度な編集ツールが台頭する中、これは多くの天体写真家が直面している課題だ。

世間の懐疑的な見方を予想していたマッカーシー氏は、事前の準備や撮影時の様子を捉えた舞台裏の映像を作成していた。また、画像スタッキングを用いたポストプロダクション作業の詳細も公開した。この作業では太陽の特徴を鮮明にし、ノイズを低減するために、数千枚の画像を合成・調整している。

「40時間もかけて撮影した写真が偽物だと思われてしまうと、腹立たしく感じることもある」と、マザーン氏は話す。それでもマザーン氏とマッカーシー氏にとって、宇宙の隠れた美しさが明らかになる真の瞬間を捉え、人々と共有することは大きな喜びに他ならない。

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