コラム:AI投資バブル、「3つのジレンマ」で膨らむ一方
[ロンドン 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ハイテク各社は、人工知能(AI)開発に総額数兆ドルを投資する計画を立てている。投資が1ドル増えるごとに株式時価総額はますます膨らむが、投資ラッシュがプラスの資本リターンを生む可能性は低い。ただ、それは問題の本質ではない。企業と投資家はバブルの中に閉じ込められており、その多くにとってそこから逃れるすべはない。
アポロ・グローバル・マネジメントによると、AI投資の急増によって第1・四半期の米国内総生産(GDP)成長率は1%ポイント押し上げられた。ハイテク企業の投資は始まったばかりだ。
コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの「グローバル・テクノロジー・レポート」最新版によると、今後10年間の米国における設備投資は年間約5000億ドルに達する見通しだが、これは比較的控えめな推計だ。モルガン・スタンレーは、2029年までに米国のデータセンターへの投資が累計3兆ドルに達するとみている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの推計では、その額は2030年までに5兆ドルを超える。
この投資ラッシュを正当化するのに必要なAI関連収入のレベルについても、推計額には同じく大きな幅がある。
データセンターに設置される高価な画像処理装置(GPU)の寿命は短いため、迅速な投資回収が必要だ。ベインの推計では、2030年までにAI収入は約2兆ドル増える必要がある。マラソン・アセット・マネジメントのチャールズ・カーター氏は、モルガン・スタンレーの投資推計額3兆ドルを前提にすると、資本コストの回収には同規模の年間AI売上高が必要になると試算している。
しかしながら、3兆ドルとは現在の米GDPの10分の1に相当し、シティが推計する今年のAI収入の70倍だ。
ハイテク企業の経営者らは、AIが新たな黄金時代を招来して生産性と利益を向上させると主張している。しかし今のところ、その誇大宣伝を裏付ける証拠は乏しい。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の最近の報告書によると、AIを経営に組み込んだ企業の95%は、まだ投資利益を一切得られていない。調査対象となった9セクター中、メディアとハイテクのみが大きな構造変化を経験していた。報告書によると、これは努力不足が原因ではなく、「導入率は高いが、破壊的影響は小さい」のだ。
MITによれば、問題は、生成AIシステムがフィードバックを蓄積せず、文脈に適応せず、時間とともに改善しない点にある。重要な使命を帯びた業務に際しては、大多数の企業が依然としてAIよりも人間に頼っている。従業員は、メールの閲覧など比較的日常的な業務にチャットボットの個人アカウントを利用しているのが実態だ。
赤字経営のオープンAIの収入は急増しているが、これは投資を正当化するものではない。チャットGPTを利用する約8億人のうち、有料サービスを利用しているのは2%未満であり、しかもインドなど低所得国に住む利用者が増えている。
ではなぜ企業は、極めて投機的で赤字を出す可能性のある投資に数兆ドルを投じ続けるのか。カーター氏は、AIがビッグテック企業に「イノベーターのジレンマ」をもたらすと指摘する。「競争の堀」に囲まれて極めて高い収益性を誇ってきたビジネスモデルであっても、ある段階で新技術がその堀を浸食する危険性があるのだ。
またクラウドコンピューティング企業は古典的な「囚人のジレンマ」にも直面している。ある企業が投資しなければ、投資を進める競合他社に顧客を奪われるリスクがある。通信ブームが起こった1990年代後半、欧州の携帯電話事業者も同様のジレンマに陥り、英国などで実施された3G周波数入札で巨額の過剰支出を行うはめになった。
複数の大手ハイテク企業経営者が、このジレンマを公に認めている。グーグルの親会社アルファベットのサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は昨年、「われわれにとって過小投資のリスクは過剰投資のリスクをはるかに上回る」と述べた。メタのマーク・ザッカーバーグCEOも最近のインタビューでほぼ同様の見解を示した。「仮に数千億ドルを無駄遣いする結果になったとしても――それは残念なことには違いないが(中略)より大きなリスクは逆側にあると思う」。
投資家もジレンマに直面している。
プロの投資家は、25年前のTMTブーム時の先達と似た立場にある。バブルに参加しなければ極端なアンダーパフォームに陥り、顧客を失うリスクがある。しかし群れに追随すれば、いつ訪れるか不確かな将来のある時点で多大な損失を被りかねない。マラソン・インベストメンツのカーター氏は「少なくともアクティブ投資家にとってはジレンマだ。パッシブ投資家はと言えば、ただの囚人だ」と語った。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Edward Chancellor is a Breakingviews contributor.