ウクライナ人富豪の爆殺未遂が発生、崩れたモナコの「安全神話」 2平方キロに警官556人
6月29日夜にモナコの住宅で爆発が発生した後、規制線の背後に停車するパトカー/Valery Hache/AFP/Getty Images
(CNN) 地球上で最も安全な国の一つとされてきたモナコの評判は、先月29日の午後9時前、国内有数の高級マンションの玄関口で爆弾が爆発したことで打ち砕かれた。
爆弾は、この建物の住人であるウクライナ出身のオリガルヒ(大富豪)、バディム・イエルモライエフ氏(58)が通りに出た瞬間に爆発した。同氏は重傷を負った。厳重な監視体制が敷かれているモナコの路上で記録された史上初の爆弾による暗殺未遂事件では、女性1人と13歳の子どもも重傷を負った。
2005年からモナコ元首を務めるアルベール2世公は、この爆発事件を「忌まわしい行為」と表現し、モナコの警察官と治安当局を動員して襲撃犯の捜索に当たらせるとともに、富裕層の住民を安心させるために、すでに頻繁に行われている警察の路上パトロールの強化を命じた。
警察は「計画的殺人未遂および公共の場所への爆発物設置」の疑いで捜査を開始した。
モナコのミルマン国務相は「公国の歴史上、このような行為が起きたのは初めてだ」と述べ、防犯カメラの映像から、容疑者が「被害者を待ちながら、周辺を何度も歩き回っていた」ことが分かっていると明らかにした。
三方をフランスに囲まれ、もう一方を地中海に面したこの小さなタックスヘイブン(租税回避地)の都市国家モナコは、その高い安全と治安を誇りとしている。
モナコ警察によると、昨年は殺人事件だけでなく、殺人未遂事件すら発生していなかった。これに対し、米疾病対策センター(CDC)によると、米国では2万件以上の殺人事件が発生しており、1日平均55件に上った。
武装強盗事件も発生しなかった。一方で、犯罪全体の認知件数は過去最多の1055件を記録。それでも1日平均3件未満で、そのうち38%は過失傷害、名誉毀損(きそん)、器物損壊、軽微な窃盗、詐欺などの軽犯罪に分類されるものだった。
モナコで犯罪が少ないのは、地球上で最も警察の監視が行き届いている場所の一つだからである。わずか485エーカー(約1.96平方キロ)の広さのモナコには556人の警察官がおり、バチカン市国に次いで世界で2番目に小さなこの独立国は、ニューヨークのセントラルパーク(843エーカー)の半分強の大きさにすぎない。
モナコ統計経済研究所によると、人口は3万8857人で、住民70人につき警察官1人が配置されている計算になる。
米国では、およそ400人に警察官1人の割合だが、州や都市によって大きく異なる。最も警察官の配置が手厚い首都ワシントンでは、185人に対して警察官1人。英国では425人に対して1人となっている。
警察に加えて、モナコには「大公銃騎兵中隊」と呼ばれる精鋭軍人125人がおり、大公とその家族の警護を担っている。
モナコにはまた、1387台の防犯カメラと顔認識カメラのネットワークがあり、「作戦指揮・監視センター」では24時間体制で監視が行われている。無作為の職務質問も日常的に実施され、昨年は13万4000件以上が行われた。
政府は現在、フランスとの北部国境沿いの警備強化に巨額の費用を投じている。モナコと隣接するフランスの町ボーソレイユの間には物理的な障壁がなく、気づかないうちに両国の間を歩いて行き来していることもありうる。
レベラン・ペール・ルイ・フローラ通りにある、1920年代に建てられたクリーム色のマンション「サンズ・パレス」で起きた爆破事件の容疑者は、通りを歩いてフランスに入っていく様子が防犯カメラに捉えられていた。モナコとフランスの警察が共同で捜索を行っていたが、容疑者はウクライナ内で死亡しているのが発見された。
モナコ政府は、多くの富裕層や著名人が同国への移住を選んだ主な理由として、「類を見ない水準の治安の良さ」を挙げている。モナコに居を構える著名人には、F1ドライバーのルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトン、マックス・フェルスタッペン、テニス選手のノバク・ジョコビッチやビョルン・ボルグのほか、ビートルズのドラマー、リンゴ・スター、歌手のシャーリー・バッシーらがいる。
1989年からモナコに居住しているスーパーヨット建造会社「エドミストン・アンド・カンパニー」の創業者で会長のニック・エドミストン氏は、安全で安心だと感じられることこそが、モナコを特別なものにしていると語った。
「高価な宝飾品を身につけて歩いても、安全だと感じられる」と同氏は述べ、「富裕層の多くは常にボディーガードに囲まれていることに慣れているが、モナコではその必要がない」と語った。
不動産仲介企業ナイトフランクの調査によると、モナコの住民100人のうち約35人がミリオネア(百万長者)である。
彼らを引きつけているのは治安だけではない。同国の税制も魅力となっている。所得、富、資産、キャピタルゲイン(売買差益)には課税されない。モナコで設立された企業も、事業の大半が公国内で行われていれば課税を免除される。公国内で適用される唯一の税は付加価値税(VAT)で、多くの品目に20%が課される。
居住権を申請する場合、モナコの銀行口座を開設し、少なくとも50万ユーロ(約9000万円)を預け入れる必要がある。