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ところがかつて、この放牧が極めて大規模かつ長期的に行われたと思われる場所がある。アフリカ北西部のサハラ砂漠だ。タッシリ・ナジェールの壁画などから、かつてこの地域には広大な放牧地と大量の家畜が存在したことがわかっている。その規模があまりに大きかったため、土壌からの持ち去りは「収奪」というレベルに達し、有機物だけが集中的に失われたのである。

タッシリ・ナジェールに残された壁画 photo by gettyimages

有機物と無機物の混合物である土壌から有機物だけが収奪された結果、砂漠化が進行した。これはもはや遷移の停止ではなく、“逆行” である。失われた草原の大きさを考えると、おそらくこれは人類史上最大の環境破壊だったのではないだろうか。

じつは、農業も同様の危険をはらんでいる。なぜ農地が砂漠にならないかというと、それは収奪した有機物の養分を化学肥料の投入によって補っているからだ。土壌は存続しているが、その内容は人工的なものに置き換わっている。

したがって農地が放棄され、肥料の投入が止まれば、サハラのような中緯度高圧帯の気象条件下では、やはり砂漠化の運命が待っている。

タンザニア・セレンゲティの畑地。中緯度高圧帯の気象条件下では、農地が放棄され、肥料の投入が止まれば、砂漠化の運命が待っている photo by gettyimages

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このように、遷移は、人の手によって環境を維持さる方向に止められる一方、同じ人の手によって逆行させられる事態にもなりえます。

そうした、生態系を育む環境のうち、森と海を中心にして、その視点から生態学を見ていきたいと思います。

*次回は7月5日(土)公開予定です。

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