米良美一「くも膜下出血」で死の一歩手前。“記憶なし”緊急搬送の真相(メディカルドック)
嘉山先生: 現在の体調はいかがですか? 米良さん: くも膜下出血による体調不良や日常生活での困りごとは、今はまったくありません。私は先天性骨形成不全症という指定難病を持っており、子どもの頃は骨折を繰り返していました。骨がもろく、関節の可動域にも制限があるので、今も転倒や衝撃による骨折リスクに注意しながら生活しています。 嘉山先生: 発症当時はどのような状況でしたか? 覚えていることや周囲から聞いたことがあれば教えてください。 米良さん: 2015年12月、鹿児島での講演途中から記憶が途切れていますが、講演の翌日午後、マネージャーが自宅の廊下で倒れている私を発見したと聞いています。意識はあるのに言葉が出ず、動けない状態だったそうです。その後救急搬送され、5段階グレードのうち4番目のくも膜下出血と診断されました。脳動脈瘤が3つあり、そのうち1つが破裂していたそうです。くも膜下出血とは一般的にどのような病気なのでしょうか? 嘉山先生: くも膜下出血の約8〜9割は脳動脈瘤(血管のこぶ)の破裂が原因です。そのほか、外傷や脳動静脈奇形、もやもや病などによっても起こります。発症の頻度は約5000人に1人で突然強い頭痛を伴って発症するのが特徴です。最初の出血で約3割が死亡し、さらに3割が重い後遺症を残すと言われています。回復される方は4割ほどと非常に厳しい病気です。40〜50代の女性に多く家族歴や遺伝的な要因が関係することもあります。 米良さん: そんなに危険な病気なのですね。発症の前兆のようなサインはあるのでしょうか? 嘉山先生: 前兆としては突然の激しい頭痛が最も多いと言われています。そのほか、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、視野の欠損など目の異常もあります。いずれも突然起きたという点がポイントです。当時、米良さんは救急搬送から手術に至るまでどのような経過だったと聞いていますか? 米良さん: 発症から約14時間後に緊急手術を受けたと聞いています。搬送先の病院で非常に危険な状態だと判断され、開頭クリッピング術という手術をおこないました。くも膜下出血では一般的にどのような手術がおこなわれるのでしょうか? 嘉山先生: 治療には主に2つの方法があります。一つは米良さんが受けられた開頭クリッピング術で、頭蓋骨を開けて動脈瘤の根元を金属クリップで挟み、再出血を防ぐ方法です。もう一つはコイル塞栓術と呼ばれ、カテーテルで脳血管に細い金属コイルを入れて、内側から血流を止める方法です。どちらを選ぶかは、動脈瘤の形や場所、年齢などをもとに医師が判断します。手術後の経過については覚えていますか? 米良さん: 私は合計3回の手術を受けました。1回目は発症直後の緊急手術、2回目は水頭症の発症に対する手術、3回目は発症から1年後に最初止めたクリップが動いて外れていたため、コイル塞栓術で再治療をおこないました。くも膜下出血は時間との戦いだと思うのですが、発症から手術までのタイムリミットや再出血について教えてください。 嘉山先生: 一度出血すると、多くは血のかたまり(血栓)ができて一時的に止まっているだけの状態になります。そのため、24時間以内に再出血を起こす危険性があり、再出血を1回でも起こすと死亡率は約50%、2回起こすと約80%以上に上がります。だからこそ、できるだけ早く手術で処置する必要があるのです。また、発症から4日〜2週間ほど経つと脳の血管が細くなる脳血管攣縮が起こることがあります。血流が悪くなり脳梗塞のようなダメージを残すこともあります。 米良さん: とても怖い病気ですね。私の母は50代でくも膜下出血を発症しており、同じ病気を患った人が多い家系のようです。私自身も脳の血管の分岐が1本足りない奇形を指摘されていました。 嘉山先生: 脳動脈瘤は殆どが血管の分かれ目にでき、家族歴は重要なリスク要因です。ご親族にくも膜下出血を発症された方がいる場合、脳ドックやMRI検査で早めにチェックすることを強くおすすめします。 米良さん: 最後に、くも膜下出血と脳梗塞、脳出血の違いについて教えてください。 嘉山先生: 脳の血管が関わる病気は脳卒中という総称で呼ばれ、主に3つに分けられます。脳梗塞は血管が詰まって脳に血が流れなくなる病気で、発症から4時間半以内の治療がカギになります。脳出血は脳の中で血管が破れ、血のかたまりができる状態で、内視鏡などで血を取り除くこともあります。くも膜下出血は脳の外側(くも膜下腔)に出血が起こる病気で再出血の防止と合併症の管理が最も重要です。