火星に生命跡か 宇宙の謎を解明する科学探査
地球の生き物は広大な宇宙の中で孤独な存在なのか。それとも、生命は宇宙に満ちあふれているのか。こうした根源的な謎への答えに一歩近づく研究成果だと言える。
米航空宇宙局(NASA)が今月10日、「火星の岩石から、生命の痕跡を見つけた可能性がある」と発表した。NASAの無人探査車「パーシビアランス」が火星で採取した試料から、リン酸鉄や硫化鉄などを見つけた。
これらの鉱物は通常、微生物の代謝に伴って生じるとされている。火星に生命が存在したことを示唆する重要な発見である。
現在、火星表面は砂漠のように乾燥した世界だが、発見場所は数十億年前、湖の入り江だったとみられている。泥の中で微生物が繁殖し、その太古の痕跡を無人探査車が長い年月を経て発見したとすれば感慨深い。
ただ、これらの鉱物は、高温の条件下で生命とは関係なく生じる可能性もある。今後、微生物に起因するものだと確定できるかどうかが焦点となる。
結論を出すには、試料を地上の施設で詳しく分析しなければならない。NASAは当初、探査車が回収した試料を地球に帰還させる計画だった。
しかし、トランプ米政権はNASAの予算を大幅に削減する方針を打ち出している。火星の試料回収を含め、多くの科学探査が中止に追い込まれる可能性が高い。
一方、米国では、スペースXなどの新興企業が月や火星の有人探査を目指す動きが活発化している。民間の技術力も活用し、火星からの試料回収を実現する方法を模索してもらいたい。
日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、無人探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」で小惑星の試料を地球に持ち帰ることに成功し、世界から注目された。
2026年度には、無人探査機で火星の衛星フォボスから試料を持ち帰る「MMX計画」を始める。フォボスには火星から飛散した 塵 ( ちり ) が積もっているとみられ、火星生命の謎の解明に貢献するチャンスになるのではないか。
もし生物が火星でも誕生していたことが確認されれば、生命は地球に限って生まれた特殊な存在ではなくなる。
近年、宇宙開発では、商業活動や安全保障などの観点が重視されてきた。しかし、宇宙や生命の来歴を解き明かすという、より大きな視点からの科学探査を進めることも大切だろう。