「明らかでないこと」 を明らかにする トークセッション 「研究とは?」

このトークセッションのテーマは、「研究とは?」。明らかになっていないことを科学的に明らかにする 「研究」 について、その面白さと難しさ、そしてその未来について議論を交わすセッションだ。 【写真】慶應SDM神武研究室 「オープンラボ2025」 の会場の様子など セッションの冒頭、自らモデレーターを務めた神武直彦教授は 「大学院、とりわけSDMは “研究できる” 恵まれた環境。では研究の本質や面白さ、難しさはどこにあるのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います」 と切り出した。登壇者は現役の博士学生の駒木亮伯さん、今年3月に博士号を取得した千田健太さん、そして博士取得から3年半、今は特任教員として活動する田中ウルヴェ京さん。偶然にも五輪メダリストが二人並んだステージに、神武教授は 「メダリストの方に研究指導をしていると “もしかしたら自分もメダルを取れるんじゃないか?” と不思議な錯覚を覚えたことを思い出しました」 と会場を笑わせた。 最初の自己紹介は、イギリスからオンラインで参加した駒木さん。専門はシステム思考やシステムダイナミクスと呼ばれる手法で、環境・社会を横断する 「世界モデル」 やサステナビリティといった分野を中心に研究を進めている。「現在はイギリスとドイツを行き来しながら、システム思考を片手に “人々の関心事は何か” を探り、さまざまな人々と交流しています。」 と各地に足を運ぶ。 たとえばコペンハーゲンの巨大ゴミ焼却炉 「コペンヒル」 では、都市のエネルギーインフラの屋上にスキー場を重ねた “遊び×都市機能” の両立を自身の目で確かめた。独・シュトゥットガルト大学の100m級実験水路 「フィジカルツイン」 では、実寸スケールで自然現象を検証する欧州の研究文化に触れた。さらに英国では 「ドーナツエコノミー」 のケイト・ラワース氏が演劇仕立てで自然観を問い直す会議にも参加。「思想と実装が行き来する現場に身を置き、問いの角度を増やしている」 と話す。 続く千田さんは、フェンシング元日本代表。約20年の競技キャリアののち、オリ・パラの強化支援に携わり 「エビデンスに基づく研究の重要性と素晴らしさ」 を痛感して博士課程の道へと飛び込んだ。専門はスポーツ・バイオメカニクスだ。研究の傍ら、車椅子フェンシングの指導にも立ち 「選手の体力や障害は一人ひとり違う。健常のセオリーをそのまま当てはめない “設計のやり直し” が要る」 と語る。自身も現役時代は体格で不利とされる側にいた。「だからこそ、動作技術を客観的に評価する手法を現場に戻したい」 と今日に至った経緯を語った。 三人目は1988年ソウル五輪アーティスティックスイミング (当時はシンクロナイズドスイミング) デュエット銅メダリストの田中ウルヴェ京さん。競技引退後、代表コーチをしていたが、 「シンクロを取ったら私は何者?」 と悩み、米大学院でスポーツ心理学を学び修士、起業、IOC委員とキャリアを重ねた。 そして40代後半で「結局私は誰か」と自問したという。複数の大学から “著名人だから論文も書かずに博士を” といったような甘言もあった中であえて神武研究室を選択したが、「最後の一年は“最悪”と思うほど苦しかった。でも自己決定だから登り切れた」 と当時を振り返る。 博士論文では、オリンピアンの引退直後に “本人が自分で着手できるワーク” を設け、適切な支援につながる心理支援の枠組みを提示した。「終えてみて、あの苦しさが “本当の自信” に変わる感覚を知った」 と穏やかにほほ笑んだ。

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