高市氏発言、イメージ先行? 「政策転換」「国論二分」曖昧な説明 「党総裁」「首相」も使い分け<イチから!検証>

 8日投開票の衆院選で、高市早苗首相(自民党総裁)は衆院解散の理由などを巡り「政策の大転換」「国論を二分」など印象に残る言葉を連呼する。ただ何をどう転換したのか、国論二分とは何を指すのか、など矛盾や不安を感じる人も少なくない。首相の言葉にしっかりと耳を傾け、その真否や真意を検証した。  「重要な政策転換について審判を仰ぐ」。首相は1月19日の記者会見で解散理由をこう説明し「本丸は責任ある積極財政だ。これまでの行き過ぎた緊縮志向を高市内閣で終わらせる」と語った。日本が「行きすぎた緊縮財政」の呪縛にとらわれていたとも主張。公示後の第一声でも「高市内閣の政策はガラッと変わった」と転換を強調した。 ■予算は拡張続く  だが日本は本当に緊縮財政だったのか。高齢化に伴う社会保障費増加のほか、岸田文雄政権が「国内総生産(GDP)比2%」と決めた防衛費の大幅増額、金利上昇に伴う国債の利払い費膨張などで、当初予算は「過去最大」を更新し続けているのが実態だ。特に新型コロナウイルス禍以降は、毎年10兆円以上の補正予算も編成している。  一方で歳出を裏付けるはずの税収は追いつかず、普通国債残高は25年度末に1129兆円に上る見込み。財務省幹部は「補正も規模が膨らみすぎ、それが当たり前になった。モルヒネみたいなもので、拡張をやめられなくなっている」と語る。  近年の岸田、石破、高市政権はいずれも「経済あっての財政」を強調し巨額の補正予算などで「規模ありき」と批判を受けた。高市首相は何をもって「政策転換」と主張するのか、比較の対象も転換の具体的な内容も説明は乏しく、イメージを強調している形だ。  首相が「イメージ」をアピールする言葉は他にもある。19日の会見では「国論を二分するような大胆な政策」に挑戦する意欲を何度も表明した。  ただ、具体的な「国論二分」政策については「安保政策の抜本強化やインテリジェンス機能の強化など」と曖昧な表現にとどめた。会見全体の内容や、自民と日本維新の会との連立合意書を踏まえると、安保3文書の抜本改定や防衛費のさらなる増額、スパイ防止法制定などを念頭に置くとみられるが、「国論二分」政策と直接的に結びつけて説明していない。 ■自民重鎮も困惑  交流サイト(SNS)では「具体的に何のこと?」「憲法改正?」「何するつもりなのよ…不安」と発言の真意を探る投稿も拡散した。自民重鎮は困惑する。「強い言葉で印象だけ植えつけ、具体策はこれから。この選挙は『白紙委任』か。こんなの許されるのか」  首相は政策への姿勢や方針を問われた際、複数の「主語」を使い分けることも多い。特に賛否が割れるテーマで目立つ。  例えば、自民党公約の目玉に掲げた2年間限定の「食料品の消費税ゼロ」について。26日の公開討論会で実施時期を追及され、「自民党総裁としては、国民会議で検討を加速させる」「首相としては、26年度内を目指したい」と答えた。「首相としては言えても、自民党としては言えない。そんなの公約か」(中道改革連合・野田佳彦共同代表)と追及され、現在は街頭演説などで消費税に関する言及は乏しい。  核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とした非核三原則の見直し論でも「政府としては政策の方針として堅持している」としつつ、「私一人が予断を持っては答えられない」と言及した。  「高市政権の信を問う」と首相は言う。だが首相、自民党総裁、政府、私…。有権者は、どの主語の発言を重視し、判断すれば良いのだろうか。 ■感情への訴え重視 法政大・上西充子教授に聞く  高市早苗首相の言葉にはどんな特徴があるのか。論点をずらしたり、すり替えたりする政治家の話法を「ご飯論法」と問題提起した法政大の上西充子教授に聞いた。 ◇◇◇  首相の語り口はさまざまなパターンがある。「働いて働いて働いて」「悲願」と意気込みを示したり、「進退を懸ける」とたんかを切ったり、「シカを蹴る、とんでもない人」と憤ったり、「自分で髪を染める」と親しみやすさを強調したり、笑顔を見せたり。  過剰な表現も多く、これらをまとめると「エモーショナル」と言える。「政策の転換」についても中身はあまり説明しないまま、「この意気込みを信じて任せてください」と受け手の感情に働きかけようとする。事実を示すより、感情に訴えることを重視している。  歴代首相は言葉に責任が伴うからこそ曖昧な言い方になりがちだ。安倍晋三元首相は「悪夢の民主党政権」と感情をあおることはあったが、「波風が立つことは慎重に隠した方が賢明」という判断もあり、官僚が用意した「ご飯論法」を原稿通り読むことも多かった。高市首相からは逆に、波風が立つことをバーンと言うと支持が集まる、という発想を感じる。その語り口を「分かりやすい」と感じる人もいる。  首相は経済安全保障担当相時代、放送法の「政治的公平」の解釈を巡る総務省文書を「捏造(ねつぞう)」と強弁した。矛盾や誤りを指摘されても何とかかわし、決定的ダメージを受けずにきた。  ただ首相として同じ振るまいで良いのか。現在、消費税減税を巡る発言でブレも見えるが、首相発言はより注目・検証される。合意形成が必要な局面を迎えた時に、真価が問われるのではないか。

北海道新聞
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