日本へのエネルギー輸送をつなぐ,フジャイラとソハール──タンカー33隻の航跡から|渡邉英徳研究室|渡邉英徳

9月19日 21:40 UTC,UAE東岸のフジャイラを,VLCC「EUROSPIRIT」が出航しました。AISに表示された目的地は「大分」。到着予定は10月9日です。

フジャイラを出航した「M/T EUROSPIRIT」

喫水は19.4mと表示されており,原油を積んで日本へ向かっているように見えます。航跡からは,沖合のSBM(一点係留ブイ)で積み込んだ可能性が考えられます。ただし,積載量や油種,実際の荷役設備の特定には,さらに確認が必要です。

沖合SBMを示す「M/T EUROSPIRIT」の航跡

同じ時点の追跡では,フジャイラから日本へ“直接”向かっているVLCCを,11隻確認できました。中東発・日本向けのすべてのタンカーは,マラッカ沖でのSTSに関係する船も含め,33隻です。そのうち,実に三分の一が「フジャイラ発・日本行きダイレクト輸送」ということになります。

フジャイラ発・日本行きの「ダイレクト輸送」のVLCCの現在位置

また,オマーンから日本に“直接”向かうタンカーも増えています。本稿執筆時点で「出光丸」を含む4隻のタンカーを確認できます。原油タンカー/LNGタンカーで,ミナ・アル・ファハルやソハール錨地を出航しています。

オマーン発・日本行きタンカー4隻の現在位置

これらの船の動きと最近の報道を重ねると,日本へのエネルギー輸送を支える拠点として,フジャイラと,その南に位置するオマーンの各港が浮かび上がります。いずれもホルムズ海峡の外側にありますが,それぞれが果たす役割には違いがあります。

陸上から原油を運び出せる,フジャイラの強み

フジャイラの重要性は,ホルムズ海峡の外側にあるという地理だけでは説明できません。アブダビの陸上油田から,パイプラインを通じて原油を送り込めることが,大きな強みです。

ADNOCの説明によると,同社は油田と輸出ターミナルをパイプラインで結び,フジャイラなどからムルバン原油を国際市場,とりわけアジアへ供給しています。陸上をパイプラインでバイパスするので,原油を積んだ船がホルムズ海峡を通過する必要がありません。

これまでの分析では,ホルムズ海峡をダーク化して通過する「シャトル船」からSTSで原油を受け取り,日本に運ぶ輸入ルートが活発であることを述べてきました。

しかし航跡を観測すると,現時点でオマーン湾付近を航行中のフジャイラ発・日本行きVLCC4隻のうち,STSを行なったのは「ASHOKA」のみで,「EUROSPIRIT」「C.CHALLENGER」「NEW ENTERPRISE」の3隻はフジャイラ港沖合のSBMによる積み込みと思われます。

SBMを示す「C.CHALLENGER」の航跡

つまり,IRGCによる攻撃リスクがある「シャトル船」に依存せず,安全なパイプラインで運んだ原油を,SBMで日本向けタンカーに直接積み込むオペレーションが活発化しつつあるのかも知れません。

ADNOCの原油調達にも変化がみられます。9月15日,ADNOCがイラク産原油を大量に購入し,ルワイス製油所で処理する一方,自社産原油の輸出を増やす方針だと報じられています。輸入した原油を国内で精製し,その分,自国の原油を海外へ振り向ける,ということです。この調整が,フジャイラを使った輸出を支えている可能性があります。

フジャイラから日本への原油輸送の活発化には,海峡を避けられる物流上の利点に加え,「シャトル船」からパイプラインへの比重の変化,供給側の調達・販売戦略の変化などが関わっていると考えられます。

ソハールは,海峡を通過した原油を受け渡す場所

ソハールでは,サウジアラビア産原油の積み替えが重要になっています。

9月18日,サウジアラムコが,9〜10月にソハールでのSTSを通じて積み込む原油を,約6,000万バレル販売したと報じられました。原油はペルシャ湾内のラスタヌラから運ばれ,中国・韓国のほか,日本やインドにも向かうとされています。

この輸送を具体的に示す船の一つが,VLCC「SINGAPORE PROSPERITY」です。8月19日の報道によると,同船はラスタヌラと近隣のジュアイマで原油を積み,ホルムズ海峡を通過してソハールへ向かいました。

ラスタヌラからソハールに至る「SINGAPORE PROSPERITY」の航跡

さらに,8月22日ごろには,ソハール沖で「XIN HUI YANG」へ原油を積み替えたと報じられています。同船の行き先は,中国の寧波でした。海峡内から原油を運び出す船と,その先の長距離輸送を担う船が,ソハールで貨物を受け渡していることが分かります。

ソハールから寧波に至る「XIN HUI YANG」の航跡

ここが,フジャイラのパイプライン経由輸出との違いです。フジャイラでは,陸上パイプラインによって原油をホルムズ海峡の外へ送り出せます。一方,ソハールで積み替えられるサウジ原油は,そこに到達するまでに,船で海峡を通過する必要があります。

従って,日本へ向かう船がソハールから出航していても,積み荷がオマーン産とは限りません。その船自身がホルムズ海峡に入っていなくても,原油は別の船によって海峡を通ってきた可能性があるからです。AISの最終出港地と,貨物の産地・輸送経路を分けて考える必要があります。

ソハールでの積み替えには,日本向けの船を海峡内へ入れずに輸送を組める利点がありますが,原油をソハールまで運ぶ区間の通航リスクは残ります。前章で述べたように,ホルムズ海峡を迂回できるメリットのあるフジャイラも,パイプラインそのものや積出設備への攻撃リスクを抱えています。

フジャイラは陸上から,ソハールは海峡を通過する船から,原油を受け取る。二つの拠点は,異なる経路と役割によって,海峡の外側からアジアへ向かう輸送を支えています。

紅海側の混乱と,アフリカを回る日本向けタンカー

サウジアラビアにとってソハールの役割が大きくなる背景には,サウジアラビアの紅海側輸出の不安定化があります。

9月10日には,東西パイプラインのポンプ施設が攻撃を受け,ヤンブーへの送油が停止しました。それ以前から,紅海南部の通航リスクを避けるため,原油を北のエジプト側へ運ぶ経路が使われていました。9月18日の分析は,地中海側へ出したアジア向け貨物が,喜望峰を回る長い航海を強いられる状況を説明しています。

今回のリストには,この迂回と整合する船が含まれています。

SEADUKE」「JULIUS CAESAR」「HELLAS PALIROS」は,いずれも最終出港地がエジプトのシディケリルで,目的地は四日市。例えば「HELLAS PALIROS」は,8月27日にシディケリルを出航し,到着予定は10月17日です。地中海 - アフリカ西岸 - 喜望峰を迂回する遠大な航路。予定どおりでも,出航から到着まで約7週間かかる計算です。

地中海・喜望峰を迂回する「HELLAS PALIROS」の航路

こうした遠回りルートと比べると,オマーン湾から直接インド洋へ出られるフジャイラとソハールの利点が,よりはっきりします。これらの港からは,地中海や喜望峰を経由することなく,「平時の最短ルート」で日本に向かえるのです。

マラッカ沖で,日本向けの船へ原油を受け渡す

長距離を迂回してきた原油の一部は,マラッカ沖で別の船に積み替えられ,日本へ向かいます。今回の33隻のリストには,この受け渡しを担う船も含まれています。

その代表例が,ENEOS系のVLCC「BRIGHT HORIZON」です。9月19日のMarineTraffic画面では,マラッカ沖で「FRONT EMPIRE」と横付けしている様子を確認できます。

マラッカ沖で横付けする「BRIGHT HORIZON」と「FRONT EMPIRE」

FRONT EMPIRE」の航跡をさかのぼると,エジプトからの長い旅が見えてきます。同船は8月6〜7日に,地中海側のシディケリル石油ターミナルに寄港。その後,地中海を抜けて,アフリカ西岸を南下。喜望峰を回り,インド洋を横断してマラッカ沖へ到達するまで,出航から約6週間を要しています。

シディケリルから喜望峰を経由してマラッカ沖へ到達した「FRONT EMPIRE」

シディケリルは,サウジアラビア産原油の代替積出港として使われています。報道によると,ヤンブーからエジプトの紅海側へ運んだ原油を,SUMEDパイプラインで地中海側へ送り,アジア向けには喜望峰を回る経路が組まれています。「FRONT EMPIRE」も,この経路でサウジアラビア産原油を運んだとみられます。

エジプトから喜望峰を回る長距離輸送と,マラッカ沖から日本への輸送を,別々の船が担っていますこの事例からは,積み替えを介して日本への供給をつなぐようすが見えてきます。中東発の原油は,ダイレクトに日本に運ばれるとは限りません。これまでも多くの事例で示されてきたように,マラッカ沖STS経由で運ばれることもあります。

このように,日本向け船の航跡に加えて,その船に原油を渡した相手の航跡まで追うことで,産出地から日本へ至る輸送経路を,より広く深く捉えることができます。

LNG・LPG輸入の状況は?

33隻のリストには,原油以外のエネルギーを運ぶ船も含まれています。

LNG船「AL TAWEELAH」は,ソハール錨地を9月14日に出航し,日本に向かっています。「DIAMOND GAS ORCHID」と「MINERVA CHIOS」は,オマーンのカルハットを出航しています。このうち「DIAMOND GAS ORCHID」の航跡をみると,オーストラリアから日本へ。そしてオマーンへ向かい,再び日本へ,というLNG輸送の途上にあることが分かります。

オーストラリア - 日本 - オマーン - 日本と運行する「DIAMOND GAS ORCHID」

オマーンから日本へのLNG供給は,平時から続いてきたものです。 Oman LNGの公表資料には,大阪ガス向けに,2000年から2024年まで,年間70万トンを供給する長期契約が記されています。さらに日本のJERAも,2025年から10年間,年間最大約80万トンを購入する基本合意を発表しています。

日本とオマーンの間には,長年にわたって築かれた調達関係があります。

その輸出拠点が,スール近郊のカルハットです。ここでは,オマーン中部のガス田群からパイプラインで運ばれた天然ガスを液化し,船積みしています。カルハットはホルムズ海峡の外側に位置するため,ここから日本へ向かうLNG船は,海峡を通過する必要がありません。

海峡の通航が制約されている状況では,既存の供給経路が持つ地理的な利点が,いっそう重要になると考えられます。ソハールでの原油積み替えに加え,カルハットからのLNG輸出にも目を向けると,オマーンが自国のエネルギーを日本へ送り出す供給拠点でもあることが見えてきます。

ただし,原油の輸送が続いていることから,LNGやLPGの供給まで十分だとは判断できません。それぞれに対応する船や荷役設備が必要で,原油用パイプラインをそのまま代替輸送に使うこともできないためです。

IEAの9月報告では,湾岸諸国の石油製品・LPG輸出は,2月に比べ約6割少ない水準にあります。このことを踏まえ,日本向けの船が航行しているという事実と,必要な量が届いているかという問題については,燃料ごとに確かめる必要があります。

日本への供給を支える,複数の経路

今回追跡した33隻のうち,フジャイラから日本へ直接向かうVLCCは11隻でした。船の数では約3分の1を占めます。フジャイラ発のダイレクト輸送が,日本向けの船舶群の中で大きな比重を持っていることが分かります。

オマーンからの輸入も続いています。「出光丸」によるミナ・アル・ファハルからの原油輸送に加え,サウジ産原油をホルムズ海峡経由でソハールまで運び,STSで積み出す動きもあります。カルハットからは,平時からの調達関係を背景とするLNG輸送が継続しています。ホルムズ海峡の外側に積出港を持つUAEとオマーンは,日本へのエネルギー供給を支える重要な存在です。

その背景には,サウジアラビアからの調達・輸送の不安定化があります。ホルムズ海峡の通航制約に加え,紅海南部の通航リスクが高まり,東西パイプラインの停止も重なりました。サウジ原油の輸送経路が制約を受ける中で,フジャイラからの直航や,オマーンからの継続的な供給の重要性が増していると考えられます。

もっとも,オマーン湾側から出航した船や,サウジ原油をエジプトで積み,喜望峰を回ってきた船が,そのまま日本まで運ぶとは限りません。今回の追跡で目立つのは,マラッカ沖のSTSで日本向けの船へ原油を受け渡す動きです。「BRIGHT HORIZON」の事例では,エジプトからの長距離迂回輸送と,喜入へ向かう輸送がつながっています。日本への供給は,直航と,複数の船による中継の両方で支えられています。

日本側には,供給確保を示す情報もあります。9月18日,石油連盟の説明として,日本の石油元売り各社が11月までの必要な原油を確保したと報じられています。今回の船舶群は,そうした調達を実際の入港へつなぐ輸送の一部と考えられます。ただし,積み替えには待機や荷役の時間がかかり,長距離迂回は船の往復日数を増やします。調達した原油を継続して届けるには,荷揚げ後の船が次の積み込みへ戻る循環も欠かせません。

今後,サウジ側の輸送制約が長引けば,フジャイラからのダイレクト輸送や,オマーンからの供給に対する需要は,引き続き強いと考えられます。ソハールでの受け渡しや,マラッカ沖での中継も,日本への輸送を補う役割を担うでしょう。

東西パイプラインが復旧すれば,ヤンブー経由の輸送が回復する余地はあります。しかし,紅海南部の通航リスクが残る間は,喜望峰経由の迂回やオマーン湾側の経路も必要になります。当面は,フジャイラからの直航,オマーンからの供給,そしてマラッカ沖での中継を併用しながら,日本への輸送を維持する状況が続くと考えられます。

1974年生。東京大学大学院情報学環教授。「ヒロシマ・アーカイブ」「忘れない:震災犠牲者の行動記録」「ウクライナ衛星画像マップ」などを制作。著書に『データを紡いで社会につなぐ』『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』『戦中写真が伝える 動物たちがみた戦争』など。

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