【解説】日本の弱点を突く中国、高市首相は折れるのか? 緊張続く日中関係
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日本と中国の関係悪化を象徴する存在が、新たに増えた。ジャイアントパンダのシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)だ。東京の上野動物園では1月、日本の多くのファンが2頭に涙ながらの別れを告げ、そして2頭は、中国行きの航空機に乗せられた。
中国政府が2頭の返還を求めたことで、日本では数十年ぶりに中国のパンダがいなくなった。
日本の高市早苗首相が昨年、中国との関係をここ数年で最も低い水準に落ち込ませる発言をした後、中国政府はさまざまな手段で圧力を強めている。
艦船の日本近海航行、レアアース(希土)輸出の制限、中国人観光客の日本への渡航抑制、国内での日本人アーティストのコンサート中止。ついには、パンダまで回収した。
対立は昨年11月、台湾が攻撃を受けた場合、日本の自衛隊が対応する可能性を示唆したように見える発言を高市氏がしたことで始まった。
中国政府は台湾を自国の領土だと主張しており、中国は武力で台湾「再統一」する可能性を否定していない。一方、自治を主張する台湾は、アメリカを主要な同盟国とする。アメリカ政府は台湾の自衛を支援すると約束している。
台湾への攻撃がアメリカと中国の直接的な軍事衝突につながり、さらに日本やフィリピンなど、周辺地域にいる他のアメリカの同盟国を巻き込むのではないか。この懸念は、長年続いている。
台湾をめぐる問題は、中国にとって絶対的な「一線」だ。「外部からの干渉」とみられるあらゆる発言に激しく反応し、この問題は中国のみが決定できる主権の問題だと力説する。
高市氏の発言直後、中国政府は相次いで非難を表明し、撤回を求めた。
高市氏の発言は、日本政府の立場や過去の日本の指導者が述べてきた内容と一致するものだと、複数の観測筋は指摘してきた。
しかし、日本の現職首相がこうした見解を公言したのは、今回が初めてだった。それが、これまでとは違った。
高市氏は、自分の発言について謝罪も撤回も拒否している。首相のその姿勢は、衆院選圧勝という結果で有権者に信任されたという受け止め方につながるだろうと、アナリストたちは指摘する。
一方で高市氏は、今後は特定のケースを想定した発言は慎むとも述べた。政権はすでに、中国側と会談するために高官級の外交官を派遣している。
しかしこうした対応は、中国側の怒りをほとんど和らげていない。
「グレーゾーン」の圧力
高市氏が一貫して態度を崩さない状況を前にして、中国は次々と絶え間なく圧力をかけ続けている。
日中間ではここ数十年来、歴史的な確執からもめごとが繰り返されてきた。しかし、今回はこれまでと違う感じがすると、アナリストたちは指摘する。
英シンクタンク「国際戦略研究所」の日本主任を務めるロバート・ウォード氏は、中国が「より幅広い分野」で日本に圧力をかけていると指摘した。
これは中国が台湾に対してとる「グレーゾーン戦略」に似た、低い圧力を拡散してかけるやり方だとウォード氏は説明する。その狙いは、「実際には常態ではない事態を常体化して(相手を)消耗させること」だという。
外交面では、中国は国連に異議を申し立て、日本と韓国との三者会談を延期している。
中国はほかの国をも巻き込もうともしており、イギリスとフランスに自国の立場への同調を求める一方、同盟国のロシアと北朝鮮には、日本を非難するよう促している。
先週のミュンヘン安全保障会議では、中国の王毅外相が西側諸国の首脳たちを前に、第2次世界大戦における日本の侵略の歴史に言及した上で、高市首相の発言を「極めて危険な展開」だと述べた。
しかし、中国は日本が痛みを感じる分野、つまり経済面突こうとしている。これも明らかだ。
中国は現在、軍民両用(デュアルユース)技術に関係するレアアースや重要鉱物などの対日輸出を制限している。これは経済的な圧力の一つと受け止められている。
日本有数の文化輸出品の一つ、ポケモンも、靖国神社で開催予定だったイベントをめぐり批判された。この神社は日本の戦没者を祀っているが、中国が戦争犯罪人とみなす人物も含まれている。このイベントは最終的に中止された。
ソーシャルメディアでは、中国のオンライン・ナショナリストたちが高市首相を攻撃している。ウルトラマンや名探偵コナンといったキャラクターが高市氏と戦う様子を描いた、人工知能(AI)生成動画を次々と投稿しているのだ。
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しかし、全体として中国のこれまでの行動は、過去の日本との対立と比べれば挑発的な度合いは低いと、米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のボニー・リン氏とクリスティ・ゴヴェラ氏は指摘する。
「これまでのところ、中国の経済的・軍事的対応は過去と比べて比較的限定的だ。ただし、さらにエスカレートする余地は十分にある」と両氏は最近の分析で述べている。
前述のウォード氏も、中国が日本に対して強硬すぎる姿勢をとらないよう、対応を抑制している可能性があると指摘する。なぜなら中国は現在、「第2次世界大戦後の国際秩序の守護者として、進んで自分たちを位置づけ」、アメリカと比べて責任ある大国として見られることを望んでいるからだという。
「駆け引きのタンゴは続く」
観測筋は、緊張がいつか鎮まった場合、以前より高い水準で落ち着く可能性が高いとの見通しで一致している。
リン氏とゴヴェラ氏は分析で、今回は双方が緊張緩和に動く可能性が低いと指摘する。中国は現在、前よりはるかに強大な国家だし、「台湾はその中国の、核心的利益の核心だ。そのため、中国政府は過去の事例以上に、強硬姿勢を取る可能性が高い」と両氏は見ている。
「中国政府はまた、高市氏を深く疑っている。明確な撤回なしに緊張緩和を図ろうとする同氏の動きを、偽善的で、さらには戦略的な欺瞞(ぎまん)に満ちたものと受け止める可能性が高い」とも、両氏は書いている。
一方の日本は、特に高市氏の衆院選圧勝を背景に、強硬姿勢を維持する意欲が国内で強まっているとウォード氏は説明。「彼女は選挙圧勝を、自分の対中姿勢が正当化された証と受け取るだろう」と述べた。
ゴヴェラ氏はBBCに対し、高市氏が防衛政策や経済政策を前進させ、日本の立場を強化するための「政治的資本」として、今回の勝利を利用する可能性が高いと話した。
高市氏は、日本の防衛関連支出を対国内総生産(GDP)比で2%に引き上げる予定を2年前倒しし、年末までに主要な安全保障戦略の改定を完了し、さらに近く経済刺激策を打ち出すと公約している。
米スタンフォード大学アジア太平洋研究センターの筒井清輝所長は、中国は「高市氏のことを、かなり強力な指導者で、いくら圧力をかけても国内で力を増す一方だとみている。なので、圧力をそれほど強めないかもしれない」と述べた。
「なので、両国の駆け引きのタンゴはしばらく続く可能性が高い」
不確定要素としては、アメリカのドナルド・トランプ大統領が高市氏を強く支持している点がある。トランプ氏は、解散総選挙の直前には異例の支持声明を発表した。
しかし、今年は米中関係がさらに緩和するとの見方が大勢だと筒井氏は話す。4月にはトランプ氏が中国を国賓訪問するほか、習近平国家主席との首脳会談が複数、予定されている。
また、今回の対立に関するアメリカの反応は「これまでのところ控えめだ。それが中国を大胆にさせる可能性がある」と、リン氏とゴヴェラ氏は書いている。
ウォード氏は、「日本側には、習氏とトランプ氏の間で何かしら大々的な取引がまとまるのではないかという強い懸念がある」と述べた。
14日には、ミュンヘン安全保障会議の傍らで、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官と日本の茂木敏充外相が会談し、強固な日米関係を確認した。
トランプ氏の訪中に先立ち、高市氏は3月にワシントンを訪問し、再びトランプ氏と会談する予定だ。
ウォード氏は、中国が圧力を強め続ける中で、日本はアメリカと分担する防衛費負担を増やして両国の協力関係を「いっそうしっかり強化」しようとするだろうし、「アメリカがこの地域への関心を失って、ふらっと離れていったりしないよう、より緊密に連携しようとするだろう」と述べた。