都会の暮らしに適応したシマリスとネズミ、頭蓋骨に変化が現れていた
都市化は動物にどのような影響を及ぼすのか? その答えの一端が、アメリカ、シカゴのフィールド自然史博物館の引き出しに眠っていた。
125年間にわたって収集された、トウブシマリスとアメリカハタネズミの頭蓋骨を分析した研究者たちは、都市環境に適応するために、こうした小動物たちが頭蓋骨の形を変えてきた事実を目の当たりにした。
進化は通常、長い時間をかけてゆっくり進むものだ。これは都市化が野生動物の体の形に及ぼす影響を示す貴重な証拠となる。
この研究『Integrative and Comparative Biology』(2025年6月26日付)に掲載された。
進化とは、通常何千年、何百万年というスパンで起こる非常に緩やかな変化である。ところが、気候変動や人間の影響を受けての環境の変化に直面すると、動物たちは急速な進化を迫られることがある。
そんな急速な進化の一例が、アメリカ、イリノイ州シカゴにあるフィールド自然史博物館のコレクションから発見された。
フィールド博物館には世界中から集められた24万5000点以上の哺乳類標本が収蔵されており、シカゴという立地から、この地域に住む、アライグマ、スカンク、オポッサム、コマツグミなどの多様な動物も数多く収集されている。
これらは過去100年以上にわたる時代ごとの環境や動物の変化を記録する貴重な資料だ。
そのおかげで、「まるでタイムトラベルしているかのように過去の動物たちを研究できます」と、今回の研究に携わったフィールド自然史博物館の哺乳類学者ステファニー・スミス氏は語る。
この画像を大きなサイズで見るフィールド自然史博物館の内部 image credit:unsplashスミス氏らがが今回調査対象としたのは、膨大なコレクションのうち、シカゴで一般的に見られる2種の齧歯類、「トウブシマリス(Tamias striatus)」と「アメリカハタネズミ(Microtus pennsylvanicus)」だ。
この2種が選ばれたのは、それぞれ生態が異なるために、都市化のストレスに対して違う反応を示すのではないかと考えられたからだ。
トウブシマリス(以下、シマリス)はリスの仲間で、主に地上で生活し、種子・ナッツ・果物・昆虫などを食べる。
一方、アメリカハタネズミ(以下、ハタネズミ)はハムスターの親戚で、地中の巣穴で生活し、主に植物を食べる。
研究チームは、シマリス132匹とハタネズミ193匹の頭蓋骨を測定。
さらにシマリス82体、ハタネズミ54匹については3Dスキャンを行い、およそ100年にわたり彼らの体がどのように変化したのかを確かめた。
その結果判明したのは、100年間でシマリスは頭蓋骨が大きくなると同時に歯列が短くなっていた一方、ハタネズミは内耳を支える骨が小さくなっていたことだ。
この画像を大きなサイズで見るフィールド自然史博物館が所蔵するトウブシマリスの標本/CREDIT: © Field Museum.では一体何が原因でこうした頭蓋骨の変化が生じたのだろうか?
研究者たちは気温の記録を調べるとともに、1940年以降の人工衛星画像などを活用して、都市化の進み具合を分析した。
すると気候変動と頭蓋骨の関係は特に見当たらなかった一方、都市化レベルとは確かな相関があることが明らかになった。
このことから研究チームは、シマリスの頭蓋骨の変化は食べ物の変化が関係しているのだろうと推測している。
都市で暮らすシマリスは人間が残した食べ物を口にする機会が多くなった。
その結果、骨格が大きくなったが、硬い種子やナッツを食べなくなったために歯は小さくなった可能性があるのだ。
この画像を大きなサイズで見る小さな頭蓋骨に並ぶ細かな歯/CREDIT: © Field Museumハタネズミは耳の骨が小さくなっていた。
その理由は都市の騒音が影響していると考えられている。「骨が小さいことで騒音を軽減できるのかもしれません」とスミス氏は語っている。
この画像を大きなサイズで見る1898年にシカゴで採集されたハタネズミの頭蓋骨と皮膚/CREDIT: © Field Museum.今回の研究は、これらのげっ歯類が、人間の作り出した環境にうまく適応できる場合もあることを示している。
だが、研究チームが本当に伝えたいメッセージは「人間がいかに自然環境に深く影響を及ぼしているか」ということだ。
「人間の環境への介入が野生動物に確実な影響を与えていることが、今回の研究で明らかになりました」と、フィールド自然史博物館の哺乳類学助理キュレーターであるアンダーソン・フェイジョ氏は語る。
「こうした変化は、あなたの目の前で起きているかもしれません。ですが、資料がなければ、その変化に気づけないのです」と、スミス氏は語っている。