富士フイルムホールディングス【4901】15期連続増配、多角化で躍進のなぜ? 成長市場でシェア独占の理由と今後の重点領域
富士フイルムホールディングスの株価が反発しています。同社は2025年4月、米リジェネロンからバイオ医薬品製造を30億ドル超(1ドル=140円で4200億円超)で受注したと公表しました。期待感から株価は一時13.2%高と急騰します。 さらに、25年8月に今期(26年3月期)の第1四半期決算を公表したところ、株価は再び反発しました。大幅な営業増益(前年同期比21.1%増)だったことが好感された模様です。中長期でも買われており、直近5年では2.1倍に値上がりしています。
富士フイルムホールディングスは23年7月に誕生した株価指数「JPXプライム150指数」の算出以来、現在までPBR(株価純資産倍率)基準で選ばれ続けています。PBRが高いということは、投資家の評価が高いことの現れです。 なぜ富士フイルムホールディングスは投資家から支持されているのでしょうか。
富士フイルムホールディングスが支持される理由の1つが、盤石な事業基盤です。同社は祖業にとどまらず、異なる事業へ相次いで参入しました。また、単に多角化しただけでなく、参入先の市場でも高いシェア獲得に成功しています。 富士フイルムホールディングスの祖業はカメラフィルムの製造です。カメラフィルムは2000年代、デジタルカメラの普及で市場が急速に縮小します。さらに、スマートフォンの台頭はカメラ自体の需要にも逆風でした。同業でかつて市場を席捲した米コダックは2012年に破綻を経験しています。 一方、富士フイルムホールディングスはカメラ以外の事業にも乗り出していました。1970年代からヘルスケア領域や印刷機、エレクトロニクス材料などに進出し、カメラ以外の収益源を構築します。 後発ながらシェア獲得に至ったのは、高い技術力が背景にあります。カメラ事業で培った光学技術は医療用の画像診断やディスプレイなどに、カメラフィルム事業で獲得した化学技術は半導体やディスプレイ向けの材料などに応用し、革新的な製品を生み出してきました。 現在では各業界で独占的なシェアを持つ製品を多数保有します。事業が分散されており、しかも高い競争優位性を持つことは、投資家の関心につながっていると考えられます。 【市場シェア上位の製品】 ・医療用画像情報システム ・X線画像診断機器 ・半導体プロセスケミカル(洗浄・乾燥・除去用の薬剤) ・半導体向けネガ型フォトレジスト ・イメージセンサー用カラーフィルター材料 ・ディスプレイ向け偏光板保護フィルム ・アナログ印刷向け刷版(さっぱん) ・デジタル印刷機 ・産業用プリントヘッド 出所:富士フイルムホールディングス 事業説明会資料 なお、近年は再びカメラ関連事業が成長しています。SNSなどからカメラ需要が喚起され、追い風になったと考えられます。富士フイルムホールディングスも「チェキ」などのインスタントカメラが人気化し、同事業は最大の収益源となっています。
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事業の全体図も確認しておきましょう。富士フイルムホールディングスは現在、大きく4つの事業を展開します。売り上げの多くは「ヘルスケア」や「ビジネスイノベーション」が占めますが、利益は「イメージング」が最大です。カメラ事業の採算性の高さがうかがえます。 ※CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)…製造および開発の受託
続いて業績です。コロナ禍でいったん減速したものの、業績は順調に拡大しています。直近25年3月期で4期連続の増収増益を達成し、売上高および営業利益はいずれも過去最高を更新しました。株主還元にも安定感があり、15期連続増配を達成しています。 今期(26年3月期)も増収増益の計画です。バイオCDMOの大型受注で売り上げが増加する見通しで、一時要因(前期の資産売却益のはく落)や為替影響を吸収し増益を目指します。なお、一時要因と為替影響を除いた実力ベースでは、営業利益は前期比9.4%増を予想します。 【富士フイルムホールディングスの業績予想(26年3月期)】 ・売上高:3兆2800億円(+2.6%) ・営業利益:3310億円(+0.3%) ・純利益:2620億円(+0.4%) ※()は前期比 ※同第1四半期時点における同社の予想 出所:富士フイルムホールディングス 決算短信
気になる事業の方向性も押さえましょう。 富士フイルムホールディングスが注力するのがヘルスケアとエレクトロニクスです。特に、ヘルスケアはバイオCDMOとライフサイエンス事業など、エレクトロニクスは半導体向け事業などを「新規/次世代事業」と位置づけ、「成長事業」と合わせ1兆6000億円を投資します(25年3月期~27年3月期)。 【新規/次世代事業】 ・バイオCDMO・ライフサイエンス(細胞・遺伝子治療) ・半導体向け先端パッケージ材料 ・エレクトロニクス材料(マイクロOLED、AR・VR) 【成長事業】 ・メディカルシステム ・バイオCDMO・ライフサイエンス(抗体医薬) ・半導体材料 ・ビジネスソリューション(DXソリューション) 出所:富士フイルムホールディングス 中期経営計画 上記を中心とした投資は、28年3月期以降にリターンが発現する見込みです。これを着実に取り込み、連結で31年3月期に売上高4兆円、営業利益率15%の達成を目指します。
若山 卓也(金融ライター)