中東情勢、習氏のダメージ 識者語るGゼロ時代のニューノーマル
世界情勢が混乱する中、中国の動向が気になる。米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦から始まった石油の供給不安は、中国にどう響いているか。5月に迫る米中首脳会談の行方は。冷え込む日中関係に光は差すか。中国の経済や社会事情に詳しい東京財団の柯隆・主席研究員に聞いた。【聞き手・宇田川恵】
「認知戦」習氏にも
――イラン紛争は中国にどんな影響を与えていますか。
目に見えない影響と見える影響があります。見えない影響は、習近平政権がわずか約2カ月のうちに2人の盟友を失ったこと。1人は殺害されたイランのハメネイ師、もう1人は米国に拘束されたベネズエラのマドゥロ大統領です。
2人とも抵抗すらできず、習政権は米国のインテリジェンス(情報収集・分析)の強さを見せつけられました。3月末に突然、北京当局が市内での小型無人航空機(ドローン)の飛行や販売を5月から禁止すると報道されましたが、これは米国への情報流出を恐れた証拠です。
世界では今、相手の心理に影響を与える「認知戦」が展開されています。習政権が今回受けた心理的ダメージは非常に大きい。
――目に見える影響とは何ですか。
中国は石油の約70%を海外に依存しており、その約半分はイランなど中東産です。これまで中国は、米国の経済制裁下にあるイランからの石油を国際市場よりずっと安く入手し、しかも人民元で決済していました。べネズエラの石油も同じで、非常に安価に、人民元で入手できたのです。この二つのメリットが一気に奪われ、経済への痛手は計り知れません。
さらに、中国は石油を輸入して多様な石油化学製品を生産し、世界中に輸出して利益を得ています。油価の高騰は痛いですが、そもそも石油が輸入できなくなれば生産停止に追い込まれます。若者の失業率が16%を超えるなど、ただでさえ高い失業率がさらに悪化しかねず、イラン紛争が長期化すれば大きな打撃です。
深刻さ増す不動産不況
――不動産バブルの崩壊で不良債権問題も厳しいとされます。
数字が公表されないので実態は分かりませんが、相当ひどい状況です。
1990年代の日本の不良債権問題と違って、中国は地方政府が絡む複雑な問題があります。地方政府はそもそも借金ができないので、投資会社を設立し、この投資会社が金融機関から融資を受けて大規模なインフラ開発などを行ってきました。
不動産バブルがはじけ、投資会社は膨大な債務を抱えましたが、これは実質的に地方政府の債務です。その額は100兆人民元を超えるとの指摘もあります。日本円なら約2400兆円。天文学的な数字です。
――そんな多大な債務にどう対応するのでしょうか。
景気が良ければ返済は可能だし、国内にはその期待が大きい。しかし中国経済は減速しています。地方政府が土地を払い下げても、入札に参加する業者もいない。2025年の不動産開発投資は前年比17・2%減と大幅な落ち込みです。不良債権問題は今後、ますます深刻化し、イラン紛争という想定外の事態が拍車をかけるでしょう。
3月に開かれた全国人民代表大会(全人代)で、政府は26年の国内総生産(GDP)成長率目標を「4・5~5%」とし、前年の「5%前後」から引き下げました。政府が目標を下げること自体が異例で、不動産不況の深刻さの表れと言えます。
――デフレも進んでいます。
そもそも景気が良くなる前提条件は、需要と供給のバランスをとることです。デフレ下の中国は供給過剰状態にあるので、需要を押し上げる政策が必要です。
しかし3月の全人代で決まった中期経済目標「第15次5カ年計画」を見ても、人工知能(AI)やロボットなど先端技術の開発強化を打ち出し、供給側を強くすることがメインです。需要が弱い中でAIを増強して省力化を進めれば、失業率はいっそう高まります。このままでは需給ギャップがさらに広がり、成長を阻みます。
本来政府がすべきことは需要側の強化であり、個人が安心して消費できる環境を作ることです。日本は「賃上げ」が叫ばれていますが、中国もそうすべきなのです。
どうなる、米中の駆け引き
――5月の米中首脳会談をどう見ますか。
今回の首脳会…